会社法 税理士賠償責任

税理士の監査役としての責任

永吉先生

税理士の●●です。
ありがとうございます。

以下の点についてお教えください。

(状況)
・A社は研究開発型のベンチャー企業で非上場の会社です。
・政府系、金融機関系、事業会社系のベンチャー・キャピタルを中心に役員、従業員などの株主がおります。
・大株主は政府系ベンチャー・キャピタルで社長はマジョリティを失っております。
・役員会は創業社長とその妻、政府系と事業会社系からそれぞれ1名で、監査役は私です。
・顧問税理士は別の税理士です。
・創業以来業績が悪く、億単位の累積損失を重ねています。
・資本金が5億円以上あった大会社で会計監査人をおいていましたが、この度減資をして会計監査人は必須ではなくなりました。
・会計監査人をコスト削減のために今期に契約解除する予定です。
・従来は会計監査については会計監査人に任せていたのですが、今後は会計監査についても監査役が責任をもたないといけなくなりました。

(質問)
1)監査役の会計に関する監査責任として、従来の会計監査人と同じレベルの品質が求められるのでしょうか?
2)監査役の会計に関する監査としてこちらのチェックリストにある監査活動を行う予定です。先生のご経験の範囲においても、一般的に、税理士であるから、という理由で会計に関する注意義務を専門資格のない監査役以上に拡大されることになりますでしょうか?
http://www.kansa.or.jp/support/el009_190516_1.pdf
3)監査役として会社と責任限定契約を結んでいますが、会計に関する監査活動は、税理士の資格があっても、一般的にはどの程度の水準であれば「善意でかつ重大な過失がない」ときに該当しますでしょうか?(責任限定契約を以下に引用しております)

回答しにくい個別具体的なことで申し訳ありません。
よろしくお願いいたします。

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責任限定契約書

第1条 乙が甲の社外監査役として、本契約締結後、取締役としての任務を怠り、これによって甲に対し会社法第423条第1項の責任を負担する場合において、乙がその職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは、乙が甲に対して負う損害賠償責任は、会社法第425条第1項の最低責任限度額を限度とする。

第2条 乙が甲の社外監査役に再任され、就任した場合は、再任後の乙の行為についても本契約はその効力を有するものとし、その後も同様とする。
但し、再任後新たに甲と乙との間で会社法第427条第1項に定める責任限定契約を締結した場合は、この限りではない。

第3条 本契約について定めなき事項は、甲乙協議のうえで決定するものとする。なお、本契約締結後、関係法令、規則等の改正等があった場合は、本契約の規定はその改正法が許す限り、改正後の法令、規則等に読み替えてこれを適用する。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜従来の会計監査人と同一レベルが求められるのか?

>1)監査役の会計に関する監査責任として、
>従来の会計監査人と同じレベルの品質が求められるのでしょうか?

従前に会計監査人設置会社であった
という理由で、監査役の会計に対する責任が、
他の会計監査人を設置してこなかった
会社と比べて重くなるというようなことはないと
思います。

2 ご質問②〜税理士であることによる責任の拡大について

>2)監査役の会計に関する監査として
>こちらのチェックリストにある監査活動を行う予定です。
>先生のご経験の範囲においても、
>一般的に、税理士であるから、という理由で会計に関する注意義務を専門資格のない監査役>以上に拡大されることになりますでしょうか?

確かに、会社としては、
税理士という専門的な能力を
有していることを期待して、監査役の
就任をお願いしている面はあるかと思います。

ただ、法律の建付では、
税理士の先生は租税に関する専門家ですので、

監査役の業務である
会社法その他会社の業務執行の適法性や
会計監査(もちろんお詳しいですが)について、

一般論として、重い責任を負わされるかというと
そうとまでは言えないかと思います。

私の経験上も、結果として、
「税理士」であることが直接の原因として、
責任重くなったという経験はありません。
(もちろん、何かあった際に会社から責任が重いことの
理由付けとして、主張はされると思います。)

3 ご質問③〜責任限定契約について

>3)監査役として会社と責任限定契約を結んでいますが、
>会計に関する監査活動は、税理士の資格があっても、
>一般的にはどの程度の水準であれば
>「善意でかつ重大な過失がない」ときに該当しますでしょうか?

一般的にというと答えにくいところがあるのですが、

明らかな不正行為を認識していた(できた)
にも関わらず、何も措置を講じなったケース等が
想定されます。

会計士が「監査役」のケースになりますが、

代表取締役が不正に資金を流出させるおそれが
あったケースで、社外監査役として、反対意見書など
を提出をしていましたが、

当該代表の解職や取締役解任決議を目的とする
株主総会の招集を勧告する義務などが
あったとされ、善管注意義務違反があった
されたものもあります(大阪地裁平成25年12月26日)
が、このケースでも、責任限定契約があり、
「重過失」まではないとされています。

ですので、チェックリストにある
監査活動を行う過程で、
不正行為を疑わせる点等については、
説明を求め、説明の内容について
意見(説明不十分や理由になっていない場合)
をしていれば、

「重過失」まで認定されるケースは、
稀である(そうそうない)と考えていただいて良いかと思います。

よろしくお願い申し上げます。