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不在者財産管理人の納税義務について

国税庁の質疑応答事例
「不在者財産管理人が家庭裁判所の権限外行為許可を得て、
不在者の財産を譲渡した場合の申告」
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/09/02.htm

において、『甲(不在者財産管理人)は乙(不在者)の代理人として
所得税の申告書を提出することができ、甲から提出された申告書は
乙の適法な申告書として取り扱われます。』との記述があります。

【質問1】
「提出することができる」との結論ですが、申告をしなかった場合には、
不在者財産管理人に責任が生ずるのでしょうか。
不在者財産管理人に申告義務が生ずるかどうかについてご教示願います。

【質問2】
また、もし申告義務があるとなると、期限後申告を行った場合の
「無申告加算税」や「延滞税」については、不在者の財産から
支出することは可能なのでしょうか。

【質問3】
不在者財産管理人としては、不在者の取得費を証明することが不可能です。
統計資料(市街地価格指数)を用いて譲渡所得税の申告を行うか、
概算取得費(譲渡代金×5%)を用いて譲渡所得の申告を行うか悩むところです。

一度概算取得費で譲渡所得税の申告を行った場合には、実額が証明できた場合でないと
更正の請求を行うことができません。
不在者財産管理人としての責任と義務に関連して、なるべく納税額を少なくする
責任を負うものなのか、納税額については法令通り(更正の請求できない)
であることから免責されるものなのか、ご教示願います。

【質問4】
不在者の失踪宣告が確定した場合はどのような影響がありますか?
例えば、平成12年に死亡したものとみなされる失踪宣告が平成31年に確定した場合の
平成30年分譲渡所得税の確定申告についての影響をご教示下さい。

以上です。
どうかよろしくお願い申し上げます。

1 ご質問①〜不在者財産管理人の申告義務~
>不在者財産管理人に申告義務が生ずるかどうかについてご教示願います。

不在者財産管理人は、不在者の財産の保存行為として、
不在者の財産から不在者の所得税・住民税を支払わなければ
なりません。

このため、支払の前提となる申告も、
不在者財産管理人が行う義務があることになります。

2 ご質問②〜無申告加算税及び延滞税の支出の可否~
>期限後申告を行った場合の
>「無申告加算税」や「延滞税」については、不在者の財産から
>支出することは可能なのでしょうか。

加算税や延滞税についても、あくまでも「不在者」が
負うものですので、不在者の財産から支出することが
可能です。

ただし、実際に請求されるかは別として、
ご質問①の申告義務の懈怠により生じた損害として、

管理人が不在者に対して、損害賠償をしなくてはならないという
法的な義務が生じることになるかと思います。

3 ご質問③〜不在者財産管理人の申告義務の程度
>不在者財産管理人としては、不在者の取得費を証明することが不可能です。
>統計資料(市街地価格指数)を用いて譲渡所得税の申告を行うか、
>概算取得費(譲渡代金×5%)を用いて譲渡所得の申告を行うか悩むところです。

一般論としては、不在者財産管理人も善管注意義務を
負うことになります。

ただし、税理士の先生等の税の専門家でもない限り、
>なるべく納税額を少なくする責任
までは生じないと思われます。

仮に、税理士の先生が不在者財産管理人の場合や、
不在者財産管理人から依頼を受けたという場合には、

税理士の先生には、
>なるべく納税額を少なくする責任
自体は生じることになるかと思います。

ただし、一般的なケースとは異なり、

>不在者財産管理人としては、不在者の取得費を証明することが不可能

ということであれば、これを前提に
意思決定をすれば法的な責任まで問われるわけではないと
思います。

税理士の先生が不在者財産管理人から依頼を受けていれば、
不在者財産管理人に説明をした上で、意思決定を促す
ことになります。

なお、税理士の先生ご自身が不在者財産管理人の場合ですが、
不在者財産管理人は、家庭裁判所と共同で職務を行うことが
理想的とされています。

そのため、家庭裁判所と適宜、連絡を取りながら、
これらの申告を行うことで、責任を負わされるリスクは
限りになくゼロに近づけることができるかと思います。

4 ご質問④〜失踪宣告確定前の税務申告について
>不在者の失踪宣告が確定した場合はどのような影響がありますか?
>例えば、平成12年に死亡したものとみなされる失踪宣告が平成31年に確定した場合の
>平成30年分譲渡所得税の確定申告についての影響をご教示下さい。

