民法 その他

契約書の一部について合意していない場合(印紙税絡み)

永吉先生

お世話になります、●●と申します。
株式会社甲の税務調査において、以下(前提)の契約書の印紙の貼付漏れを指摘され
ております。
よろしくお願い申し上げます。

(前提)
◯ 株式会社甲(受注者)と株式会社乙(発注者)が請負に関する契約書を作成
◯ 乙作成の「契約書ひな形」を基として、数回「契約案」をメールでやり取りし
た。
◯ 金額や納期等については双方異論はなかったが、検収の条件等が甲にとって納得
のいかないものだった。
(以下便宜上、金額や納期等異論のないものは「A箇所」、折り合っていない部分
は「B箇所」とする)
◯ 「B箇所」については決着しないまま、作業開始となった。
◯ その後納得しないまま契約書を2通作成し、乙が契約書1部に印紙を貼付・割印
をして2通を甲に送付、
甲が残りの1部に印紙貼付・割印をして返送する予定だったが、 その段階で甲が
『やはり「B箇所」に
ついては納得がいかない』となり、返送しないまま現在も甲が2通を保持してい
る。
つまり、
契約書1通目:乙の記名押印あり、甲の記名押印あり、印紙の貼付(割印)あり
契約書2通目:乙の記名押印あり、甲の記名押印あり
となっている。
◯ 現場レベルでは、乙側が『「B箇所」については、うまくやるよう事務方に言っ
ておくから』と、
いわば「口約束」のようなあいまいな形となった。
◯ 作業自体はトラブルもなく完了し、契約書記載の金額どおりに入金された。

(お尋ねしたいこと)
【1】 契約書記載の契約が履行されたと考えるのか
(1)記名押印した契約書が存在していても、返送をしていない(納得していない意
思表示)ため、契約書による契約は成立しておらず、
「A箇所」についてのみ、いわゆる”口約束”で成立した
(2)記名押印した契約書が存在しているため、「A箇所」については成立(有効)
し、「B箇所」について成立していない(無効)
(3)単純に渡し忘れていただけで、契約書すべてが当然に有効

【2】 契約の成立時期はいつになるのか。
(1)口約束で当事者が了承した日
(2)契約書を作成したとき
(3)契約書を返送したとき
(4)契約書が相手方に届いたとき

(蛇足)
◯ 一般的な契約・契約書
契約とは、互いに対立する意思の合致によって成立する法律行為であり、この合
意によって成立した契約の内容を、
当事者の間で証明するために作成された文書が契約書
◯ 印紙税法別表第一課税物件表の適用に関する通則5における契約書
契約書とは、契約の成立等を証すべき文書をいい、一定の文書で当事者間の了解
または商慣習に基づき契約の成立等を証すること
とされているものを含むものとする。
・ 契約の成立等
契約(予約含む)の成立若しくは更改
又は
契約の内容の変更若しくは補充
の事実
・ 一定の文書
契約の当事者の一方のみが作成する文書
又は
契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書
◯ 印紙税法基本通達第12条、第14条、第44条

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①

>【1】 契約書記載の契約が履行されたと考えるのか
>(1)記名押印した契約書が存在していても、返送をしていない(納得していない意
>思表示)ため、契約書による契約は成立しておらず、「A箇所」についてのみ、いわゆる”口
>約束”で成立した
>(2)記名押印した契約書が存在しているため、「A箇所」については成立(有効)
>し、「B箇所」について成立していない(無効)
>(3)単純に渡し忘れていただけで、契約書すべてが当然に有効

法的には、契約は、当事者が表示した意思が合致した
内容にしたがって成立します。

契約書は、この意思の合致があったことを証明するための
書面に過ぎません。

そして、印紙税の課税文書になるか
とは関係ないと思いますが、

◯ 作業自体はトラブルもなく完了し、
契約書記載の金額どおりに入金された。

甲は、乙からB箇所を含めた契約内容の提案を
受けていたことになります。
この状況では、甲はB箇所の条件を飲まない場合には、
甲との契約を締結しないという選択もとれることになります。

それにもかかわらず、甲が作業に着手し、
報酬の支払いを受けた場合ですと、B箇所についても
、甲乙間に意思の合致があったと判断される可能性が
極めて高いと言えるでしょう。

また、
◯契約書1通目:乙の記名押印あり、甲の記名押印あり、印紙の貼付(割印)あり
◯契約書2通目:乙の記名押印あり、甲の記名押印あり

ということですと、
「B箇所」についても、この契約書が
存在している以上、そのような契約ではなかった
という立証することは困難でしょう。

ですので、先生のご指摘でいうと
>(3)単純に渡し忘れていただけで、契約書すべてが当然に有効

が最も近いと考えられます。

2 ご質問②

>【2】 契約の成立時期はいつになるのか。
>(1)口約束で当事者が了承した日
>(2)契約書を作成したとき
>(3)契約書を返送したとき
>(4)契約書が相手方に届いたとき

上記の通り、厳密には
>(1)口約束で当事者が了承した日
となります。

ただ、これが証明できない(どう判断され
るかも事案による)ため、
契約書をしっかり作って明確にしましょう
ということになります。
(メール等が残っていれば、そのやりとり
等から判断することになります。)

今回は、遅くとも、仕事に着手した時点が
契約の成立時点になるかと思います。

3 印紙税との関係について

印紙税はあくまでも契約に課される
ものではなく、契約内容を証明する
文書に課されるものです。

少なくとも、
仕事の内容とその対価(契約金額)の
記載があることにより今回の契約内容を
証明するものとなっていますので、
(仮に、B箇所が契約書通りでない契約で
あったとしても、民事上は、民法・商法に
より規律されるだけです。)

> 契約書1通目:乙の記名押印あり、甲の記名押印あり、印紙の貼付(割印)あり
> 契約書2通目:乙の記名押印あり、甲の記名押印あり
> となっている。

ということですと、2通目の契約書にも、
甲が記名押印した時点で、納税義務が成立している
ことになります。

上記の「B箇所」や契約自体の
成立の有無の観点から、
反論するということ自体については
良いと思いますが、

法的に判断するとそれが何であったとしても、
今回、課税文書ではないということは
できないのではないかと思います。

よろしくお願い申し上げます。