相続 遺言 遺留分

異父の妹に対する貸付金の相続財産性と遺留分について

1. 私(姉)と妹は、母は同じ。 私の父は母にとって最初の夫。 妹の父は、二番目の夫である。

2. 第一次相続(平成12年11月二番目の夫である父死亡)による相続税納税資金として2千万円を母が妹に平成13年9月貸付けした。
①金銭借用書あり
②返済期日 平成18年12月30日
③利息 2%
④連帯保証人 妹の夫

3. その後平成13年に50万円返済、平成14年に50万円返済して、残1900万円は返済なしで、返済意志もなし。

4. その為、平成18年12月30日返済期日を過ぎたので、内容証明郵便で平成19年5月28日に催告書を、妹と妹の夫に郵送しました。 その後現在まで返済意思なし。

5. 第二次相続である母が、平成30年12月17日に死亡しました。
なお、私(姉)と母の養子である私の夫に「全ての財産を相続させる」との遺言公正証書を平成20年5月15日に作成してあります。
それに従って、アパートを含む財産の、名義変更をしました。しかし、アパートローン7千万円は、公正証書に記載がなかったので、妹が押印せず、銀行として単独債務に処理できず現在に至っています。

★質問★
① 妹に対する貸付金は、第二次相続の相続財産に計上すべきでしょうか? (時効が成立するか?)

② 妹が今回、遺留分の請求をした場合この貸付金との関係は、どうすべきでしょうか?

1 ご質問①~妹に対する貸付金の相続財産性

>妹に対する貸付金は、第二次相続の相続財産に計上すべきでしょうか?
>(時効が成立するか?)

民事上の時効と課税判断の関係については、
かなり複雑な問題を含みますので、
今回の事例判断に必要な範囲で回答します。

(なお、最近私が、
●「民事・税務上の『時効』解釈と実務 税目別課税判断から相続・事業承継対策まで」

書籍を出版しまして、ちょうど会員の皆様には
来週前半には、プレゼントとして郵送いたします。
「Q48:P241」が今回の
質問と同種の事例を扱っておりますので、
厳密な法的解釈や争いについては、そちらをご覧ください。)

返済期日から判断すると、
平成29年12月30日終了時点
で、「時効の完成」はしています。
(返済期日前の一部弁済やその後
内容証明等を送られていますが、
今回は結論に影響を及ぼしません。)

ただし、
民事上は、債権が消滅するには、
時効の完成のみでは足りず、
債務者の債権者に対する「時効の援用」(妹が「私と私の夫」に対する時効
の利益を受けますという意思表示)
がされるまでは、債権は消滅しませんので、
相続財産に含まれることになります。

現在、ご事情からすると時効の援用はされていない
状態ということでしょうから、相続財産に含まれる
ことになるでしょう。

(1)今後時効の援用がされた場合

仮に今後、時効の援用がされた場合ですが、

今回のように、
時効完成後に相続が開始し、その後時効の援用が
なされた場合については、

相続税法上は、消滅時効については、
明確な裁判例等はない部分ですが、

時効の援用時点を基準に考えますので、
「相続財産」には、含まれることになると
解されます。

ただし、財産評価の問題として、援用されればいつでも
消滅する債権であったとして、時価「0円」と
評価して良いものと考えます。

つまり、時効の援用が、
相続税申告期限までになされれば、

0評価で良いですし(実務上は、金額が
変わらないため、相続財産に計上しない
ということでも問題はないでしょう)

仮に、申告後になされた場合には、
財産評価についての更正の請求が可能と
解して良いでしょう。

ですので、相続税のことを
考えるのであれば、
申告期限前に返還の請求をし、
時効の援用をするかしないかの態度を
はっきりしてもらうのが良いでしょう。

(2)時効の援用がなく申告期限を迎えた場合

なお、時効の援用がないにも関わらず、
財産としての価値0として、当初申告をしても
良いのか?という点は、

時効が援用されるかされないかが不確定
な状況で、
具体的な事情により財産評価通達1の(3)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/hyoka_new/01/01.htm#a-1
の事情考慮により、0と言えるかという問題になります。

個人的には、時効が完成している債権を
第三者が購入するとは考えられないので、
0円という評価で良いのではないかとも思いますが、

債権の評価についての減額は、
税務実務(裁判実務含む)上、かなり厳しい判断が
される現状がありますので、

もしされるのであれば、
依頼者にリスクを説明し、回収努力をしたが
返答がない等の証拠を整備した上で、行う
必要があるでしょう。

2 ご質問②~妹から遺留分請求があった場合

この場合も、理論上は、時効の援用がされていない
現状ですと、遺留分の対象財産に含まれるが、
その評価をどうするのかという問題になります。

ただし、民事上は、上記の税法上の解釈と異なり、

時効の援用がなされると、その効果が、
時効の起算日(平成18年12月30日)まで、
遡求します(民法144条)ので、時効の援用が
あれば、相続財産には含まれないと考えて良いでしょう。

