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特定遺贈・包括遺贈の判定及び遺産分割協議書の作成について

永吉先生

いつもありがとうございます。●●です。

●特定遺贈・包括遺贈の判定及び遺産分割協議書の作成について

<登場人物>

①養子である法定相続人A(同族会社の代表者)
②養子である法定相続人B(Aの配偶者)
③被相続人の甥である受遺者C

法定相続人はAとBのみです。

<遺言書の内容>

第1条
遺言者は、不動産(1000号)を甥Cに遺贈します。

第2条
遺言者は、同族会社株式をA及びBに相続させる。
(割合はこの両名と遺言執行者が相談の上決める)

第3条
遺言者は、前各条に記載した財産以外の遺言者の有する
一切の財産(第1条に記載した不動産以外の遺言者の有する
不動産は売却してその代金を含める)を、前記甥CとAの両名に、
それぞれ各2分の1の割合で遺贈し、もしくは相続させる。

第4条
遺言者は、遺言執行者として〇〇〇を指定する

●質問1(特定遺贈又は包括遺贈の判定)

受遺者Cが取得する第3条に記載する財産は、
特定財産を除いた財産についての包括遺贈に該当する認識で合っていますでしょうか?

●質問2(遺産分割協議書の作成)

受遺者Cが取得する第3条に記載する財産が、
特定財産を除いた財産についての包括遺贈に該当した場合は、
第3条に該当する財産のみ、
AとCの遺産分割協議書を作成することになると思いますが、

①代償分割による方法が可能でしょうか?
(Aが不動産を全部取得希望、Cが代償債権として現金の取得を希望)

②遺産分割協議書の記名押印欄は、AとCのみで大丈夫でしょうか?

●補足

・遺言書の第2条記載の同族会社株式の取得割合は、
AとBの遺産分割協議書を別途作成する予定です。

・第3条に該当する財産は、不動産(複数)、預金、貸付金です。

宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

ご質問の遺言書については、
法的に重大な疑義や矛盾を含んでおり、

このような遺言書を残されてしまうと、
その後の実務的な対応(税務及び登記含む)を
どうしていくのかを含め、非常に困難な問題が
生じます(なので、生前に疑義がでないような
形で遺言書を作成しておくことが重要になります)。

以下、長文になりますが、ご了承ください。

1 ご質問①(特定遺贈又は包括遺贈の判定)

(1)包括遺贈か特定遺贈か

>受遺者Cが取得する第3条に記載する財産は、
>特定財産を除いた財産についての包括遺贈に該当する
>認識で合っていますでしょうか?

第3条の形式だけ見ると、
東京地判平成10年6月26日等
で認められている一部の特定財産を除いた
包括遺贈となるようにも見受けられます。

ただし、この地裁判決等は、
この(除かれた)一部の特定財産自体
は、「特定遺贈」又は「相続させる旨」
の遺言により、遺言の効力発生と同時に、
「これらの財産が当然(確定的)に移転」することで、

遺産分割の対象の「遺産」から
外れている状態を前提として認められているものです。

つまり、厳密には、
単純に「一部の特定財産を除いた包括遺贈」
を認めたわけではなく、

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「特定遺贈(または特定の財産が遺言の効力発生により
当然(確定的)に移転する相続させる旨の遺言)」
+
「上記特定遺贈の財産を除いた包括遺贈」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
という類型を認めたものです。
(そうでなくては、ご指摘の問題意識も
同じかと思いますが、各財産により、
遺産分割の協議者が異なるという民法が
想定していない事態を認めることになって
しまうからだと考えられます。)

本件でいうと、

>第2条
>遺言者は、同族会社株式をA及びBに相続させる。
>(割合はこの両名と遺言執行者が相談の上決める)

とされている意味が、

【①「株式を1/2ずつの割合で確定的に取得させる」という意味のもの】
または
【②「株式についてはA・Bに帰属するように遺産分割で決めてねという
移転の効力を有しない純粋な遺産分割方法の指定」という意味のもの】

のいずれと捉えるのかによって最初の条件分岐があるところかと思います。

仮に①だとすると、
第3条は包括遺贈と考えることになりますし、

仮に②だとすると、さらに
第3条は、
【②ー1 その他の財産について、1/2の持分の特定遺贈】
または、
【②ー2 第2条の株式を含む包括遺贈】

と評価がわかれることになるでしょう。

(2)どのような解釈になるのか?

