①募集株式に係る募集事項の決定を取締役会に委任できますが、会社法200条3項で「払込期日又は払込期間の末日が、当該委任に係る株主総会決議の日から一年以内の日である募集についてのみその効力を有する」とあります。
②A社(6月決算会社)は、2018年5月に、200条1項の委任に係る総会決議(募集株式100株、払込金額@10,000円)を行いました(従業員持株会への発行用)。
③A社は、2019年2月に別途総会決議を行い、同月に、ベンチャーキャピタル(VC)に対して、募集株式1,000株、払込金額@15,000円で、増資(新株発行)を行いました。
④A社は、②の委任決議に基づき、取締役会決議を行い、2019年3月に、従業員持株会に対して、増資(自己株式処分)を、②の条件で行いました。
(質問)
②で取締役会に対して委任をした後に、③で②の委任決議とは異なる条件で増資を行いましたが、②③それぞれ株主総会決議を行っていますので、③④の増資とも有効という理解でよろしいでしょうか(大丈夫かとは思うのですが、例えば、③の決議を行ったことにより、会社法上②の委任決議が取り消されてしまい、④の増資のために別途株主総会決議が必要になるといったことはないか、懸念しております)?
よろしくお願いいたします。
>②で取締役会に対して委任をした後に、
>③で②の委任決議とは異なる条件で増資を行いましたが、
>②③それぞれ株主総会決議を行っていますので、
>③④の増資とも有効という理解でよろしいでしょうか
>(大丈夫かとは思うのですが、例えば、
>③の決議を行ったことにより、
>会社法上②の委任決議が取り消されてしまい、
>④の増資のために別途株主総会決議が
>必要になるといったことはないか、
>懸念しております)?
結論としては、
ご質問いただいていることの他に無効事由がなければ、
特に③及び④のいずれの増資も有効です。
2 回答の理由
募集株式の発行にかかる募集事項は、
募集の都度定めることとされています(会社法199条1項)。
すると、②と③は、別の募集株式発行について
株主総会決議がされたのであって、
一方が他方を排するような内容の決議がなされていない限り、
それぞれの効力には影響がありません。
そのうち、②について、具体的な内容の決定を
取締役会に委任しているというだけです。
株主総会が、取締役会に募集事項の
決定を委任した場合でも、
特定の発行の一部の条件に関して
決定権を委任したにすぎず、
株主総会が募集株式発行の権限自体を
失うわけでもありません。
なお、VCと投資契約書等を締結
している場合には、その後の新株発行に
事前承認が必要などの定がある場合が
ありますので、その点は契約書を
ご確認ください。
上記の通り、株式発行が有効という前提は
変わりませんが、契約違反となっている
可能性はあります。
よろしくお願い申し上げます。
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先ほどお送りした表記のご質問について、
ご質問の趣旨とは異なるかと思いましたが、
以下、補足させてください。
下記の回答の通り、
株主総会の委任決議(①)と実際の発行(④)の間に
別途株主総会決議による発行(③)を行ったとしても、
③、④の発行は、有効です(決議の効力が相互に
関連しあうものではありません)。
ただし、仮にVCが委任決議の存在等を知らず、
株式の引受人となっているという事情があると、
錯誤による無効主張が理論上はありえます(民法95条)。
(実務上はVCがこの主張をしていることは
見たことがありませんが)
この錯誤による主張は、VCが主張しなければ、
意味を持たない主張となりますので、そのまま
有効とされます(ここでは、「取消し」
と意味あいは同じであるという考え方で捉えていただき
問題ありません)。
そして、株式の引き受けについては、
・株主となった日から1年を経過した後
・株主としての権利行使(議決権の行使等)した後
の錯誤の主張は認められません(会社法211条2項)。
錯誤の要件は、以下の私のブログに記載が
あります。
https://zeirishi-law.com/minpou/sakugo
仮にVCが錯誤の主張をしていきた場合、
それが認められるには、(ⅰ)?(ⅲ)の要件が
必要になり、なかなか厳しい主張かとは
思います。
(ⅰ)③の契約時点において、
過去に株主総会で他の株式を発行
を取締役会に委任されていないことが表示
(黙示の表示も含まれる)され、
法律行為(契約)の内容となっていたか
(動機の錯誤であるため、錯誤部分の表示
が必要になります。)
(ⅱ)・ 当該錯誤がなければVCはその意思表示をしなかった(因果関係)
・通常一般人も、その意思表示をしなかったといえる程度に重要であった(客観的重要性)
と評価できるか
この辺りは、VCの持株比率の低下や
有利な金額による発行でどれだけ損失
を被ったかや契約締結に至るまでのVCとのやりとり
や投資契約書の内容等からの推認等により
ケースバイケースとなります。
こららは、裁判になれば、証拠の有無や
裁判官の考え方、弁護士の腕等
様々な要素の影響を受けますので、
どちらになるということはお答え
できない部分です。
関係資料をご共有いただき、
無料面談等であれば、ある程度の見込みが
判断できるかと思いますので、必要が
あれば、ご利用ください。
(ⅲ)VCに重過失がなかったこと
VCという専門性のある人格と
捉えられ、エンジェルの投資等よりも
重過失が認められやすいとは思います。
ただ、この部分についても、出資にいたる
具体的なやりとり等によるところになるかと思います。
なお、仮にわざと隠して、VCに出資させた
(という証拠がある)ということですと、
詐欺(民法96条1項)による取消しもあり得るところです。
また、無効とはならないまでも、
契約違反もありえますので、
その点は最初の回答の通り、ご確認ください。
よろしくお願い申し上げます。