相続 清算 株式 会社法

清算人が死亡した場合の手続きと相続人と連絡が取れない場合の対応

永吉先生

お世話になっております。

清算中の法人について、清算人が死亡した場合の手続きに
ついてご教授ください。

株主構成
清算人他1名 持分各50%
従前の役員 清算人のみ

この場合新たな清算人の選定にあたり具体的な手続きを
お教えください。

また、清算人に対する借入及び残余財産の分配については、
相続人への支払いでよろしいのでしょうか。
この場合においても、具体的な手続等ございましたら
お教えください。

よろしくお願い致します。

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

以下、清算中の法人について
債務超過ではなく、通常清算が
可能であることを前提に回答します。

1 ご質問①〜清算人が死亡した場合の手続き〜

>この場合新たな清算人の選定にあたり具体的な手続きを
>お教えください。

この場合、清算人に欠員が出る状態となるため、
新たな清算人の選任をする必要があります。

方法論としては、
①株主総会で選任決議を行う方法と
②裁判所に一時清算人の選任申立てを行い、新たな清算人の選任を受ける方法
があります。

通常は、①で行うことになると思います。

この場合、旧清算人から相続された株式の議決権の行使は、
遺言や遺産分割等で承継先が既に決められていれば、
その者が行使し、

そのようなことがなければ、
相続された全株式は、相続人の相続分に応じた準共有状態となっていますので、
以下の方法で、全株式について行使することになります。

⑴共同相続人間において、うち1名を権利行使者として定め、
その旨を会社に通知してもらった後、
持分50%を有する他1名と権利行使者で株主総会決議を行う
又は
⑵共同相続人の共有持分の過半数による意思決定に基づき
議決権を行使してもらい、会社がそれに同意する

なお、(おそらく使わないと思いますが)②の方法の詳細は以下となります。
http://www.courts.go.jp/osaka/saiban/minji4/dai2_5/index.html#syouji_17

2 ご質問②〜借入れ及び残余財産の分配について~

(1)借入れの返済手続きについて

新たな清算人が業務執行として
債務の弁済を行います(会社法481条2号)。

もっとも総債権者に公平な弁済を行うため、
新たな清算人は、具体的に以下の手続を経て弁済を行うことに
なります。なお、以下は、通常清算の一般的な手続きです。

①債権者に対して、2か月以上の期間(債権申出期間)を設けて
債権を申出ること、申出をしない場合には清算される
債権から排除されることを官報に公告する。

②知れている債権者に対しては、個別に、
債権申出期間内に債権を申出ることを催告する。

③条件付き債権、存続期間が不確定な債権、額が不確定な債権が
存在する場合には、裁判所に対して、債権評価のための鑑定人の
選任申立てを行う。

④各債権を弁済する。

今回は、元清算人の会社への債権は、
死亡によって、各相続人が法定相続分にしたがい個別に相続している状態
(預金ではないので、共有状態とはなっていません)です。

このため、新たな清算人は、各相続人に対して、
上記②の催告及び④の弁済を行うことになります。

(2)残余財産の分配について

残余財産の分配を行う場合は、
新たな清算人の決定によって、
株式の割合に応じて、残余財産の種類及び残余財産の割当てに関する事項
を定め、清算人の(共同)相続人及び持分50%を有する他1名に
分配を行うことになります。

今回のケースでは、この決定時に、遺言や遺産分割で
株式の帰属が確定していれば、その相続人に、

仮に確定していなければ、共同相続人の有する相続分に
応じて、各相続人に分配することになります。
(相続開始後、遺産分割前の残余財産分配請求権は、
共有とはならず、株式の持分に応じて当然分割された
金銭債権となるというのが通説的見解です。)

よろしくお願い申し上げます。

永吉先生
お世話になっております。

以前質問させて頂いた案件について
若干の進展がありましたので追加質問お願いします。

相続人は、元清算人の息子一名であり、
離婚時に元妻が引取り、長い間連絡をとっていない状況です。(成人しています。)

元清算人の弟が住所を調べ、手紙を発送するも返信なし。
訪ねても居留守をつかわれてしまいコンタクトがとれないようです。

早期に会社を清算し、借入金の返済及び残余財産の分配をしたいと考えています。
法的に連絡をとるような手段はありますでしょうか。

また、このまま連絡が取れない場合どのような手段で返済及び分配をすればよいので
しょうか。

裁判所に清算人の選任申し立が出来ることは以前ご教授頂いていますが、
今回のケースが要件を満たすのでしょうか。
また、裁判所に清算人を選任された場合において、借入金の返済及び残余財産の分配
先がなくなって
しまうように思いますが、良い方法があればお教え下さい。