遺言の解釈は遺言書の条項の形式的な記載、
遺言書全体の記載、遺言書作成当時の状況等から
遺言者の合理的意思解釈によることになります。

そして、今回の遺言の場合、心苦しいですが、
最終的にどのような判断がされるのかについては、

例えば、裁判(登記申請の可否、税務、民事含む)になれば、
裁判官や弁護士の主張の適切さによって、
まちまちになるような領域と思われます。

ア 第2条からの判断

>第2条
>遺言者は、同族会社株式をA及びBに相続させる。
>(割合はこの両名と遺言執行者が相談の上決める)

からすると、その帰属割合については、
両名と遺言執行者が相談の上決めるとなっており、

遺産共有から外にでた共有状態を解消する
という話になぜ遺言執行者がでてくるのかを含め、

【①「株式を1/2ずつの割合で確定的に取得させる」という意味のもの】

と解することと矛盾しています。

ですので、2条の記載のみからすると、

②「株式についてはA・Bに帰属するように遺産分割で決めてねという
遺言により移転の効力を有しない純粋な遺産分割方法の指定」
と捉え、

【②ー1 その他の財産について、1/2の持分の特定遺贈】
または、
【②ー2 第2条の株式を含む包括遺贈】

のいずれかとするいう解釈に整合的かと思います。

イ 第3条を含む遺言書全体からの判断

>第3条
>遺言者は、前各条に記載した財産以外の遺言者の有する
>一切の財産(第1条に記載した不動産以外の遺言者の有する
>不動産は売却してその代金を含める)を、前記甥CとAの両名に、
>それぞれ各2分の1の割合で遺贈し、もしくは相続させる。

第2条からすると、
【②ー1 その他の財産について、1/2の持分の特定遺贈】
【②ー2 第2条の株式を含む包括遺贈】

が整合的なのですが、

第3条は、
「前各条に記載した財産以外」とされており、
【②ー2 第2条の株式を含む包括遺贈】
という解釈とは明らかに矛盾します。

そうすると、
【②ー1 その他の財産について、1/2の持分の特定遺贈】
となりそうです。

しかし、第3条、特に、
>(第1条に記載した不動産以外の遺言者の有する不動産は売却してその代金を含める)

という指定は、あくまでも包括遺贈を
前提にしなければ、意味のない記載となります。

特定遺贈であれば、その他の財産について、
確定的に1/2共有持分で、AとCが取得したこと
になるので、その売却等について、遺言者がどうこう
言えるものではないからです。
(言い方を変えると、1/2の特定遺贈と判断される
ということは、その後共有持分の分割は、遺産分割ではなく、
純粋な「共有物の分割」になるからということです。)

トートロジー的な説明になりますが、
第3条の存在を前提(包括遺贈とする趣旨)に、
第2条を記載した趣旨からすると、
包括遺贈を可能にする趣旨で、第2条は、株式を
相続の外に出すためにされたと解釈し、

【①「株式を1/2ずつの割合で確定的に取得させる」という意味のもの】
であったと解釈できないわけでもないかと思います。

このような点を重視すると①による包括遺贈という考え方になります。

大変心苦しいのですが、
今回の遺言の解釈で重要となると、第2条、第3条の記載が
真っ向から矛盾しているため、

①、②−1、②−2
いずれと解釈されるかは、裁判で争い白黒つけるしかない領域か
と考えられ、確定的な判断ができないところです。

2 ご質問②(遺産分割協議書の作成)

>受遺者Cが取得する第3条に記載する財産が、
>特定財産を除いた財産についての包括遺贈に該当した場合は、
>第3条に該当する財産のみ、
>AとCの遺産分割協議書を作成することになると思いますが、
>①代償分割による方法が可能でしょうか?

