相続 遺言

生前に遺言執行人を変更したい場合の手続きについて

永吉先生、お世話になっております。
●●です。

遺言執行人を変更したい場合の手続きについて、教えてください。

(前提事項)
・Aさんは公正証書による遺言書を作成しています
・その遺言書に記載されている遺言執行人B氏は、第三者です
・Aさんと遺言執行人B氏は最近関係がうまくいっておらず、Aさんは遺言執行人B氏を変更したいと考えています

(質問事項)
1、遺言執行人を変更する場合は、家庭裁判所に申し立てをする必要があると思いますが、不仲を理由としての請求は通るのでしょうか

2、遺言書は複数ある場合には、後から作成したものが有効と思いますが、新たに遺言書を作成し、ここに別の遺言執行人を指定すれば、事実上B氏は遺言執行人とならないということになるのでしょうか
(家裁での手続きが難しい場合)

3、2が可能だとして、新たに作る遺言書の内容が遺言執行人のみを変更した内容となっていても、問題はないのでしょうか

4、後から作成する遺言書は公正証書遺言が良いと思うのですが、仮に自筆遺言書とした場合、確定日付で事後作成を示すことは無理がありますでしょうか

5、上記以外に遺言執行人を変更する方法がありましたら、ご教示お願いいたします

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①~家庭裁判所への申立て

>1、遺言執行人を変更する場合は、
>家庭裁判所に申し立てをする必要があると思いますが、
>不仲を理由としての請求は通るのでしょうか

家庭裁判所への申立てが必要となるのは、
Aさんの相続「開始後」の話になりますので、

むしろ、相続開始前であれば、
遺言書の作成で対応することになります。
(家裁への申立てはできません。)

2 ご質問②~遺言書による変更について

>2、遺言書は複数ある場合には、後から作成したものが有効と思いますが、新たに遺言書を
>作成し、ここに別の遺言執行人を指定すれば、事実上B氏は遺言執行人とならないということ
>になるのでしょうか
>(家裁での手続きが難しい場合)

ご指摘の通り、
遺言書は、遺言者が死亡するまでは、
いつでも撤回し変更することが可能です(民法1042条)。

むしろ、この手続きが正式なルートとなります。

その際には、新たな遺言執行者を誰にするかだけではなく、
明確に、B氏を遺言執行者に指定したことの撤回について記載するべきです。

遺言執行者は法律上複数人いる場合も想定されているため(民法1017条)、
ただ新たに指定するだけだと、従前の指定が撤回されたのかどうかが
不明確になるので、将来の紛争の火種になりかねません。

3 ご質問③~遺言執行者のみの変更について

>3、2が可能だとして、新たに作る遺言書の内容が遺言執行人のみを変更した内容となって
>いても、問題はないのでしょうか

はい。全く問題ありません。

例えば、
「◯年◯月◯日付の公正証書遺言の第◯条(←遺言執行者の定め)
により遺言執行者を「B」とする部分を撤回し、遺言執行者を
「◯」とする。」

等の記載でも構いません。

4 ご質問④~遺言の方式

>4、後から作成する遺言書は公正証書遺言が良いと思うのですが、
>仮に自筆遺言書とした場合、確定日付で事後作成を示すことは
>無理がありますでしょうか

もちろん、公正証書で残す方法が良いかと思います。

自筆証書遺言の場合でも、日付の自署も要件となっています。
(民法968条)
その自署した日付において、
当該自筆遺言が作成されたことが証され、その前後でもって、
撤回や変更等を判断するものです。

また、上記のように撤回を明示しておけば、
前後関係も明らかになります。

ただし、自筆証書遺言は、紛失のリスクや
偽造されたと主張されるリスクを伴うので、
できれば公正証書遺言で残しておきたいところです。

自筆証書遺言に対する
確定日付は、作成日(自筆の日と確定日付の日)に
疑義がでるおそれがあるため、

公証役場の運用として、
一律に(両者が同一の日であっても)
自筆証書遺言への確定日付の付与を
行っていないケースがほとんどかと思います。
例:http://kousyouyakuba.net/kakuteihiduke/

なお、現在は利用できませんが、
令和2年7月10日以降であれば、
法務局における自筆証書による
遺言書の保管制度を利用するというのも
選択肢としてあると思います。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

よろしくお願い申し上げます。