相続 株式 会社法 相続税

相続税申告のための決算書確認と帳簿閲覧請求権等

決算書の確認ができるかどうか、そしてできるとすればその手続きを教えて下さい。

以前、とある会社の代表を務めていた被相続人に相続が発生しました。その会社の二期前の決算書を確認しましたら、被相続人からの貸付金が計上されていました。このため、相続が開始した現在、貸付金がどうなっているかを確認し、残高があれば相続税の申告をしなければならない状況です。

ただし、相続人が法人に全く関与しておらず、代表者、顧問の税理士等関係者との連絡が出来ない状況で、現状の貸付金の状況につき、決算書などを直接確認することができず、税務署の閲覧申請も難しい状況です。

このため、以下を検討しているのですが、株式数の要件を満たしていれば、相続人が確認することは可能でしょうか。なお、確認できるとして、代理人でもOKかについてもご教示ください。

株主は、会社の会計帳簿を閲覧することはできるでしょうか?

加えて、可能な場合の手続きも教えて下さい。なお、あまり会社とももめたくないため、スムーズにすむ手続きを希望していますし、他に簡易なやり方があれば知りたいです。

よろしくお願いいたします。

1 ご質問と回答の結論

>決算書の確認ができるかどうか、そしてできるとすればその手続きを教えて下さい。
>以前、とある会社の代表を務めていた被相続人に相続が発生しました。
>その会社の二期前の決算書を確認しましたら、被相続人からの貸付金が計上されていまし
>た。
>このため、相続が開始した現在、貸付金がどうなっているかを確認し、残高があれば相続税
>の申告をしなければならない状況です。

結論としましては、

計算書類(「貸借対照表」「損益計算書」
「株主資本等変動計算書」「附属明細表」)
については、請求することが可能です。
(なお、計算書類には、勘定科目内訳明細書
は含まれません。)

また、株主で一定の議決権数を有していれば、
会計帳簿(「仕訳票」「総勘定元帳」
「これらの補助簿(現金出納帖、手形小切手元帳など)」
「これらの作成材料となった伝票、受領証、契約書など」)
の閲覧謄写請求をすることも可能ですが、

請求の理由が、会社に対する貸付債権の存否の確認という
ことですと、請求の拒絶事由に該当し、
裁判手続までいくと、認められない
可能性は残ります。

請求する理由を、
株式の評価など株主の権利に関連するものとすれば、
請求が認められる可能性は高まりますが、
誰が貸付者かを特定する資料まで
開示を請求することができない
可能性は残ります。

法的な手続としては、
会社に対して、請求の理由とともに、
必要となる書類を年度や題名などを特定した上で請求を行うことに
なりますが、それが拒否された場合は、
裁判所に対して書類の閲覧請求の
仮処分を申し立てるしかないことになります。

ですので、方法論としては、

まず、法的な根拠等を示すのではなく、
手紙等で相続税申告
に必要な旨を伝えた上で、
貸付金の存否とその金額がわかる資料
を下さいという旨を伝えるという方法になるかと思います。

これで、貸付金があるという回答で、
資料をもらえればそれで終わりになります。

仮に貸付金が存在していないという
回答の場合には、申告の前提として、
それを鵜呑みにすることはできないので、

2期前の決算書には記載がある旨と合わせて
消滅している理由及び証拠(債権放棄書や時効の援用通知書の
写しなど)とともに、該当部分の
会計帳簿まで確認する必要があるでしょう。

仮に返済を受けていたということであれば、
被相続人の通帳等の確認も必要でしょう。

この場合に、法的な根拠を示した上で各種書類の
閲覧謄写請求をすることになりますが、

上記の通り、貸付者が誰かを特定するような
資料の開示まで認められないという
場合には、
計算書類の開示をして、
2期前の決算書と比較してみる
という方法もありますが、

訴訟を提起して、債権の有無を確定
させるというところでないと
正確なところはわかりませんので、

どこまでやるかという点も含めて
最終的には相続人に意思決定いただく
しかないところです。

以下の理由では、各個別のご質問について
回答します。

2 回答の理由

(1)相続人による請求
>以下を検討しているのですが、株式数の要件を満たしていれば、相続人が確認することは可
>能でしょうか。
>https://lawyer-nakamura.jp/archives/category/cases/12968/

