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持分放棄で取得した財産の譲渡所得と取得費

土地の持分放棄はみなし贈与として取扱われますが(相基通9-12)、それを譲渡した場合の取得費はどうなるでしょうか。
みなし贈与は取得費を引継という条文はないですが、課税庁の実務では、贈与課税時の時価を取得費としているみたいですがどうでしょうか。
1 ご質問と結論

>土地の持分放棄はみなし贈与として取扱われますが(相基通9-12)、
>それを譲渡した場合の取得費はどうなるでしょうか。
>みなし贈与は取得費を引継という条文はないですが、
>課税庁の実務では、贈与課税時の時価を取得費としているみたいですがどうでしょうか。

非常に難しい問題(法律の抜的な要素)ですが、
法律の構造上(理論上)は、
取得費は0円となるものと思われます。

詳細は理由をご覧ください。

>課税庁の実務では、贈与課税時の時価
>を取得費としているみたいです
ということですと、

課税庁の実務は、納税者に有利な形に
しているものと思われますので、
裁判例等もない領域になります。
(不利でなければ裁判にならないため)

ただし、これまでの
裁判例等(この問題についての
ものではない)から考えると課税庁の考え方も
ないわけではないというところです。
(詳細は理由(2)を参照)

2 理由

(1)取得費の引き継ぎについて

ア 所得税法60条1項1号の「贈与」

まず、みなし贈与の問題ですので、
個人と個人の問題かと思います。

取得費の引き継ぎの根拠は、
所得税法60条1項1号になります。
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340AC0000000033#516

この条項は、「贈与」としており、
みなし贈与は含まれておりません。

実質面を考慮して、
この「贈与」に相続税法上のみなし贈与
の場合も含まれるという解釈がない
というわけではありませんが、

例えば、非課税所得を規定した
所得税法9条16号
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=340AC0000000033#118

が、明確にみなし贈与を含めると
規定しているにもかかわらず、

そうなっていない条項を根拠に
贈与に含めるというのは、
租税法律主義の観点からすると
難しいかなというところです。

イ 所得税法59条1項1号(みなし譲渡課税)との関係

60条1項1号については、
書籍などに記載はありませんが、

個人が持分放棄をして、法人が共有持分
を得た場合の課税関係として、

59条1項1号の「贈与」にあたり、
みなし譲渡課税の適用があるのかという
議論はありまして、私の個人的な見解と
一致するものでした。
(新訂第7版「法律家のための税法」P52
ー東京弁護士会(編))

実質面や規定の趣旨を考慮すれば、
通常の贈与と同様、
みなし譲渡課税を適用すべきとも思われますが、

租税法律主義の観点から、譲渡収入の発生を
擬制することは難しいのではないかという見解です。

根拠はアと同様になります。

(2)課税庁の実務の考え方について

(1)の考え方を前提とすると、

所得税59条や60条の適用がないので、

持分の取得者は、0円でその持分を
取得している以上は、取得費は0円
と考えるのが論理的には素直です。
(私見は0円です。)

ただし、取得時効により取得した
不動産を譲渡した際の取得費
について、裁判例(東京地裁平成4年3月10日)は、

0円で取得したにもかかわらず、不動産取得時の時価
が「取得費」となるとしています。

これと同様に、みなし贈与時の時価が
取得費となるという考え方がないわけではないと
思われます。

しかし、上記の時効の裁判例は、
時効取得した時点における一時所得の課税で
時効完成前のキャピタルゲイン(値上がり益)は、

課税済みと考えられることが根拠とされていますので、

今回のように所得税法9条16号
により、取得時の「所得」課税がされていない
ケースでも同様に考えてよいのかは甚だ疑問です。

法の不備とも言える領域かと思いますが、

>課税庁の実務では、贈与課税時の時価
>を取得費としているみたいです

ということであれば、現状では、
そのようにするという対応するしか
ないのかとは思います。

なお、共有と譲渡所得の問題は、
有名な教授(佐藤英明先生等)
の論文や本を読んでも
「深い闇の中にある」等と表現されており、

法理論と実務の乖離や明らかでない部分
が多い箇所である部分です。

よろしくお願い申し上げます。