その他、不動産もあるようですが、この場合においても相続放棄は3カ月以内となる
のでしょうか。

質問事項
1、相続人と連絡を取る手段
2、相続人と連絡が取れない場合において、清算事務手続きを完了する方法
3、相続放棄の期間について

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜相続人と連絡を取る手段

>早期に会社を清算し、借入金の返済及び残余財産の分配をしたいと考えています。
>法的に連絡をとるような手段はありますでしょうか。

唯一の相続人である息子が、
住所に宛てた手紙に返答しない、
住所を訪ねても居留守を使っている状況の場合には、
法的に連絡を強制する手段はありません。

もちろん、手紙の書き方の工夫や弁護士から送ることで、
開封し、連絡してくる可能性を高める
ことはできるのかと思いますが、

それは事実上のものであり、「法的に」連絡を
強制できるわけではありません(無視されれば、
無視されてしまう。)

2 ご質問②〜相続人と連絡が取れない場合において、清算事務手続きを完了する方法

>裁判所に清算人の選任申し立が出来ることは以前ご教授頂いていますが、
>今回のケースが要件を満たすのでしょうか。
>また、裁判所に清算人を選任された場合において、借入金の返済及び残余財産の分配
>先がなくなってしまうように思いますが、良い方法があればお教え下さい。

前回回答した
②裁判所に一時清算人の選任申立てを行い、
新たな清算人の選任を受ける方法を利用する要件は以下になります。

・(1)清算人になる者がいないこと
・(2)利害関係人が申立てをすることです。

>清算中の法人について、清算人が死亡した場合
>従前の役員 清算人のみ
ですので、すでに(1)の要件は満たしています。

株主や債権者が(2)の利害関係人にあたるため、
今回のケースでは他1名の株主や会社の債権者などが選任
申立てを行うことができます。
(裁判所からは、①の方法では無理なのか等は
言われるかと思いますが、最終的には認められます。)

これは、元清算人がどこまで
手続きを進めていたのかによりますが、

以下の借入金の返済を行う前に、
株主総会で財産目録の
承認を受けなければなりません(会社法492条3項)
し、

仮にこの手続きが終わっていたとしても、
借入金の返済後、残余財産分配前に
貸借対照表の承認と事務報告のための
株主総会を開催しなければなりません。

さらに、最終的な結了前にも、
決算報告の承認の株主総会決議が必要になります。

現状、50%を有する株主(相続人)が決議に
参加しないと定足数を満たしませんので、

裁判所から選任された清算人から招集通知を
送っても、反応がない場合(通常は、裁判所が
選任した第三者であれば何かしらの
連絡はあるかと思いますが。)には、
この方法でも、最終的に結了までもっていける
かは100%ではありません。
(特別清算という手続きを利用する方法もあり、
清算手続き自体に裁判所の関与があるため、
相続人が、株主総会に参加する可能性は
高くなりますが、結局は株主総会が必要ですので、
100%ではありません。)

結局のところ、破産等ではない場合、
会社を最終的に清算させるかという点は、
会社の実質的な所有者である
株主が決めることになりますので、
50%を相続人1名が保有している場合、
その者の意思の反映なく、勝手に法人を
最終的に閉めることはできないということに
なります。

ですので、現状でやれることとしては、
①専門家から株主総会に参加するように連絡する
②一時清算人より、連絡する
③特別清算手続きに移行する

という順に重たい手続きをしていき、
相続人に株主総会への参加を促すこととなります。

清算すること自体が、
相続人に不利なものではない(むしろ
お金をもらえる)ため、

遅くとも、②の段階まで行えば、
清算を結了できる可能性は高いかと思います。

ただし、手紙で、お金を渡したい旨等の
説明の仕方を工夫することは続けられた方が
良いと思いますが、それでも難しい場合には、

専門家の関与なしに自力(裏で税理士の先生がサポートするものも含む)
で手続きを進めることは困難だと思います。

純粋に、借入金の返済を債権者が受領してくれない
場合や少数株主への残余財産の分配であれば、
供託等を利用する方法がありますが、

今回は、そもそも株主総会を相続人の関与なしで
行えないということですので、詳細な説明は割愛します。

3 ご質問③〜相続放棄について

>その他、不動産もあるようですが、
>この場合においても相続放棄は3カ月以内となるのでしょうか。

相続人である息子は、息子が相続を知ったときから3カ月以内に限って、
相続放棄を行うことができます。

>元清算人の弟が住所を調べ、手紙を発送するも返信なし。
>訪ねても居留守をつかわれてしまいコンタクトがとれないようです。

ということで、本当に手紙が住所に到達し、その中に
元清算人が死亡したことが記載されている場合には、
その時から3ヶ月となるでしょう。

今後、どのように進めていくかについては、
このように複雑なケースとなると、
個別判断も大きく伴うことになりますので、

ご希望があれば、その他の株主さまと
無料面談のご利用もご検討ください。

よろしくお願い申し上げます。