役員報酬 株式 会社法

株主間の金銭トラブルについて

「前提」

<人間関係>
・A社:2018年2月設立、飲食店(客単価約3万円の寿司店1店舗)を経営
・甲:A社代表取締役 寿司職人 A社株式の50%を所有、日本人
・乙:A社の株式の50%を保有、創業時にA社に4000万円を貸付
   香港在住の資産家の息子(20代前半、香港人、社会人になったばかり)
   経営には全く携わっていない。携わる能力もない。
※乙は甲の前職時代の客であり、友人。
※弊社はA社と税務顧問契約を締結。甲を支援する立場です。

<A社1期目(平成31年1月期)決算内容>
売上高   7520万円
売上原価  3500万円
売上総利益 4020万円

販売管理費 3220万円
 内、A及びAの妻の役員報酬 800万円
   接待交際費       200万円
Aの生命保険料     160万円
   Aの社宅代        60万円
   減価償却費       200万円
その他販売管理費   1800万円

営業損益  800万円

税引後利益 680万円

純資産額  780万円

<第1回交渉時>
1期目の決算後、甲と乙にて、A社から乙への配当や利息の金額について話し合いをしたところ、
乙から下記の法外な金額の要求がありました。

・税引後利益に、A及びAの妻の役員報酬、接待交際費、Aの生命保険料、Aの社宅代、減価償却費等を
 加算し、乙への配当や利息の計算用の利益を算定。その利益の半額を乙への配当や利息として毎年支払う。
(ざっと試算したところ、毎年1000万円~2000万円)

配当や利息については、法人設立時に一切取り決めはなく、都度話し合いで協議すると口頭で約束していました。

<第2回交渉時>
あまりにも、法外な要求と感じた甲は乙に、銀行から融資を受け、借入の即時返済と乙所有の株式の買取を提案しました。
乙からは、Aの役員報酬と生命保険料は加算しなくてもいいと譲歩はありましたが、甲にとってはそれでも法外と思える内容でした。

<第3回交渉時>
乙が甲への予告なしに弁護士をたて、3000万円ならば株式を売ると提案してきました。
借入については、2019年9月までに元本と利子(金額未定)を支払い、
株式については、2021年中に売買代金の支払いをすることを要求してきました。
(売買代金の支払いが完了するまでは、株式の名義は、乙のまま、その間の配当は不要)

懸念事項
節税的な生命保険の加入や役員報酬については、株主総会を通して 決定しておりませんでした。
当初は、友好的でお任せな感じでしたが、ここに来て急に態度が豹変し、無茶な要求に
転じて来ました。

「質問」

①乙が提案した株式の購入価格3000万円については、どう見ても割高に感じており、
金額を引き下げたいと考えていますが、どの様な交渉が可能でしょうか?
尚、代表取締役の甲は、超有名店で修業した腕の確かな職人です。
(A社が運営している店舗は開店1年で食べログで4を超え、世間的に高評価を得ており、すべて甲の実力です)
そのため、A社は甲がいないと、会社の経営は成り立ちません。

②乙の代理人より、要求に応じない場合は、訴訟を起こすこともできると言われたらしいのですが、
どのような訴訟を起こされることが想定されますか?

③議決権割合は半々なので、一方的な無理強いには応じるつもりはありませんが、
できればこのままお店は続けたいので、借入の返済と 株式の買い取りを
常識的な範囲で進められればと希望しておりますが、どのように進めるのが宜しいでしょうか?

以上です。
宜しくお願いします。

1 ご質問①について

>①乙が提案した株式の購入価格3000万円については、
>どう見ても割高に感じており、
>金額を引き下げたいと考えていますが、
>どの様な交渉が可能でしょうか?

そうですね。甲がいくらで株を買い取るかも、
乙が株をいくらで売却するかもそれぞれの自由ですので、
(売れという権利もなければ、
買えという権利もない。)

株式だけであれば、
その金額が高いため買い取らないよ
というのが基本スタンスにはなります。

ただし、今回は、できれば、
売って欲しいという状況ですので、

相手方提示の金額では買い取れないと拒絶し、
常識的な範囲で買い取るとなれば、
一定の計算額(純資産価格等)を算定した結果を用いて
交渉すべきかと思われます。

>(A社が運営している店舗は開店1年で食べログで4を超え、世間的に高評価を得ており、すべて甲の実力です)

また、このような事情があるのであれば、
甲としては、そのような請求に応じなければ
ならないのであれば、もう働かないという
ことで、主張する(または借入金が払えない
ので、破産する)
というのも1つかとは思います。

ただ、この主張は最終手段でしょう。

(安易に他の店で運営するということになると
法人格否認や詐害行為にもなりえますので、
ご注意ください。また、勝手に業務を止めると
代表取締役としての善管注意義務違反に基づく、
損害賠償請求もあり得るところです。

弁護士がついているということで、
その辺りも、認識した上で、
この金額の主張をしていると思われます。)

2 ご質問②について

>②乙の代理人より、要求に応じない場合は、訴訟を起こすこともできると言われたらしいのですが、
>どのような訴訟を起こされることが想定されますか?

