どうぞよろしくお願い申し上げます。
(1)前提条件
法人が、役員の建物を年払いで賃借します。
法人は、家賃の取扱いについて、短期前払費用の適用を受けることを希望しています。
(2)質問
短期前払費用の適用を受けるための年払家賃の契約書の内容は、以下のとおりでよろしいでしょうか?
第2条(賃貸借期間)
本契約に基づく賃貸借(以下「本件賃貸借」という。)の期間は、令和1年6月24日から令和11年6月23日までの10年間とする。
ただし、契約期間満了日の6カ月前までに当事者の一方から書面による別段の意思表示がない場合は、本契約は自動的に10年間延長されるものとし、以降も同様とする。
第4条(賃料)
本契約の賃料は、年額1,800,000円(消費税別)とし、1ヵ月に満たない期間の賃料は月額150,000円(消費税別)を1ヵ月30日として日割した計算した額(1円未満
切り捨て)とする。
2 借主は、毎年7月1日から6月30日までの賃料に消費税相当額を加えた額を、毎年6月1日から6月30日までに、貸主名義の次の口座に振り込む方法により支払う。
(3)参考資料
短期前払費用の取扱いについて
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/02/03.htm
【照会要旨】
事例2:期間20年の土地賃借に係る賃料について、毎年、地代年額(4月から翌年3月)241,620円を3月末に前払により支払う。
事例5:期間10年の建物賃借に係る賃料について、毎年、家賃年額(4月から翌年3月)1,000,000円を2月に前払により支払う。
【回答要旨】
・ 事例1から事例4までについては、照会意見のとおりで差し支えありません。
・ 事例5については、法人税基本通達2-2-14の適用が認められません。
【関係法令通達】
法人税基本通達2-2-14
>短期前払費用の適用を受けるための年払家賃の契約書の内容は、以下のとおりでよろしいでしょうか?
>第2条(賃貸借期間)
>本契約に基づく賃貸借(以下「本件賃貸借」という。)の期間は、令和1年6月24日から令和11
>年6月23日までの10年間とする。
>ただし、契約期間満了日の6カ月前までに当事者の一方から書面による別段の意思表示がない
>場合は、本契約は自動的に10年間延長されるものとし、以降も同様とする。
>第4条(賃料)
>本契約の賃料は、年額1,800,000円(消費税別)とし、1ヵ月に満たない期間の賃料は月額1
>50,000円(消費税別)を1ヵ月30日として日割した計算した額(1円未満
>切り捨て)とする。
>2 借主は、毎年7月1日から6月30日までの賃料に消費税相当額を加えた額を、毎年6月1日か
>ら6月30日までに、貸主名義の次の口座に振り込む方法により支払う。
2 回答
短期前払い費用の特例
(法人税基本通達2-2-14)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_02_02.htm
は、法律や税法というよりも、
企業会計の重要性の原則を根拠
に例外的な処理を認めるものですが、
今回のご質問のご趣旨は、
「その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合」
といえる契約になっているか否かであると思いますので、
重要性の原則等の詳細な解説は割愛し、
その部分について回答します。
なお、当通達ですが、裁判例上は、
「当該前払費用をその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することを認めると
課税上弊害が生じる場合には、当該前払費用は重要性が乏しいとはいえないので、
上記通達後段は適用されないものと解するのが相当である。」
(東京高判平成17年9月21日(最決平成18年11月24日上告不受理で確定))
とされるものですので、個別事情の下、適用の際にはご注意ください。
(特に役員等との取引ですので)
以下では、説明の便宜上、
(1)第4条2項の懸念点
(2)第2条の懸念点
(3)代替案
という流れで解説したいと思います。
(1)第4条2項の懸念点
通達を厳密に解釈すると
「その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合」
とされており、
>毎年7月1日から6月30日までの賃料に消費税相当額を加えた額を、毎年6月1日か
>ら6月30日までに
という条項で、
例えば、6月1日に支払った場合には、終期が1年を超える
(初日不算入により計算するとしても、翌年6月2日以降の役務提供分)
ことから、厳密に見ると、1年以内の役務提供に係る支払いではない
