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給与課税される生命保険契約についての考え方

表題の件について、ご教示頂ければ幸いです。

次のとおり、給与課税される生命保険契約を前提とします

・契約者 法人
・被保険者 法人の役員
・保険金受取人 法人の役員又はその遺族

この保険契約の保険料を、契約者である法人が支出した場合、
役員に対する給与として損金算入するとともに、源泉徴収義務が生じます。

【ケース1:中途解約した場合】
保険事故発生前に中途解約した場合、解約返戻金は
契約者である法人に支払われ(雑収入処理)、役員は解約返戻金を受け取る権利がありません。

過去に給与課税を受けていたことを考慮して、法人が役員に金銭支給した場合
その金銭に対して、更に給与課税等が行われてしまい、役員側においては
二重課税となってしまいます。
法律上の整理では、これは致し方ないことなのでしょうか。

【ケース2:契約変更した場合】
法人の資金繰り(保険料負担)の都合などで、保険契約者を法人から役員に変更する場合、
保険代理店の話では、過去に給与課税されている保険なので、特に課税関係無く
契約変更が可能であると言われました。(根拠が見つけられませんでした。)

 ケース1と比較して整理すると、解約返戻金相当額の課税関係が生ずるのではと
 懸念していますが、法律上はどのように整理して考えれば良いのでしょうか。

以上です。
どうかよろしくお願いします。

生命保険等に関する税務については、
必ずしも、論理的に定まる
ものではなく、裁決例や裁判例も
更正内容を前提に争点になっている
部分のみ判断(むしろ、それが裁判のルールなのですが・・・)
をしているため、すべてが論理的に整合する考え方を
示しているわけではないように思います。

以下では、現状存在する考え方の
対立に私見を交えて回答します。

1 ご質問①〜【ケース1:中途解約した場合】
解約返戻金相当額の給与課税と二重課税の問題

(1)ご質問
>契約者 法人
>被保険者 法人の役員
>保険金受取人 法人の役員又はその遺族

>保険事故発生前に中途解約した場合、解約返戻金は
>契約者である法人に支払われ(雑収入処理)、役員は解約返戻金を受け取る権利がありませ
>ん。
>過去に給与課税を受けていたことを考慮して、法人が役員に金銭支給した場合
>その金銭に対して、更に給与課税等が行われてしまい、役員側においては
>二重課税となってしまいます。
>法律上の整理では、これは致し方ないことなのでしょうか。

(2)回答

こちらについては、法律上の整理というよりは、
税務上、どのようなタイミングで、
どのように契約関係の経済的利益を評価
するのかということの問題で、
法律の整理上致し方ないというわけでは
ないかと思います。

ですので、見解の対立もあるところです。

ア 有力な考え方(雑収入と賞与等)

有力な考え方としては、
ご指摘の通りの処理となるかと思います。

つまり、
保険料支払段階での、給与課税は、
あくまでも、
「契約期間中に事故が起これば
保険金を取得できる経済的地位」
(表現は意味が伝わりやすいように
私独自の表現です。)

についてのものであり、

解約返戻金自体は、契約解約段階に
おいて、契約者(法人)に帰属する
経済的利益であり、その利益を
別途法人が、役員に対して、
支給したという意味では、上記の
「契約期間中に事故が起これば
保険金を取得できる経済的地位」
とは、別の経済的利益に対する給与課税
であり、二重課税にはなっていないという
考え方かと考えられます
(「クローズアップ保険税務〜生命保険金
酒井克彦[編著・監修]83頁等は、
この考え方を前提とした記載であると思われます。)

イ 預り金勘定等とするという考え方

一方で、このような二重課税の
問題があるという先生の疑問と
同様の問題意識から、法人サイドでは、

預り金(または仮受金)勘定で、
処理することが適切である
という見解も存在します
(生命保険税務と周辺問題Q&A
株式会社星和ビジネスリンク
税理士岩崎敏等P139)。

ただし、こちらの見解が掲載
されている書籍でも、
雑収入として処理する方法(上記「ア」の方法)と併せて
記載され、具体的に処理する場合には
税務署に相談するようにとの記載がされています。

ウ 私見

法的に解約返戻金の請求権は、
あくまでも、契約者から保険会社に対してのもの
になります。

預り金等として処理するには、解約返戻金
相当額を保険契約が解除されれば当然に、
法人が役員に支払う義務を負うという
前提がなければ難しいように思います。

ですので、少なくとも、解約返戻金を
法人側で預かり金として処理できるのか?といわれる
と難しいのではないかとは思います。

2 ご質問②〜【ケース2:契約変更した場合】
契約者変更に伴い課税関係が生じるのか。

>保険契約者を法人から役員に変更する場合、
>保険代理店の話では、過去に給与課税されている保険なので、特に課税関係無く
>契約変更が可能であると言われました。(根拠が見つけられませんでした。)
>ケース1と比較して整理すると、解約返戻金相当額の課税関係が生ずるのではと
>懸念していますが、法律上はどのように整理して考えれば良いのでしょうか。

こちらについても、ケース1同様に、
特に法律上の整理から結論が必然的に導かれるわけではありません。

上記の有力な考え方を前提にすると、
ご指摘の通り、過去に給与課税
されている
「契約期間中に事故が起これば
保険金を取得できる経済的地位」

とは別の契約上の地位(契約を解約すれば、
解約返戻金を受け取ることができる地位)

を取得することになりますので、

先生のご懸念の通り、
契約者変更時に、課税関係が生じる
という考え方と整合的です。

一方で、ケース1の預り金勘定等として
処理する上記の考え方を前提にすると、
そもそも、解約返戻金相当額の経済的価値は、
役員に帰属しているという考え方と整合的ですので、
契約者の変更があっても、経済的価値の移転があるわけではない
という考え方に近くなります。

>保険代理店の話では、過去に給与課税されている保険なので、特に課税関係無く
>契約変更が可能であると言われました。(根拠が見つけられませんでした。)

確かに今回のように保険金受取人の変更を伴わない
契約者の法人→個人の変更の場合、どこまで課税されているのか
という点に疑問はありますが、

少なくとも、上記有力な考え方を
前提にすると、「過去に給与課税されている」
というのは、課税関係が生じないことの
根拠になるとはいえないかと思います。

よろしくお願い申し上げます。