具体的なご事情により変更はあり得ますが、
ご提示の前提事実からは、以下の4つが想定できます。

①貸金につき、貸金返還請求訴訟
②無効な役員報酬につき、株主代表訴訟による不当利得返還請求
③無効な役員報酬につき、任務懈怠責任に基づく損害賠償請求訴訟
④株式会社解散の訴え

ちなみに、配当要求に関しては、
株主総会決議がなければ配当請求権も
生じないため、考慮する必要はないと思われます。

①貸金返還請求訴訟に関して

乙のA社に対する貸金の返還を求める訴訟です。

>配当や利息については、法人設立時に一切取り決めはなく、
>都度話し合いで協議すると口頭で約束していました。

というご事情ですと、
利息を支払う旨の合意はありつつも、
その内容が定まっておらず、現状、争いとなっていることから、
年5%の割合の計算となると思われます(民法404条)

期限の合意の有無は定かではありませんが、
合意があれば、その期限までは、訴訟において、
請求が認められる可能性は低いといえます。

合意のない場合、請求のあったときに
全額返済しなければならないことになり、
それ以降は遅延損害金も発生します。(民法412条3項)

契約書がない場合でも、
創業期に貸付けをして、約1年で返済
というのは、通常考えられないと主張して、

何かしら合意があったというのを、貸付の経緯等から
立証していくことになるとは思います。

この辺りは、従前のやりとりの経緯など
極めて、個別的事情の問題になりますので、
いただた事情のみでは、見込み等も何とも
言えないところです。

②不当利得返還請求

定款に定めもなく株主総会決議にも基づかない
役員報酬の支払いは無効となります。

すると、役員である甲は請求権がないにもかかわらず、
役員報酬相当額(生命保険料も)を受領しているので、
これをA社に返還する必要があります。
(もちろん、従前の経緯から乙も同意していた
という反論はありえますし、それが認め
られるかは個別事情によります。)

本来であれば、A社の債権なので、
乙の出る幕ではないのですが、
株主には、提訴請求権があり、会社がこれに従わない場合には、
株主が訴訟提起することができる制度があります(株主代表訴訟、会社法847条)。

ただし、あくまで会社の代わりに提起する訴訟ですので、
乙に直接請求額が支払われるものではありません。

甲が、敗訴した場合にはA社に返還することになります。

乙としては、株価の算定にあたり、
その債権も評価に入れた金額で提示してくる
ということなのでしょう。

③損害賠償請求訴訟

役員が総会決議を経ずに役員報酬を支払った
ということが任務懈怠にあたることを前提に、
会社に損害が生じたことで、乙が間接的に損害を被ったとして、
損害賠償を求めてくることが考えられます。

任務懈怠の内容は、具体的事情により、種々の主張が予想されます。

④解散請求訴訟

現在A社はいわゆるデッドロック状態です。
甲乙が反発しているため、株主総会が一切機能しなくなっています。

すると、株式会社が業務執行において著しく困難な状況に
至っていると評価されるおそれがあります。(会社法833条1項1号)

>(A社が運営している店舗は開店1年で食べログで4を超え、
>世間的に高評価を得ており、すべて甲の実力です)

ということですと、店舗経営は安定しているようなので、
A社に回復不可能な損害が生じるとは考え難い事情かと思われます。

その意味では、解散請求が認められるかは
不透明といえますが、強制的の乙がA社の利益を
持っていくことができる点で、乙にとって非常に有効な手段です。
(利益がでるとすれば、乙としては、
ある程度長くA社で運営した方が有利なのかとは
思いますが、)

乙としては、
上記②により会社に役員報酬を返還させた
上で、解散すれば、株主として、
その半額が自分のものであるというような話に
利用してくるものと思われます。

3 ご質問③について

>③議決権割合は半々なので、一方的な無理強いには応じるつもりはありませんが、
>できればこのままお店は続けたいので、借入の返済と 株式の買い取りを
>常識的な範囲で進められればと希望しておりますが、どのように進めるのが宜しいでしょうか?

デッドロック状態であることを逆手に、
価格を釣り上げていると予想できます。

確かに、決議のない役員報酬などこちらに不利な面はありますが、
相手の主張に全面的にのる必要はありません。

ただ、正直、先方に弁護士が入っており、
ここまで対立が深刻化している状況からすると

甲ご本人が対応されるのは
かなり難しい事案ではないかと思われます。
(弁護士でも解決にかなりの労力を要する
事案でしょう。)

ご希望があれば、ひとまず、
お客様とご一緒に無料相談をご利用ください。

よろしくお願い申し上げます。