ということとなってしまいます。
(これを根拠に適用が認められないという考え方を主張する
実務家の先生もいらっしゃるようです。)
ただ、そうすると、
例えば、ご指摘いただいている
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【照会要旨】の事例4
期間4年のシステム装置のリース料について、12ケ月分(4月から翌年3月)379,425円を3月下旬に支払う。
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も1年を超える役務提供に係る支払いになるので、
許されないとなりそうですが、重要性の原則という抽象的な概念
を具現化した通達になりますので、
実務上はある程度の幅をもたせて、「月」単位で問題ないとされているものだと思います。
【照会要旨】の事例5から
変に5月に支払われてしまっては困るので、
お客様にちゃんと伝えるという意味で、
先生のご指摘の規定でも良いと思います。
(なお、繰返しになりますが、法律等に根拠があるわけではなく、
あくまでも実務上許容される範囲という曖昧なものとなります。)
また、現状の規定では、前払いなのか後払いなのかが
明確ではありませんので、修正が必要かと思います。
((3)参照))
(2)第2条の懸念点
>本契約に基づく賃貸借(以下「本件賃貸借」という。)の期間は、令和1年6月24日から令和11
>年6月23日までの10年間とする。
という部分で、6月24日からと
されている理由はわかりませんが、
これを前提にすると、
(更新前の)最後の支払の際に、
6月分も含めて支払うと更新されるか否かわからない
24日~30日の間の部分まで支払がなされており、
そもそもの「前払費用」にあたるのかに疑義が出ます。
ですので、特段問題がないのであれば、
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本契約に基づく賃貸借(以下「本件賃貸借」という。)の期間は、令和1年6月24日から令和11
年6月30日までとする。
ただし、契約期間満了日の6カ月前までに当事者の一方から書面による別段の意思表示がない
場合は、本契約は自動的に10年間延長されるものとし、以降も同様とする。
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という形の方が良いかと思いました。
なお、仮に役務提供開始自体を令和1年7月1日にする
場合には、前払費用と言える形にするために、
6月中に契約をし、令和1年7月1日~の役務提供の
対価を、契約日後令和1年6月末までに支払う形の契約と
する必要があります。
また、先生のご提示の契約文案では、
令和1年6月24日から6月30日までの
役務提供(賃借)の対価をどのように支払う
のかが明示されていませんが、こちらも
6月中に支払う前提でしょうか。
この点も定められた方が良いかとは思います。
この場合、「前払いが継続」していなくては
ならないという考え方も存在するようですが、
契約開始直後の端数?のみであるということからすると、
実務上は問題ないとは思います。
(3)代替案
先生ご提案のものでも、必ずしも短期前払費用の
実務上おかしいわけではないと思いますが、
できる限り、原文を残した形で、上記の解説を
前提に修正したものを掲載しておきます。
(役務提供が6月24日開始であることを前提)
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第2条(賃貸借期間)
本契約に基づく賃貸借(以下「本件賃貸借」という。)の期間は、令和1年6月24日から令和11
年6月30日までとする。
ただし、契約期間満了日の6カ月前までに当事者の一方から書面による別段の意思表示がない
場合は、本契約は自動的に10年間延長されるものとし、以降も同様とする。
第4条(賃料)
1 本契約の賃料は、年額1,800,000円(消費税別)とする。
ただし、令和1年6月24日から同年6月30日までの賃料は、月額150,000円(消費税別)を
1ヵ月30日として日割した計算した額(1円未満切り捨て)とする。
2 借主は、貸主に対して、毎年7月1日から6月30日までの賃料に消費税相当額を加えた額を、
当該期間開始1か月前の6月1日から同月30日までに、貸主名義の次の口座に振り込む方法により支払う。
ただし、前項但書きに規定する賃料については、令和1年6月末までに支払うものとする。
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よろしくお願い申し上げます。