そして、今回のケースで、妹が時効の援用をせず、
仮にこの貸付金債権も含めた形で、
遺留分請求をしてきた場合、

むしろ妹は1900万円を支払わなくては
ならなくなります。

一方で、遺留分で貸付金を含めて請求した
場合、1900万円× 1/3 × 1/2
遺留分減殺請求に増額されるだけですので、

妹が遺留分で貸付金を含めて請求した
場合には、むしろ妹が損をするというだけです。

したがって、姉(私)の立場からすれば、
気にする必要はないでしょう。

3 蛇足

以下は、ご質問と直接の関係はない点になります。

>なお、私(姉)と母の養子である私の夫に「全ての財産を相続させる」との遺言公正証書を
>平成20年5月15日に作成してあります。
>それに従って、アパートを含む財産の、名義変更をしました。
>しかし、アパートローン7千万円は、公正証書に記載がなかったので、妹が押印せず、銀行
>として単独債務に処理できず現在に至っています。

とのことですが、

遺言内容を前提とすると、
相続人内部の負担割合としては、

このアパートローン7千万円は
私(姉)とその夫が負担する(妹は
負担しない)ことになるかと思います。

この点については、ちょうど本日、
配信した税理士向けのメルマガにて
取り上げています。

以下に転載しますので、ご参考になさってください。

よろしくお願い申し上げます。

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遺言により有利に財産を相続しても、
債務は他の相続人と同一負担か?

税理士のための法律メールマガジン
2019年6月7日(金)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

さて、今回は、ある相続人が有利となる
遺言があるケースでも、

被相続人の債務は、すべての相続人が
法定相続分により負担することに
なるのかという点について、解説したいと思います。

例えば、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯被相続人X
◯相続人 子A 子B
◯遺言に「全ての財産財産をAに
相続させる」旨の記載あり
◯Xには1000万円債務がある
~~~~~~~~~~~~~~~~~~

というようなケースです。

遺言では、特定の債務の承継のみを
目的とすることはできない(例えば、
「1000万円の債務はBに相続させる」等)

ため、

負担付き遺贈(または相続させる旨の
遺言)としたり、特定の財産と紐付け
遺贈をしたりする必要があります。

それでは、上記のような遺言では
1000万円の債務について法定相続分通り、
AとBで500万円ずつと考えるのか、

それとも、全てのAが負担すると考えるのでしょうか。

この辺りは、各相続人の相続税申告に際して、
債務控除にも影響がある部分になります。

1 相続人間における債務の負担割合

「相続させる」旨の遺言は、「特定遺贈」とは異なり、
「相続分の指定」も伴うと解釈されることがあります。

特に、今回のような全部の財産を1名に相続させる旨の
遺言は、長年争いのあるところでしたが、
最高裁平成21年3月24日により一定の決着ついて
いるところです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
最高裁平成21年3月24日
相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により
相続分の全部が当該相続人に指定された場合・・・省略・・・
特段の事情のない限り・・・省略・・・相続人間においては,
当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継するこ
とになると解するのが相当である
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

この最高裁判例から、
相続人間では、Aが相続債務の全てを相続することになる
と考えられます。

つまりは、相続分の指定(法定相続分の変更)
が伴うものであると解釈されることから、

債務についても、その指定された相続分割合
(今回のケースでは、A100%)
で相続されることとなります。

2 被相続人の債権者との関係

ただし、相続人間では、
Aが1000万円全額の債務を負担するとしても、
被相続人の債権者との関係では注意が必要です。

つまり、債権者との関係では、債権者の同意がない
限り、法定相続分で、A・B500万円ずつ
債務を負うことになります。

遺言(遺産分割も同様)による債務の承継は、
被相続人側で決めるものであり、債権者には
関係ないことにもかかわらず、

被相続人側の意思で、
勝手に誰に債権を請求できるの決められる
とすると債権者としてはたまりません。

つまり、恣意的にお金のない人に債務を承継されては、
回収ができなくなるおそれが高まりますが、
それは認めませんよということです。

「1」は、あくまでも相続人間の問題であり、

Bは、債権者に対して、500万円の債務を
負いますが、

仮にBが500万円を債権者に支払った場合には、
BはAに対して、500万円を請求できる

という意味になります。

3 相続税申告の債務控除はどう考えるのか?

債権者との関係では、
法定相続分割合によって債務を負う
一方、
相続人間では、Aが全相続債務を負担することになる
ということで、相続税申告上、債務控除はどのように
考えるべきかという問題があります。

議論がない部分ではないですが、
相続税法第13条(債務控除)の規定が、
「その者の【負担】に属する部分」という表現を用いてる
ことから、Aが全ての相続債務を債務控除できる
と考えて問題ないでしょうし、

実務上もそのように運用されています。