また弁護士を通して従業員から訴えられた場合、想定される金額はどのくらいでしょうか?
>有給を5日取得消化させなかった場合、罰金(労基の監督指導になるよ
>うですが)の他に従業員に対して法的リスクはありますか?
従来、有給休暇制度は、労働者からの
請求がなされた場合に初めて、
使用者が労働者に対して有給休暇を
取得させるという制度でした。
しかしながら、改正労働法では、
使用者は、労働者に対して
1年のうちに最低で5日間の
有給休暇を与えなければならない
義務を負うことになりました。
このため、ご指摘のとおり、
>有給を5日取得消化させなかった場合
には、会社に対して、労基の監督指導や
違反が著しいケースには30万円以下の罰金が
課されることになります(労働基準法120条1号)。
対従業員に対する法的リスクについて、
ご質問②で、併せて回答します。
2 ご質問②~対従業員との関係での法的リスク~
>従業員に対して法的リスクはありますか?
>また弁護士を通して従業員から訴えられた場合、想定される金額は
>どのくらいでしょうか?
(1)従業員に対する法的リスクについて
会社が従業員に有給休暇を
取得させなかった場合には、
債務不履行や不法行為による
損害賠償請求がなされるリスクがあります。
そして、その扱いは、
①従業員から有給休暇の申請があったにもかかわらず、会社の妨害行為などにより取得を妨げた場合
②会社が5日間取得させる義務を怠ったのみの場合(会社による積極的な妨害はなし)
で異なると考えられます。
(2)①会社の妨害行為がある場合
この類型では、これまでにも裁判例があり、
慰謝料(妨害により取得できず、
時効により消滅してしまった
有給分の給与額も含む)などという形で、
損害賠償が認められたものがあります。
また、有給休暇中に予定されていた
旅行のキャンセル料相当額が、
損害として認められたものもあります。
その金額については、妨害行為の態様や回数、
その他の経緯により異なるため、
明確な基準はありませんが、
多くて数十万円というところでしょうか。
(3)②会社側の積極的な妨害行為はない場合
従業員が有給の申請をせず、これを使わないまま
2年間の時効により、有給の権利が消滅してしまった場合、
これまでは、会社側の妨害行為がない(実質的に
有給をとれない体制でもない)のであれば、
従業員が有給を使わなかっただけなので、
損害賠償という話にはなりませんでした。
しかし、労働基準法の改正により、
会社側に5日間取得させる義務が課されたことにより、
これを会社側が怠ったものとして、
上記のようなケースでも、損害賠償義務が
生じるのではないかという新たな問題が
出てくるものと思います。
この点については、改正により
新たに生じる問題なので、
現時点で明確な判例や法的見解が
確立させているものではありませんが、
会社側に5日間取得させる義務がある以上、
これを会社が怠り、時効により、
従業員が有給休暇を取得する権利を失った場合、
損害賠償ができる可能性はあると思われます。
ただ、会社側が積極的な妨害行為を
しているわけではなく、従業員は取得しようと思えば
取得できたわけですから、義務違反と損害の発生の
因果関係があるかというと微妙な部分も否めません。
したがって、絶対認められるとは言い切れないでしょう。
仮に認められた場合の損害額として考えられるのは、
多くても、会社が義務を怠ったことにより、
消滅してしまった5日分の給与に相当する金額に
なるのではないかと思います。
確たることはいえませんが、
これを超えて、慰謝料的なものが金額として
上乗せされるというのは考えにくいと思われます。
よろしくお願い申し上げます。