はい。会社の代表を務めていた被相続人が会社の議決権
又は発行済株式数の3%を有する株主であれば可能です。

相続人の人数により手続きは以下のようになります。

ア 相続人が1名のみの場合

相続人は、会計帳簿の閲覧請求を行って、
「会計帳簿」を閲覧することができます。
また、相続人は、株主としての地位に基づき、
「計算書類」の閲覧もすることができます(会社法442条3項、会社計算規則59条1項)。

イ 相続人が複数名いる場合

被相続人の株式は相続人間の共有の状態になりますので、
相続人のうち一名を権利行使者として会社に通知したうえで、
その相続人が上述の閲覧請求を行うことができます(会社法106条)。

ウ 一般的な手続の流れ

会社に対して、必要となる書類を年度や題名などで
特定したうえ、書面で閲覧請求を行い、
それが拒否された場合は、裁判所に対して
会計書類の閲覧請求の仮処分を申し立てることになります。

エ 法的に請求が認められるかどうか

計算書類(「貸借対照表」「損益計算書」
「株主資本等変動計算書」「附属明細表」)の
閲覧謄写請求(会社法442条)があった場合には、
法的には、会社はこれを拒否できません。

法的な請求は認められることになります。

ただし、この計算書類には
勘定科目内訳明細書は含まれません。

一方、会計帳簿(「仕訳票」「総勘定元帳」
「これらの補助簿(現金出納帖、手形小切手元帳など)」
「これらの作成材料となった伝票、受領証、契約書など」)
については、
会社が請求を拒否できる場合が定められています。
(会社法433条2項各号)

今回の請求の目的の場合は、
433条2項1号に該当し、
法的には請求が認められない可能性があります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~
会社法433条2
2 前項の請求があったときは、株式会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ここでいう「権利」は、
請求者が株主の資格において有する権利をいい、
請求者が会社に対して有する権利であっても、
株主の資格を離れて有する
権利(例えば、会社との売買契約または
労働契約上の権利は含まれない)と解されています。

今回の請求の目的は、株主の権利とは関係のない
貸付金の存否・金額の把握ですので、
拒絶事由にあたってしまい、

裁判所の判断までいくと、会計帳簿の閲覧謄写請求は、
認められない可能性が高いかと思います。

なので、この点を主張して、
会社が会計帳簿の請求を拒否してきたとすると、
法的にこれを開示させることは難しいと思います。

請求の理由を、株式の評価などとして、
株主の権利と関連のあるものとすれば、
請求が認められる可能性は高まりますが、

開示義務がある資料の範囲は、請求理由と
連動しますので、「誰が貸付者か」を特定するような
資料が必要かという点を争われると、こちらも、
開示を請求することができない可能性は
残ってしまいます。

計算書類の開示は法的にも可能ですので、
2期前の決算書と比較してみるという方法もありますが、

訴訟を提起して、債権の有無を確定
させるというところでないと
正確なところはわかりませんので、

どこまでやるかという点も含めて
最終的には相続人に意思決定いただく
しかないところです。

(2)代理人請求の可否

そうですね。
代理人からの請求も可能とされていますので、
その場合には、委任状を示して、
請求することになるかと思います。

ただし、

会計帳簿の閲覧請求権に対して制限が
設けられている理由は、
全ての株主にこれを認めると、
会社荒らしや競争のために会社の内情を
探る者によって濫用され、
会社の業務が妨害されるからです。

ですので、代理人で請求すると
一般的には最初の請求は拒否される
というケースが多いと思います。
(弁護士もそのようにアドバイスしますね。)

つまり、「1」で申し上げた最初の手紙を
送るという場面では、税理士の先生のお名前
でも良いと思いますが、

それ以上の法的な根拠を示した請求となると

株主本人からの法的請求とした方が
良いように思います(または弁護士を代理人とするか)。

こうなってくると債権の存否をめぐる
形となり、紛争性を帯びますので
ご注意ください。

(3)その他
>なお、あまり会社とももめたくないため、
>スムーズにすむ手続きを希望していますし、
>他に簡易なやり方があれば知りたいです。

そうですね。「1」のように
あくまでも申告の手続きのためとして、
手紙を送るという方法になるかと
思います。

よろしくお願い申し上げます。