相続 遺言 遺留分

後見人は、遺留分の減殺請求をしなければならないのか

永吉先生、いつもありがとうございます。
●●です。

相続人に成年被後見人がいるときは、
遺留分の減殺請求をしなければならないのかについて教えてください。

1次相続時に相続人の1人が成年被後見人となり、相続税の申告期限内に裁判所に
成年被後見人の配偶者(1次相続の被相続人の養子)で申請したら認められました。
遺産分割協議書には利益相反のため、同時に相続登記をお願いした司法書士に
特別代理人の申請をしていて、こちらも認められて相続は済んでいます。

1次相続の被相続人の配偶者に現在、遺言書を書いてもらうところです。

相続人ではあるけど成年被後見人には、いつ亡くなるか分からないため、遺言の際には
財産を相続する予定はないとします。

そのような遺言書を作成し、二次相続が起きた場合には、遺留分の減殺請求を
成年被後見人の配偶者がしなくても法律上、問題はないのでしょうか?

つまり、二次相続の遺言書作成時に、成年被後見人の遺留分を考慮した遺言書を
提案しないといけないのか、なにもつけなくても法律上、問題がないならつけないように
提案しようと思います。

請求権を行使するかどうかは,その時点で裁判所と協議して決める
とありますが、一応は、裁判所に確認する必要はあるということでしょうか?
また、裁判所の判断として遺留分を行使するかの判断材料は何かあるものなのでしょうか?
遺留分の減殺請求を行使するかどうかは裁判所が決めるということで、現時点では
不確定ということなのでしょうか?

http://otasuke-souzoku.com/q_a/1330/

https://www.bengo4.com/c_4/c_1053/b_286619/

https://www.bengo4.com/c_4/c_1053/c_1616/b_508064/

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜遺留分侵害額請求権と後見人

>相続人ではあるけど成年被後見人には、いつ亡くなるか分からないため、遺言の際には
>財産を相続する予定はないとします。
>そのような遺言書を作成し、二次相続が起きた場合には、遺留分の減殺請求を
>成年被後見人の配偶者がしなくても法律上、問題はないのでしょうか?

後見人は、後見事務を行うにつき、
他人の財産を管理する者として
善管注意義務を負います(民法869条、644条)。

また、遺留分制度は、被相続人の財産の清算を受けられるという
相続人の期待を最低限度で保障するものです。

このため、
一般には、被相続人の作成した遺言の内容が、
相続人たる被後見人の遺留分を侵害する場合には、
後見人は、善管注意義務の内容として、
原則として遺留分侵害額請求権を
行使すべきとされています。

なお、今回のケースで遺留分侵害額請求権を行使する場合、
後見人である配偶者も相続人の地位にあり、
請求の相手方となるでしょうから、
利益相反の状況になり、
裁判所に対して、後見監督人または特別代理人の
選任の申立てを行うべきことになります。

他方で、後見人は、被後見人の意思の尊重や
生活、療養の監護の義務を併せて負うため、遺留分侵害額請求を
せずとも善管注意義務に違反しない例外的な場合も存在します。

例えば、本人が侵害額請求権の行使を拒絶しており、
行使した場合には生活状況が悪化する場合などです。

>つまり、二次相続の遺言書作成時に、
>成年被後見人の遺留分を考慮した遺言書を
>提案しないといけないのか、なにもつけなくても法律上、
>問題がないならつけないように提案しようと思います。

ただし、遺言作成者はあくまでも1次相続の被相続人の
配偶者ということになりますので、

税理士の先生が提案するとすれば、
遺留分侵害額請求で問題となる可能性があるが、
いずれにするかの最終的な意思決定を1次相続の被相続人の
配偶者にしてもらうことになるかと思います。

2 ご質問②〜裁判所との協議について

>請求権を行使するかどうかは,その時点で裁判所と協議して決める
>とありますが、一応は、裁判所に確認する必要はあるということでしょうか?
>また、裁判所の判断として遺留分を行使するかの判断材料は何かあるものなのでしょうか?
>遺留分の減殺請求を行使するかどうかは裁判所が決めるということで、現時点では
>不確定ということなのでしょうか?

後見人の後見事務の処理に関して、
家庭裁判所は監督の権限を有しているため、
後見人が判断に迷う事項が生じた場合には、

事前に家庭裁判所に確認を取りながら
後見事務を行うのが通例となっています。
また、これらは善管注意義務違反とならないための
事前防衛策となります。

このため、被後見人に遺留分侵害額請求権を行使する意向があるなど、
後見人に対して善管注意義務違反の責任が生じる可能性がある場合には、
裁判所に確認をとることが通例とはなっています。

なお、裁判所の意向・判断内容は、
被相続人の配偶者の死亡時における被後見人の意向、
被後見人の生活状況なども考慮して判断されるものですので、
現時点では不確定なものです。

よろしくお願い申し上げます。