実務上、このような状況で、裁判所が
特に不動産等の譲渡を許可するのか?という点は、
かなり疑問がありますが、

仮に許可があった場合を前提にすると、

民事上は、不在者財産管理人は、不在者が死亡しても、
裁判所の選任取消しの審判があるまで
その権限を失うわけではありません(最判昭和15年7月16日)。

そして、裁判所の許可のもと、財産の処分を
した場合にも、有効と解されており、

民事上は、死亡したものとみなされた時から
不在者の地位をその相続人が承継する
と判示する裁判例もあります(大阪高裁昭和30年5月9日)。

この死亡後の処分を税法上どのように評価するのか
というのは、各種文献をあたりましたが、どこにも
記載はありませんでした。

上記の民事上の効果や、
死亡とみなされた時点で財産を取得
とするという相続税(相基通1の3・14共ー8)の
考え方との整合性を考慮すると以下のように考えられるか
と思います。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/01/01.htm#a-1_1_2_7

平成30年分の譲渡所得は、
不在者に帰属するものではなく、不在者の地位を承継した
相続人の相続分に応じて帰属するものである
ということになります。

したがって、不在者自身の所得税申告は、
後発的事由による更正の請求をして、
(更正の請求をすることができる地位も相続
されています)

各相続人が申告をする必要があるということに
なるかと思います。

つまり、不在者の相続人が、
平成12年の死亡とみなされた時期を基準に
相続税申告をして、

平成30年に譲渡所得の申告をしなければ
ならないというのが整合性が取れた考え方かと思います。

なお、実務上は、そもそも家庭裁判所が
適切な時期に失踪宣告の申立てを促す
という運用が取られていることなどから、
上記のような取引を許可するかというと
疑問が残るところです。

また、不在者の所得税申告に更正の請求をせず、
相続人も所得税申告はしないというような
形で放置されているようなケースもあるとも
思われます。

よろしくお願い申し上げます。

追加で、質問させて頂きます。

今回のケースでは、実際に平成30年に不動産等の譲渡が許可され、売却処理が完了しています。
また、その後平成31年1月1日~平成31年3月15日迄の間に失踪宣告が確定したものです。

不在者の相続人は、平成12年の死亡とみなされた時期に相続が発生し、
相続人が平成30年に譲渡を行ったものとして、相続人に譲渡所得の申告納付義務が生ずる
というのが整合性のとれた考え方と理解しました。

この場合、相続人は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」
すなわち、失踪宣告が確定した日から4ヶ月以内に申告納税義務が発生することとなります。

【質問】
この申告納付については、不在者財産管理人が行う義務がありますか。
(それとも相続人の義務と整理するのでしょうか。)
また、不在者財産管理人は申告することが「できる」ものなのでしょうか。
ご教示下さいますようお願い申し上げます。

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たびたび失礼致します。
追加質問の中での前提に疑義がありますので、再投稿します。

【質問1】
「失踪宣告が確定した日から4ヶ月以内に申告納税義務が発生」と
記載してしまいましたが、そもそも相続人ご自身の申告義務ですので、
「確定申告をしなければならない人が翌年の1月1日から確定申告期限まで
の間に確定申告書を提出しないで死亡した場合」に該当しないのではないでしょうか。
そうすると、相続人の本件申告納付期限は原則通り3月15日迄ということになりますか?

【質問2】
相続人は当該売却物件の共有者で、ご自身の分の申告は期限内に済ませています。
そのため、不在者の共有持分を含めて譲渡所得を再計算し、修正申告書の提出が必要かと思います。
この場合における申告を、不在者財産管理人が行うべきか、任意に行うことができるかについて
ご教示頂ければ幸いです。

>今回のケースでは、
>実際に平成30年に不動産等の譲渡が許可され、売却処理が完了しています。
>また、その後平成31年1月1日~平成31年3月15日迄の間に失踪宣告が確定したものです。

そうなんですね。
特殊事情があったのか、
経験上、あまり裁判所もしない判断かと
思いましたが、

許可がされたということでとても勉強になります。
ありがとうございます。

1 ご質問①

>「失踪宣告が確定した日から4ヶ月以内に申告納税義務が発生」と
>記載してしまいましたが、そもそも相続人ご自身の申告義務ですので、
>「確定申告をしなければならない人が翌年の1月1日から確定申告期限まで
>の間に確定申告書を提出しないで死亡した場合」に該当しないのではないでしょうか。
>そうすると、相続人の本件申告納付期限は原則通り3月15日迄ということになりますか?

はい。私もおっしゃる通りかと思います。

今回は、死亡時が平成12年、
譲渡所得発生時が平成30年ですので、
準確定の適用の問題ではないと思います。

2 ご質問②

>相続人は当該売却物件の共有者で、ご自身の分の申告は期限内に済ませています。
>そのため、不在者の共有持分を含めて譲渡所得を再計算し、修正申告書の提出が必要かと思
>います。
>この場合における申告を、不在者財産管理人が行うべきか、任意に行うことができるかにつ
>いてご教示頂ければ幸いです。

失踪宣告が確定している以上、
この修正申告書の提出は、あくまでも、
相続人の義務になりますので、
相続人が任意に修正申告をするという
ことになると思います。
(もちろん、売却した際の情報等は、
不在者財産管理人から提供してもらう
ことになります。)

よろしくお願い申し上げます。