・A社の社長甲は会社の負債の連帯保証人になっています。
・甲保有の自宅は抵当権がありません。
・甲は妻におしどり贈与(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm)で住宅を贈与する予定です。
・甲のその本当の狙いは返済が行き詰まるかもしれない、という予想があるからです。
(質問)
・この贈与をした場合、銀行から詐害行為といったようなことで主張されて贈与が無効になってしまうでしょうか?実際の実務でもよくありそうなことだと思いますが、実務ではどのように判断されるかお教えください。
>・この贈与をした場合、銀行から詐害行為といったようなことで主張されて贈与が
>無効になってしまうでしょうか?実際の実務でもよくありそうなことだと思います
>が、実務ではどのように判断されるかお教えください。
下記の通り、特に不動産の贈与は、
詐害行為取消権を行使される可能性が高い
ものになります。
銀行も、詐害性がわかりやすい類型なので、
狙うことが多いです。
2 回答の理由
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(詐害行為取消権)
民法第424条1項
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
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詐害行為取消の主たる要件は、
債務者の行った財産処分行為が
「債権者を害すること」であり、
一般的には、債務者の財産処分行為によって、
財産が減少し、債権者に弁済が
できなくなることをいいます。
要は、財産処分によりプラスの財産が減少し、
マイナスの財産がプラスの財産の総額を
上回ることをいうと考えていただければよいかと思います。
(いわゆる債務超過)
甲が自宅を贈与した後の財産状態として、
甲のプラスの財産の総額が、
甲が連帯保証しているA社の借入額を
下回ってしまうとすれば、
「債権者を害する」として、
自宅贈与が、詐害行為取消権の対象と
なってしまうおそれがあるといえます。
ご質問の内容からすると、
甲には自宅以外にまとまった資産はない、
しかも、A社の経営状態も芳しくなく、
早晩返済が滞り、甲への請求がなされる可能性も高い
というような状況ではないかと推測します。
そうすると、自宅を贈与することは、
詐害行為取消の対象となってしまう
おそれが高い状況かと思われます。
特に、不動産の贈与は詐害性が高く、
債権者としては狙いやすい類型の
取引であるといえます。
(贈与したことは登記簿上、簡単にバレてしまいますし)
もし、どうしても不動産を移転させたいということであれば、
離婚をし、離婚に伴う財産分与として、
自宅を妻に移転するという方法も考えられます。
財産分与による不動産の譲渡も、
詐害行為取消の対象にはなりえますが、
判例上は、財産分与された財産が、
不相当に過大であり、財産分与に仮託してなされた
財産処分であるというような特段の事情がある場合に限り、
詐害行為取消権の対象となる
とされています。
したがって、贈与をする場合に比べ、
財産分与であれば、詐害行為とされる
可能性は低くなります。
(全く詐害行為にはならないわけではないので、
この点はご留意ください)
ただ、離婚するかどうかというのは、
ご本人様同士の意思により決められるべき、
センシティブな問題であり、
他人が促すべきものでもないでしょうから、
仮に、ご相談者様に伝えられるとしても、
一応、このような方法論もあり得るという
情報提供程度にとどめていただいた方が
よいかと存じます。
この辺りの分野は、あまり積極的に
アドバイスされると専門家も危険な立場に
置かれやすい類型ですので、お気をつけ
ください。
よろしくお願い申し上げます。