相続 相続税

ファイナンスリースと相続税

以下、宜しくお願い致します。

【前提】

個人事業主がファイナンスリース契約の途中で死亡した場合

【質問】

相続人が事業を引き継がず、リース残債務を全額支払いましたが、
①リース債務は、債務控除の対象となるか。

②リース資産は、相続財産となるか。

1 ご質問①

>①リース債務は、債務控除の対象となるか。

ファイナンスリース取引は、
リース業者がユーザーに対して
購入に対して、購入資金の代わりに
物件を貸付け、リース料によって
実質的融資の回収を図るという
複合契約になります。

民事上も
賃貸借契約としての形式と
売買類似の実態どちらを重視するか
という点については争いがあり、
問題になる側面によって、裁判所は
賃貸借と同様に考えたり、売買としての
実質を重視して考えたりしています。

そして、リース料の支払債務については、

最高裁は、リース契約と同時に全額発生するものと
しています(売買としての実態を重視)。
(最判平成5年11月25日)。

この最高裁の考え方を前提にすると、
リース料の支払債務は、
賃貸の対価として、月毎に発生するわけでは
なく、既に全額が発生していて、支払時期のみ
月毎(月々で分割払い)とされているに
過ぎないということになります
ので、

リース債務は、
被相続人の債務として、
相続開始の際に現に存在すると言え、
債務控除の対象となるものと考えられます。
(相続税法13条1項1号)

なお、国税庁のHPの下記の論文等も
そのように記載されています。

その評価方法等の詳細については、下記のうち、
「2 研究の概要(4)ロ」が参考になるかと思います。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/69/05/index.htm

2 ご質問②

>②リース資産は、相続財産となるか。

(1)結論
リース資産の所有権自体は
相続財産となりませんが、

被相続人は、リース契約により
リース資産を「使用収益する権利」(リース契約上の地位)
が相続財産となるものと思われます。

(2)理由

リース契約では、原則として、
リース業者が、リース資産の
所有権を有していますので、
「所有権自体」は相続財産とはなりません。
(あくまでも法形式が賃貸借契約のため)

仮に、所有権移転型のリース
だったとしても、
所有権移転の時期が、
リース期間満了時であれば、
リース期間中は、リース資産の
所有権はリース業者にとどまります。

>個人事業主がファイナンスリース契約の途中で死亡した場合

という事情ですと、上記のように
期間満了時に所有権移転することになっていれば、
相続開始時点において、リース資産は、
まだ被相続人の財産ではないので、
やはり、相続財産とはならないと考えられます。

なお、所得税法上は、リース契約は
売買契約と類似のものとして
扱われていますが(所得税法67条の2等)、
相続税法上は、そのような規定はない以上、
売買として扱うことはしないということでしょう。

しかし、被相続人は、リース契約により
リース資産を「使用収益する権利」(リース契約上の地位)
を有していたと考えられます。

この「使用収益権」は財産性のある権利ですので、
使用収益権は相続財産に含まれるものと
考えられます。

なお、国税庁のHPの論文等も
そのように記載されています。

評価方法については、下記のうち、
「2 研究の概要(4)イ」などが参考になるかと思います。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/69/05/index.htm

よろしくお願い申し上げます。

法人税法は、リースの前提を以下の通り賃貸借としています。


法法64の2③

前2項に規定するリース取引とは、資産の賃貸借(所有権が移転しない土地の賃貸借その他の政令で定めるものを除く。)で、次に掲げる要件に該当するものをいう。
一  当該賃貸借に係る契約が、賃貸借期間の中途においてその解除をすることができないものであること又はこれに準ずるものであること。
二  当該賃貸借に係る賃借人が当該賃貸借に係る資産からもたらされる経済的な利益を実質的に享受することができ、かつ、当該資産の使用に伴って生ずる費用を実質的に負担すべきこととされているものであること。

法人税法と相続税法が違うと言えばそうかも知れませんが、私法上賃貸借という前提で法人税法は作られてますから、税法のスタンス的にはリースは賃貸借であり、
特段の規定がない限り、相続財産にはなりようがないと個人的には思います。

何より、オペレーティングリースかファイナンスリースか、それを峻別することは私法上かなり困難と思いますが、それでも本来の財産として、遺産分割協議ないし相続税の対象になりますでしょうか?

