相続 遺言

遺言書の記載の効果と相続放棄の関係

永吉先生

お世話になります。税理士の●●です。
基本的なところと思うのですが、よく分かりませんので教えてください。

1 被相続人が遺言書で、相続人である子に個別財産の取得を記載
2 子は、被相続人が債務超過の恐れがあるため、相続放棄

という場合、遺言書ですから遺贈として取り扱われ、相続放棄した
相続人でも、遺贈の取り消しをしない限り財産を取得できるのでしょうか?

それとも、相続人に対する遺言なので相続と解釈され、遺言書で
取得するとされるべき財産について、相続放棄したため取得できない
となるのでしょうか?

大変お手数ですが、法律関係がよくわからずお尋ねします。
とりわけ、以下の2つのサイトの記述が整理できていません。

遺贈を放棄する方法とは?相続放棄との違いや注意点・相続放棄した人が遺贈を受けた場合について解説


https://www.bengo4.com/c_4/guides/1097/

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>1 被相続人が遺言書で、相続人である子に個別財産の取得を記載
>2 子は、被相続人が債務超過の恐れがあるため、相続放棄
>という場合、遺言書ですから遺贈として取り扱われ、相続放棄した
>相続人でも、遺贈の取り消しをしない限り財産を取得できるのでしょうか?
>それとも、相続人に対する遺言なので相続と解釈され、遺言書で
>取得するとされるべき財産について、相続放棄したため取得できない
>となるのでしょうか?

2 回答

(1)相続させる旨の遺言と特定遺贈

遺言により、
相続人に対して、個別の特定財産を承継させる方法は、

①相続させる旨の遺言
②特定遺贈

のいずれかになりますが、最終的には、その遺言が
どちらの効力を意図していたかの合理的意思解釈になります。

相続人に対する遺言であることから、どちらか
というのが確定されるわけではありません。

ですので、
>1 被相続人が遺言書で、相続人である子に個別財産の取得を記載
といっても、いずれかであるかを判断する必要があります。

相続させる旨の遺言と特定遺贈の違いは
主に
https://zeirishi-law.com/souzoku/igon/jikou/2
となります。

明確に「相続させる」や「遺贈する」
という文言が使われている場合には、
原則として、その通りになると考えて
いただいて良いと思います。

ご記載いただいた
https://www.bengo4.com/c_4/guides/1097/
「相続か遺贈かはどう判断するのか」の部分は、

ここが明確ではない表現
である場合に、どのような判断になるのかについて
一般論を述べています。

そして、ご指摘の通り、

①相続させる旨の遺言
→特殊型(直接財産移転の効果を含む)
の遺産分割方法の指定(相続分の指定が伴うものもある)
https://zeirishi-law.com/souzoku/igon/jikou/1#i-4

となりますので、あくまでも相続放棄すれば、
その特定財産は取得できません。

一方、
②特定遺贈
→相続ではなく、特定承継となりますので、
純理論上は、相続放棄をしたとしても、
特定承継で取得した財産ですので、放棄の対象とはなりません。

(2)②特定遺贈の場合の注意点

ただし、②特定遺贈の場合の形式論を維持すると、

特定遺贈を利用して、財産のみ特定の者に承継させ、
相続放棄をすることで、

財産を取得しながら、債務の支払いをしなくて良い
という状態が生じてしまう場合があります。

この点については、
このような特定遺贈は、
債権者からの詐害行為取消(民法424条)
の対象とされる可能性があります。

また、限定承認をした相続人に対する
死因贈与の事案についてになりますが、

相続債権者に対して、死因贈与対象となった財産
の取得を相続人が主張することは
信義則に反し、許されないとした最高裁(平成10年2月13日)
があります。

問題状況としては、債務を免れつつ、
財産を取得することを目的として、
この特定遺贈と相続放棄の形式論を利用するような
ケースと類似しており、

実際に裁判になれば、個別事情による
判断になりますが、信義則等の一般条項に基づいて
裁判所でひっくり返される可能性が高いと
思われますので、ご注意ください。

よろしくお願い申し上げます。