第2条を
【①「株式を1/2ずつの割合で確定的に取得させる」という意味のもの】
として包括遺贈ということでしたら、そのような解釈になります。

また、
【②ー2 第2条の株式を含む包括遺贈】
と考えるのであれば、単なる確定的な効力が
生じない遺産分割方法の指定(Cにはそのような
遺産分割をすることを債権的に義務付けるもの)
にすぎませんので、A・B・Cで行うことが必要です。

一方、
【②ー1 その他の財産について、1/2の持分の特定遺贈】

と解するということですと、
A・Cで共有物の分割合意をして、
代償分割をすることは可能です。

ただし、この場合、書面のタイトルが「遺産分割協議書」
とされていたとしても、
法的には、A・Cの通常の共有物分割の合意ということになるので、
相続税の問題ではなく、譲渡所得の問題となりますし、
登記原因等も、相続や遺贈によるものではなくなります。

なお、
>・遺言書の第2条記載の同族会社株式の取得割合は、
>AとBの遺産分割協議書を別途作成する予定です。

とのことですが、

第2条を
【①「株式を1/2ずつの割合で確定的に取得させる」という意味のもの】
と解すると、遺産分割ではなく、AとBの共有物の分割合意

【②ー1 その他の財産について、1/2の持分の特定遺贈】
と解すると、指摘の通り、A・Bの遺産分割

【②ー2 第2条の株式を含む包括遺贈】
と解すると、A・B・Cで遺産分割をする
ということになります。

3 実務上の対応について

今回のケースが、A・B・Cが全員
相続人であれば、争いさえなければ、
遺言の効力に疑義があったとしても、
実務的には
遺言と異なる遺産分割も認められている以上、

A・B・Cでまとめて遺産分割をして、
その協議書により、登記や税務対応が可能
なところです。

ただし、今回は、Cが相続人ではないため、
【②ー1 その他の財産について、1/2の持分の特定遺贈】

という解釈も比較的あり得るとなると、
そもそも、Cが遺産分割に参加する根拠自体がなくなるため、
実務上の対応がかなり悩ましいところです。

しかも、裁判まで行かないケースでは、
上記のような
第3条の記載のみから、登記関係も税務関係も
【一部の特定財産を除いた包括遺贈】
の一部の特定財産の扱いについての法的意味は検討されず、
包括遺贈と扱われる可能性もあります。

(私の経験上、本来は登記が通りそうにない
ものでも、その法務局の職員のレベルにもより、
通ってしまうということはありますし、税務上も、
調査官が気がつかず、第3条から純粋に株式以外の包括
遺贈であり、かつ、株式もA・B2名で遺産分割できる
という矛盾したものでも、そのまま認められるということは
多々あると思います。
公正証書遺言でも、公証人から指摘を受けず、そのまま
作成されてしまうという現実がありますので。)

遺言書がこのように作成されてしまった以上、
裁判までしなければ、本当の意味で確定的な判断ができませんので、

法務局や税務署との関係の中で、
依頼者さんにリスクも踏まえた上で、意思決定
してもらう以外に方法がありません。

特に第3条の財産(不動産)については、
法的に正しいかどうかは別として、

法務局に事前照会をかけて、どのような
形なら登記が入るのかを折衝した上で、
進めていくしかないものと思います。
(相続・遺贈の登記を入れることが可能か、
それとも譲渡(売買・交換・贈与)等の登記
になるのか等を含む)

なお、税務申告の対応としては、
複数の認定があり得ることのリスクと
他の認定がされた際に生じる加算税リスク
を依頼者に説明した上で、行う必要があるかと
思います(税賠リスクが伴うため)。

よろしくお願い申し上げます。