当該投資契約の締結について、利益相反取引として株主総会決議(取締役会設置会社の場合は、取締役会決議)をとるべきでしょうか?または、決議をとることが一般的でしょうか?
投資契約は多くの場合、投資家のVCのほか、発行会社、経営株主(通常発行会社の代表取締役)の三者間の契約となるかと思いますが、形式的には、経営株主と発行会社間の取引とも考えられなくもないのかと思ったためです。
例えば、経営株主個人の表明保証違反や契約違反により(発行会社は何も違反をしていなくても)、発行会社も連帯して、VCが取得した株式の買取義務やVCに対して損害賠償義務を負う場合、利益相反取引に該当する恐れがあるといった観点です。
会社法的には明確な答えはない論点なのかもしれませんが、会社法上の解釈のほか、実際上どうしていることが多いのかもご教示頂ければ幸いです。
(私の知り合いに確認したところ、念のため決議を取ったという話もありました)
よろしくお願いいたします。
>ベンチャーキャピタル(VC)から
>投資を受ける場合に、株式引受契約や
>株主間契約といった投資契約を
>締結することが一般的かと思います。
>当該投資契約の締結について、
>利益相反取引として株主総会決議
>(取締役会設置会社の場合は、
>取締役会決議)をとるべきでしょうか?
>または、決議をとることが一般的でしょうか?
場合により、判断は分かれますが、
基本的には、利益相反にあたることを前提に、
承認を得ておいた方が無難です。
実務上も、特に取締役会において
承認することに問題がないのであれば、
そのように対応することが多いかと思います。
(または利益相反にならないような
規定の置き方を明確にする。)
2 回答の理由
利益相反には、
直接取引と間接取引という類型が
あります。
(1)直接取引(会社法356条1項2号)の該当性について
まず、投資契約の当事者に関して、
三者間の契約であるからといって、
必ずしも各当事者間に契約関係が
あるというわけではありません。
投資契約であれば、基本的には、
①発行会社とVC間の契約
②経営株主とVC間の契約
の二つの契約が1通の契約書でされているに
過ぎないと思われます。
投資契約の中身を見て、発行会社が
経営株主に対して義務を負ったり、
逆に、経営株主が発行会社に対して義務を
負ったりするような条項があれば格別、
そうでないならば、発行会社と
経営株主との間に締結される契約は
ないといってよいでしょう。
したがって、投資契約は、一般的には、
直接取引(会社法356条1項2号)には
該当しないと考えられます。
(2)間接取引(会社法356条1項3号)の該当性について
間接取引とは、会社の犠牲のもとで、
その会社の役員が利益を得るような
外形を持つ取引をいいます。
役員の債務保証を会社が
するような契約が典型例です。
投資契約においても、発行会社と経営株主が
連帯して損害賠償義務を負う場合には、
間接取引にあたる可能性があります。
厳密に考えると、
(A)会社が負う義務につき、会社が違反した場合に役員が連帯責任を負う
という規定であれば、もともと会社が
負っている義務の保証ですので、
会社の犠牲のもと、役員が利益を得るという
間接取引ではありません。
一方、
(B)役員が負う義務につき、役員が違反した場合に会社が連帯責任を負う
という規定がある場合、
会社の犠牲のもとで、その会社の役員が利益を得る
ことになりますので、間接取引に該当すると考えられます。
投資契約においては、誰が何の義務を負うのか
という点があまり明確にされていなかったり、
双方とも同じ内容の義務を負うかのような
記載がされていることが散見されます。
すると、経営株主の義務違反の責任を
発行会社が連帯するという間接取引に
あたりうるのかという点が、
あまり明確に線引きされていないものも
多いです。
>(私の知り合いに確認したところ、
>念のため決議を取ったという話もありました)
したがって、このように間接取引に
当たるかもしれないということを前提に、
利益相反取引の承認を得ておく
ということをしてるのだと考えられます。
利益相反取引の該当性がないと、
明確には言い切れないものも多いので、
承認はとっておかれた方がよいかと思います。
あまり、想定できませんが、
とりたくないということですと、
個別の条項をVCと交渉して明確な
形に変更する等の措置も可能だとは思います。
よろしくお願い申し上げます。