別居いている長男名義の定期預金1,500万円について、住所が被相続人の住所のままで、
長男の現在の住所地とは異なることから名義預金との指摘を受けました。
しかしながら、長男は、8年前に別居するときに通帳と印章を渡されており、
そのと時点で贈与を受けたと説明しました。
8年までの預金の贈与は認められるのでしょうか?
という問いに対して、
認められません。被相続人に帰属する預金と認められます。とあり、
説明に預金は原則として原資の負担者に帰属するものと判断されます。
1.預金は、消費寄託契約(民法666)であり、預金者は金融機関に対して、
預金の払い戻しを請求する権利を有していますが、
通帳はその際の預金名義人と預金した金額など記載するもの、
すなわち、消費寄託契約の内容を記載するものであって、有価証券ではありません。
株券のように有価証券であれば、有価証券の交付によって所有権が移転しますが、
通帳は有価証券ではないので、その引き渡しによって所有者が変わることはありません。
2.預金債権は、民法の債権譲渡の手続きによって譲渡することは可能ですが、
そのためには預金者に通知をすることが必要です。
しかし、金融機関は預金約款において、原則として預金の譲渡はできないこととしていますし、
通帳においても、当該通帳を譲渡することはできない旨の記載がされているのが普通です。
3.このように預金について通帳の交付による贈与を受けた旨の問述をすることは、
贈与があった事実を主張することにはならないばかりか、当該預金の原資を被相続人が負担したことを認めることになります。
したがって、当該答述によって被相続人に帰属する預金であることを自ら認めた結果になるわけです。
とありました。
私的には、通帳と印鑑を渡した時点で、その残高分の贈与が成立したものと思っていましたが、
上記の事例の回答が正しくて、通帳での贈与は成立しないため、
贈与者=被相続人となる予定の人が生前中であるなら、長男名義の預金を解約してもらい、
自分の口座に入金して、贈与のし直しをするしか方法はないということでしょうか?
通帳自体の贈与は成立しないものなのでしょうか?
>私的には、通帳と印鑑を渡した時点で、その残高分の贈与が成立したものと思っていました
>が、
>上記の事例の回答が正しくて、通帳での贈与は成立しないため、
>贈与者=被相続人となる予定の人が生前中であるなら、長男名義の預金を解約してもらい、
>自分の口座に入金して、贈与のし直しをするしか方法はないということでしょうか?
>通帳自体の贈与は成立しないものなのでしょうか?
どのように回答して良いのか
難しいですが、
抜粋いただいたご見解も、
通帳自体の贈与?というものも
いずれも正確ではないと思われます。
抜粋の説明の文脈がわからないので、
なんとも申し上げられませんが、
結論としては、抜粋いただいた見解は、
名義預金の議論に、債務者対抗要件等の
通常の債権と同様のもの等を入れ込んでおり、
考え方としては正しくないと思います(誤解があります)。
>このように預金について通帳の交付による贈与を受けた旨の
>問述をすることは、
>贈与があった事実を主張することにはならないばかりか、
>当該預金の原資を被相続人が負担したことを認めることになります。
一定時点の名義預金該当性の問題と
その後の贈与の問題がごちゃごちゃになっている
と考えられます。
理由は、以下で説明します。
なお、名義預金についての諸々の理論的な
解明等は、裁判例でも固まっておりませんし、
かなり高度で抽象的な議論になりますので、
割愛します。
2 回答の理由
まず、今回の話は、
・口座開設時には、名義預金であることを前提に
・その後、一定の時期(通帳と印鑑を渡した時点)に預金債権について贈与
があったか否かというところになります。
(1)債権の贈与契約について
まず、贈与契約の基礎知識は
https://zeirishi-law.com/minpou/zouyo/1
の私の記事をご確認ください。
そして、通常の債権の譲渡は、
抜粋いただいた見解の「2」記載の通り、
その履行方法(贈与契約の成立とは関係がない)
として、債務者対抗要件として
債務者への通知が必要になります。
ただし、債務者対抗要件の問題は、
債権の譲渡(贈与を含む)の際に
そもそも債務者が誰に対して、
支払い等をするのかが不明確になりますので、
通知が必要とされているものです。
名義預金の名義人への贈与の場合、
そもそもの名義が長男ということになりますので、
この債務者対抗要件を根拠に名義預金の
贈与がない等の根拠にはならないと
思われます。
また、預金約款についても、
第三者への譲渡を前提としており、
名義人への譲渡を否定する根拠には
ならないでしょう。
(むしろ、そもそもの名義人でない人が
預金債権者であるという状態を前提にしている
ものではありません。)
(2)名義預金の名義人への贈与があったかについて
結局のところ、名義預金の名義人への贈与があったか
否かについては、
そもそもが名義人名義の口座であることから、
贈与契約の事実があったのかが不明確になります
(契約書を作成したとしても、これまでと実態
に変更がなければ、贈与を仮装した契約書に
過ぎないとされやすい。)
ので、事実認定と評価の問題として贈与があったと評価
できるかの程度問題になります。
(書面のない贈与契約の場合は、履行があったか
否かが不明確という議論の土俵にはなるかと
思います。)
方法論としては、
贈与契約書を作成し、
その履行方法として、通帳と印鑑を
渡す(長男が自由に管理支配できる状態に
する)旨を契約書に記載する。
実態としても、通帳と印鑑を渡し、すべて
長男の自由にするという事実が
認定されるのであれば、
先生のおっしゃるように
通帳と印鑑を引き渡すことで、
贈与の事実を認定できるものと思います。
ただし、本当に通帳と印鑑と渡し、
自由になったと認定するための証拠は
残しづらいので、贈与税申告を行う
ことや実際の居住地と住所が異なるのであれば、
その時点で、住所変更等をする等
他の証拠も合わせて主張する準備を
整えておく必要があります。
また、従前の口座を利用するよりも、
名義預金を解約して、自分の口座に入金した
方が、より明確にその時点で、贈与があったと
評価されやすいので、より安全に証拠を残したい
ということでしたら、
>贈与者=被相続人となる予定の人が生前中であるなら、
>長男名義の預金を解約してもらい、
>自分の口座に入金して、贈与のし直しをするしか方法
が名義預金対策としては、より良いことは
間違いないでしょう。
何れにしても、例えば、
札幌地裁平成26年7月30日判決
などは、
むしろ、
従来の名義預金について、自由に管理処分できる
ようになった時点での贈与税の賦課処分を適法
であると認定していますので、
抜粋の見解と裁判所や審判所の考え方は異なる
ものと考えられます。
よろしくお願い申し上げます。