相続 贈与 株式 遺留分

相続放棄と株式の生前贈与の特別受益(遺留分等)の関係

■前提条件
1.父が保有する自社株(非上場)全部を生前贈与(特例事業承継税制を適用)
2.贈与時の株価を100、相続時の株価を1,000
3.贈与実行から相続発生まで10年以内
4.相続時に父が保有していた相続財産は50(生前贈与した自社株除く)
5.父の相続人は、長男・長女の2人(二次相続)

■質問
父の相続発生後、長男が正式に相続放棄(民938)を行った場合、父の相続発生前10年内の自社株贈与については、
当初から相続人でなかったことになるため(民939)、特別受益者とならず、持ち戻し計算が行われないという理解でよいでしょうか。

1 ご質問

>父の相続発生後、長男が正式に相続放棄(民938)を行った場合、
>父の相続発生前10年内の自社株贈与については、
>当初から相続人でなかったことになるため(民939)、
>特別受益者とならず、持ち戻し計算が行われないという理解でよいでしょうか。

2 回答

特別受益の「持ち戻し計算」という意味が
相続財産への持戻しか?(民法903条)
遺留分の算定基礎財産に含まれるか?(旧民法1029条1030条、
新民法1044条1項、3項)

の議論なのか、判然としないところがありますので、
両者に分けて解説します。

(1)相続財産への持戻し(民法903条)がされるか。

こちらの特別受益の「相続財産」への持戻し
(民法上のみなし相続財産)

については、相続人間での問題になりますので、
おっしゃる通り、相続放棄すれば、持戻し対象には
なりません。

こちらの問題は、
今回の相続法改正で、10年に限定される
わけではないので、ご注意ください。

なお、従前より、父が持戻し免除の意思表示を
生前にすることで、相続放棄をしなくとも、持戻し
対象外とすることは可能です。

(2)遺留分の算定基礎財産に含まれるか?

こちらが今回の相続法の改正の10年限定等の影響を
受ける部分になります。

おっしゃる通り、
相続放棄を行うと特別受益者とはなりませんので、
「特別受益」としての贈与としては、
現状の理解では、遺留分の算定基礎財産に含まれないことと
なるでしょう。

一方、遺留分の場合には、
第三者への贈与であっても、
相続開始1年以内の贈与であれば、遺留分の算定基礎財産に
含まれます。
(1年か、10年かという意味で違いがでます。)

ただし、ご存知の通り、この場合でも、
「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与を
したとき」

にあたれば、
1年より前の贈与も遺留分の算定基礎財産に
含まれることになります。

なお、
「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与を
したとき」のリーディングケースとされる
大判昭和11年6月17日では、

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
①当事者双方(贈与者及び受贈者)が贈与当時、
贈与財産の価額が残存財産の価額を超えることを知り、
かつ、
②将来相続開始までに被相続人の財産に何らの変動も
ないであろうこと、少なくともその増加がないであろ
うことを予見していた
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
場合とされ、その判断には、

「贈与財産の全財産に対する割合だけではなく、
贈与の時期、贈与者の年齢、健康状態、職業などから
将来財産が増加する可能性が少ないことを認識してなされた
贈与であるか否かによるものと解すべき」とされています。

ご質問に、
贈与時の残存財産についての記載等が
ないので、なんとも言えませんが、
最終的には事実認定と評価の問題となります。

よろしくお願い申し上げます。