●●です。
遺留分侵害を考慮した遺言書の書き方について教えてください。
将来、被相続人になる予定の相続人の1人に知的障害者がいます。
その知的障害者にはすでに弁護士さんが後見人になっています。
1次相続のときは法定相続分近くの財産を提示し、遺産分割協議書により
弁護士さんが自署押印して相続は済んでいます。
とくにもめることはなく終了しています。
今回、二次相続の際の遺言書を作成したいという相談を受けました。
弁護士さんが後見人になっている相続人がいるため、遺留分を侵害していれば、
遺留分の減殺の請求はあるものと思われるため、遺留分を考慮した遺言書を
作成したいとのことでした。
二次相続の現状の試算はしています。
ただし、当然ですが、いつに発生するかは不明で、預金の増減、
賃貸物件(借入金あり)もあるため、現状の試算と変動はすることは理解していま
す。
そのような場合に、何かいい文章はありませんでしょうか?
1.現状試算した遺留分の金額に自己責任で色をつけて、だいたいの金額で遺言書を記
載する。
遺言者が痴呆になるまで、適宜、相続試算して遺言書を書き換える
(手間と公正証書遺言書で毎回作成するとお金がかかるデメリットあり)
2.相続税評価額で計算した遺産から債務葬式費用を控除した金額を基に計算した
遺留分相当額を相続させる
という文章は有効なのでしょうか?
3.そのほか何かいい文書がありましたら
教えてください。
ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>弁護士さんが後見人になっている相続人がいるため、遺留分を侵害していれば、
>遺留分の減殺の請求はあるものと思われるため、遺留分を考慮した遺言書を
>作成したいとのことでした。
>二次相続の現状の試算はしています。
>ただし、当然ですが、いつに発生するかは不明で、預金の増減、
>賃貸物件(借入金あり)もあるため、
>現状の試算と変動はすることは理解しています。
>そのような場合に、何かいい文章はありませんでしょうか?
2 ご質問に対する回答
(1)ご提示1.の方法
>1.現状試算した遺留分の金額に自己責任で色をつけて、だいたいの金額で遺言書を記
>載する。
>遺言者が痴呆になるまで、適宜、相続試算して遺言書を書き換える
>(手間と公正証書遺言書で毎回作成するとお金がかかるデメリットあり)
遺留分額は、相続が開始しないと確定しないため、
適宜変更すれば、現実値に近くなるというのは
おっしゃる通りです。
ただ、手間暇も考慮すると、大きな財産の変動が
あった場合に行うというのが現実的です。
(2)ご提示2.の方法
> 2.相続税評価額で計算した遺産から債務葬式費用を控除した金額を基に計算し
> た遺留分相当額を相続させるという文章は有効なのでしょうか?
遺留分の算定基礎財産は、
あくまでも相続時の相続財産の「時価」を
基準に判断することになります。
「相続税評価額で計算した遺産」
という記載をしても、相続税評価額が「時価」ではない
となれば、この遺言があるからといって、
遺留分侵害をしてないということにはなりません。
また、この場合の相続させる旨の遺言については、
現金ないし預貯金、不動産などを相続させる
財産を特定していない限り、
「特定の遺産」を特定の相続人に相続させる旨の遺言とは
いえないおそれがあります。
その場合、単純に、
その割合での相続分の指定があったものと解釈される
(つまり、相続財産全体について共有財産のまま)おそれがあり、
疑義が生じますので、お勧めできません。
(3)その他の方法(相続させる旨の遺言と遺産分割方法の指定)
例えば、相続人が直系尊属のみではない場合
において、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
相続人2名 甲:その他の相続人 乙:知的障害者の方
1 甲にすべての財産(積極財産・消極財産を含む)
を相続させる。
2 甲は、乙に対して、前項の代償として
乙が甲に対して、遺留分侵害額請求権を有する場合には、
その金銭を支払うものとする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
などになるかとは思います。
わかりやすさのため、すべての財産を甲に相続
させて、乙に遺留分相当額を代償金として支払うという
形にしています。
乙に不動産等を残したいという要望があれば、
それに応じて、改変する必要がありますが、論理は同じです。
ただし、元も子もない話で恐縮ですが、
この方法でも、結局は、財産の評価方法などの
指定はできないですし、
遺留分侵害額請求権が行使できるという
当たり前のことを定めているに過ぎません。
遺留分制度というものは、
そもそも最低限の相続人への保証であり、
その限度で金銭請求を認める
というもので、相続時の財産を
前提に考えることになるため、
遺言の書き方等で完全にクリアにすることは
できません。
現実的には
遺言による対応の場合には、
>(1)ご提示1.の方法
によることになります。仮にそれにより
金額にズレが生じた場合には、
請求がありそれが法的に認められるものであれば、
支払わざるを得ません。
結局のところ、厳密に行いたいという
ことですと、生前贈与をする代わりに
遺留分放棄をしてもらう等の対応が
必要になりますが、後見人が同意すること
は職務の性質上、ないと思います。
リスクをヘッジするとすると生命保険の活用など
王道の対策を併せて行うということになります。
よろしくお願い申し上げます。