〇前提
・相続人:子ABC
・遺言の内容:全ての預貯金をAとBに2分の1ずつ相続させる(遺贈する)
〇 質問
・包括遺贈の場合、相続人間での遺産分割が必要になりますが、
下記の書き方であれば、実質的には同じですが、遺産分割は不要になりますか?
全ての預貯金はAに相続させる(遺贈する)。ただし、その2分の1をAはBに代償金として支払う。
・このケースにおいてという前提ですが、「相続させる」と「遺贈する」で違いはありますか?
よろしくお願いします。
(1)ご質問
>下記の書き方であれば、実質的には同じですが、遺産分割は不要になりますか?
>全ての預貯金はAに相続させる(遺贈する)。ただし、その2分の1をAはBに代償金として
>支払う。
(2)回答
ご質問の遺言は、AがBに対して
預金額の2分の1を支払うという負担を
つけた上で、Aに預貯金債権を相続させる、
または、遺贈するという負担付遺贈
と考えられます。
相続させる旨の遺言や遺贈により、
Aが預貯金債権すべてについて
承継することになり、
預貯金債権は
共有となった財産ではなくなるので、
ご理解の通りで間違いはありません。
あとは、遺留分が問題となるのみということに
なります。
なお、こちらは、質問のご趣旨とは
外れるかと思いますので、補足になりますが、
ご記載いただいた
>全ての預貯金をAとBに2分の1ずつ相続させる(遺贈する)
という遺言ですが、
預貯金債権以外に財産がある場合には
遺言の解釈として
包括遺贈や相続分指定にはなりません。
あくまでも個別の財産(すべての預貯金債権一つずつ)
の共有持分権を相続させる
及び特定遺贈するというものになります。
したがって、遺産共有ではなく通常の共有
となりますので、共有の解消方法としては、
遺産分割ではなく、共有物分割請求に
よることになるというのが論理的な帰結に
なるかと思います。
(相続人全員の合意によるのであれば、
遺言と異なる遺産分割として良いのですが、
裁判所等に対して、手続きをする際には、共有物
分割の手続きにのせなければならなくなるということです。)
ただ、
どちらにせよ共有状態になって
しまいますので、先生の方法によるのが
よろしいかと思います。
2 ご質問②
(1)ご質問
>・このケースにおいてという前提ですが、
>「相続させる」と「遺贈する」で違いはありますか?
(2)回答
ア 現行法のもとにおける違い
今回のケースですと
相続させる旨の遺言と遺贈では、
債務者に請求をする際に、
債権譲渡の通知、または、
債務者の承諾(民法467条1項)及び
第三者対抗要件(同法2項)の要否が
異なってきます。
相続させる旨の遺言は、
何らの行為を要せずして(直接移転効)、
当該遺産は、被相続人の死亡の時に
直ちに相続により承継されるとされているので、
権利変動を観念しません。
一方、遺贈の場合は、意思表示により、
受遺者から、受贈者に対して権利が
移転する(特定承継)というものですので、
債権でいえば、債権譲渡があった
ということと同じと考えられます。
債権譲渡があった場合に、
債権を譲り受けた者が、
債務者に請求する場合には、
債権を譲り渡した者が債権譲渡通知をすること
または
債務者が承諾することが、
必要とされていますので(民法467条1項)、
遺贈の場合には、これらのいずれかが
必要になると考えられます。
そして、遺贈の場合には、
債権譲渡通知は、遺贈義務者から
なされることが必要とされていますので、
(最高裁昭和49年4月26日)
今回の場合は、遺贈義務者である(A、)B、Cが
行う必要があると考えられます。
イ 相続法改正による影響
相続法(民法)の改正施行後は、
相続させる旨の遺言によって、
法定相続分を超えて、債権を取得した相続人は、
その法定相続分を超える部分について
第三者対抗要件を備えるためには、
債務者に通知をすることが必要となります(新法899条の2第2項)。
その通知の方法は、
債権を取得した相続人(今回で言えばA)が、
遺言の内容を明らかにして、
債務者(銀行)に通知することで
足りるとされていますので(新法899条の2第2項)、
他の相続人(BやC)の協力は不要です。
これに対し、遺贈の場合は、
同条の適用はなく、
これまでどおり、全員での債権譲渡の通知を
必要とするのが、立法担当者の意図のようです
(法制審議会民法(相続関係)部会資料17・7頁)。
なお、私も判例等からの経緯と改正の趣旨からして
同様の考えです。
そうすると、相続させる旨の遺言と
遺贈では違いが出てくることになります。
ただし、この新法について、
遺贈にも適用(ないし類推適用)すべき
という議論が一応ありますので、
今後の解釈の動向により、
流動的な部分は残っているところです。
なお、上記の新法の適用についての施行時期は、
遺言のケースでは2019年7月1日以降の相続に
適用されます(附則第2条)。
よろしくお願い申し上げます。