よろしくお願いします。

>法人税法と相続税法が違うと言えばそうかも知れませんが、私法上賃貸借という前提で法人
>税法は作られてますから、税法のスタンス的にはリースは賃貸借であり、
>特段の規定がない限り、相続財産にはなりようがないと個人的には思います。

まず、前提として、私からの先生への
回答でも申し上げている通り、

>「所有権自体」は相続財産とはなりません。
>(あくまでも法形式が賃貸借契約のため)

所有権自体は相続財産になりません。

そもそも、私法上の相続財産になるか否かという点と
売買と賃貸借かは、論理的関係はなく、
「特段の規定がない限り〜相続財産になりようがない」わけでは
ないです。

つまり、賃貸借契約の賃借人が死亡した場合、
その賃借人の地位(賃借権や使用収益権とも呼ばれたりします)
は、当然相続されるわけですが、その相続された地位を
どのように評価するのかという問題です。

説明の便宜で、純論理的に説明すると、

例えば、通常の動産の賃貸借であれば、
毎月の使用収益毎に、使用料の対価である支払債務が生じます。

相続開始後も賃料を支払う債務と
使用収益する権利が等価になる(評価の問題ですので、
一種のフィクションです)ので、0としてあえて
相続財産に表示する意味もないので表示することがあまり
ないという趣旨です。
(死亡で終了する契約でない限り、契約上の地位は、相続対象になります。
所有権だけが相続財産になるわけではありません。)

ファイナンスリースの問題でいえば、

>リース料の支払債務については、
>最高裁は、リース契約と同時に全額発生するものと
>しています(売買としての実態を重視)。
>(最判平成5年11月25日)。

と考えており、

その性質として、
>リース料の支払債務は、
>賃貸(使用収益)の対価として、月毎に発生するわけでは
>なく、既に全額が発生していて、支払時期のみ
>月毎(月々で分割払い)とされているに
>過ぎないということになります

つまり、相続開始時の賃貸借上の地位として、
通常の賃貸借と異なり、
債務は既に別途全額発生しており、

月毎の使用収益の対価として債務が発生するわけでは
ない「使用収益する権利(契約上の地位=語弊がありますが説明の便宜として、
「ほぼ所有権に近い実質」)」が
生じていると評価できるということですので、

通常の賃貸借と異なり等価的関係を観念するわけではなく、
財産の価値として0評価ではないというになるということと
整合的です。

>何より、オペレーティングリースかファイナンスリースか、
>それを峻別することは私法上かなり困難と思います

その点に関しては、オペレーションリースかファイナンスリースか
というよりも、極論としては、個別の契約内容からどのような契約
として、契約上の地位を評価するのかということになるかと思います。

先生のように純粋な賃貸借であると
考えるとすると、
上記の最高裁のファイナンスリースに対する
考え方とは異なりますが、

先生のおっしゃるリース料は、
一般的な賃貸料(使用収益の等価的対価)と捉える
ことになるので、

リース残債務の支払いは
・債務控除の対象にはならない
・「使用収益権」もゼロ評価をする
ということになるのかと思います。

ただ、通常の賃貸借では、
月の使用収益の対価として、
発生するものであるにもかかわらず、

残債務の全てを支払う契約内容をどのように
評価するのかという点の解釈が困難であることから
最高裁は上記のような考え方をしていると
思いますので、そこは明らかにしておく必要が
あると思います。
違約金という性質と考えるのか?というと
かなり不自然な気がします。

もちろん、最高裁の対象になった契約と
同一の契約であるかはわかりませんし、
この最高裁との整合性を考えると
そのように考えることが整合的かという
ところです。

もちろん、契約内容の評価の問題になりますので、
論理必然的にどちらが正しいということでは
ありませんが、財産的価値の評価問題ですので、

「特段の規定がない限り〜相続財産になりようがない」
わけではありません。

よろしくお願い申し上げます。