掲題の件、ご質問させてください。
前提事実
・お客様は前妻と現妻がおり、前妻との子は2人、現妻との子は1人
・お客様が亡くなった場合、法定相続人は現妻、現妻との子1人、前妻との子2人
・前妻との子2人には、お客様が生存中に、遺留分を事前に放棄して頂きたい
・遺留分を放棄頂くことを納得頂くため、前妻との子2人を受取人とした生命保険に加入(契約者・保険料負担者・被保険者はお客様)
(前妻との子2人に対して提案します)
ご質問事項
①お客様が生存中に前妻との子2人に対して遺留分を放棄してもらうための手続きはどのようなことをすればよろしいでしょうか。
②上記手続きを行うにあたって、交渉ごとなので弁護士先生にお願いした方がいいのか、または司法書士の先生でも問題ございませんでしょうか。
③上記を行うにあたり、法律的に注意した方がいい点がもしあればご教示頂きたいです。
よろしくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜遺留分放棄の手続について
>①お客様が生存中に前妻との子2人に対して遺留分を放棄してもらうための手続きはどのよ
>うなことをすればよろしいでしょうか。
前妻の子2人が、家庭裁判所に遺留分放棄の申立て
を行った上で、裁判所から許可を得る必要があります。
裁判所が許可を出すか否かについては、
① 自由意思に基づくものであるか
② 放棄の理由に合理性・相当性があるか
③ 放棄と引き換えの代償給付があるか
を総合考慮して決定されることになります。
今回は、代償措置(生命保険の加入)で、
どれだけ利益が放棄者にあるかも関係するとは
思いますが、
生命保険はその後、受取人の変更等ができるものですので、
民法上の遺留分放棄ですと、裁判官によっては
嫌がる人もいるかと思います。
(下記「3」の通り、事情変更により後で
取り消される可能性が残るということですと
保身含めて、あえて許可しないという判断
はあり得るところですし、許可するかは
裁判官の裁量となります。)
一方で、母が異なり、
後々の紛争を予防するということは
遺留分放棄をすることは一定の合理性があるため、
認められる可能性は高い類型ではあります。
昔は、そもそも遺留分制度を理解している
方が少なかったため、認容率が低かった
(裁判所が意味を理解して、放棄をしている
と認定にしにくかったため)
のですが、最近の司法統計では、
約93%ほどの認容率になっています。
実際の書式例は、以下の裁判所のHP
にありますので、ご覧ください。
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_53/index.html
財産目録等は、必要になりますので、
あくまでも現状の財産については、子2名は
把握した上で、放棄するか否かを判断することとなります。
2 ご質問②〜手続の依頼先について
>②上記手続きを行うにあたって、
>交渉ごとなので弁護士先生にお願いした方がいいのか、
>または司法書士の先生でも問題ございませんでしょうか。
上記手続については、あくまでも
前妻の子2名から直接依頼を受けて
行う必要がありますので、
お客様からの交渉の依頼を受けて、
行うものではありません。
いずれの専門家が前妻の子2名から
依頼を受けた場合にも、依頼者が遺留分の「放棄」
をすることになりますので、
本当に良いのかやデメリット等の
説明・確認をする必要はあると思いますので、
利益相反の観点から、お客様から
交渉の依頼を受けた専門家が行うことは基本的にしません。
手続については、交渉とは別の専門家を紹介して、
放棄者と契約をしてもらうという形に
なるかと思います。
この手続については、弁護士でも司法書士でも、
良いと思います。
3 ご質問③〜その他、注意点について
>③上記を行うにあたり、
>法律的に注意した方がいい点がもしあればご教示頂きたいです。
一度、許可が得られたとしても、
そもそも伝えているお客様の財産が真実と
異なる場合や代償措置が許可の時点とは異なる
状況になった場合には、
放棄の取消し・撤回が認められる可能性がありますので、
ご注意いただければと思います。
なお、今回のお客様が経営者であり、
会社の「株式」を特定の者に承継させたいという
ケースでは、別途、事業継承についての遺留分の
民法特例による除外合意やオプション合意等を
利用するという方法もありますので、その場合にはまたご質問ください。
よろしくお願い申し上げます。