【前提条件】
被相続人 父
相続人 母 子A(相談者)子B
平成12年1月20日に父が亡くなりました。
母は、「父が亡くなり、後のことを考えると不安だから、
財産は自分が引き継ぐ」と言いました。
Aは、母が引き継ぐことについては、納得しており、分割協議で
きちんと手続きをし、引き継ぐと思っていました。
しかし、そのような手続きがないまま、母の名義に切り替えられました。
母がどのように財産を引き継いだのか?わからないままだったのですが、
平成23年頃に、法務局に不動産名義の確認に行ったところ
AとBを特別受益者として、名義変更の手続きをしたことがわかりました。
Aは、父から生前に贈与を受けておらず、特別受益者には該当しません。
その後、相続財産の名義変更のことも含め、母を問い詰めたところ、
母は、家を出て、今に至っています。
母は、相続財産の内容を開示せず、特別受益証明書も勝手に作成したようです。
作成する際には、実印と印鑑証明が必要であると思いますが、Aはその手続きを
していません。
(1月16日にご相談した「相続が発生した場合の遺留分請求権等について」
と同じ家族の話で、母とAの不仲の原因になったのが、この相続問題がきっかけ
だそうです。)
【質問】
(1)上記の場合で、相続回復請求権を主張し、当初の相続財産の4分の1を
取得することは可能でしょうか?
相続回復請求権は、相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しない
ときは、時効によって消滅するとありますが、23年から5年を過ぎているので、
無理でしょうか?
(2)母は、違法に特別受益証明書を作成していると思われますが、
このような場合でも、時効は成立するのでしょうか?
(3)もし、違法であり、何らかの主張が可能であるということであれば、
どのように手続きを進めるのが最善でしょうか?
よろしくお願いいたします。
(1)ご質問~相続回復請求における時効主張の可否~
>上記の場合で、相続回復請求権を主張し、当初の相続財産の4分の1を
>取得することは可能でしょうか?
>相続回復請求権は、相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しない
>ときは、時効によって消滅するとありますが、23年から5年を過ぎているので、
>無理でしょうか?
>母は、違法に特別受益証明書を作成していると思われますが、
>このような場合でも、時効は成立するのでしょうか?
(2)回答
まず、本件では、
相続回復請求権(民法884条)というもの
自体の法的性質は争いがあるものの、
判例によれば、相続回復請求は、
自分に相続権があると信じる合理的な理由がある者に対して
しか行うことができないとされています。
(最大昭53年12月20日)
母親は、特別受益証明書を偽造して、
自分がすべてを相続したように装って
登記をしたにすぎませんから、
自らが、Aの持分について相続権がないことを
知っており、自分に相続権があると信じる
合理的な理由はありません。
ですので、相続回復請求の適用場面ではなく、
法的にはAが、法定相続分による持分を
有している状態ということになります。
例えば、
今回、母親名義の不実の登記がなされているため、
Aが母親に対して行うとすれば、
この持分について登記を抹消するよう請求することができます。
つまり、
母親からの相続回復請求権の5年間の消滅時効の
主張は意味がありませんので、
この点はご心配なさらなくて大丈夫です。
2 ご質問②~今回とるべき手続~
(1)ご質問
>(3)もし、違法であり、何らかの主張が可能であるということであれば、
>どのように手続きを進めるのが最善でしょうか?
(2)回答
現在、父親の相続に関して、
遺産分割が行われていない状態なので、
法律的には、不動産含めて、父親の相続財産は
相続人である母親、A、Bで共有となっています。
なお、母親が、不動産の登記を行っていますが、
これは実態を反映したものではなく、
法律関係に影響を及ぼすものではありません。
したがって、今後は、遺産分割を行って、
相続財産である不動産(ほかにも、相続財産が
あるのであれば、それも)を分けることになります。
母親との関係も考えると、
任意の交渉でまとめるのは難しいでしょうから、
遺産分割調停を申し立て、裁判所において、
協議を進めることになるかと思います。
ただし、現在、不動産の登記名義は、
母親となっており、形式的には
すでに遺産分割協議の対象である相続財産では
ない(分割済み)ということになっています。
この状態で、不動産に関して遺産分割調停を
申し立てたとして、母親が、登記どおり、
自分が不動産を遺産分割により相続し、
手続は終了しているという主張をしたとすると、
不動産について、遺産分割が終了しているのか、
終了していないのか、という点については、
遺産分割調停の中では、解決できません。
(母親が偽造であることをすんなりと
認めれば話は別ですが、可能性は非常に低いでしょう)
その場合には、別途
・遺産分割協議の無効確認の調停をして、無効を確定させる
または
・母親名義の不動産の登記抹消請求訴訟をして、登記名義を父親に戻す
をして、まずは、不動産に関して、
遺産分割は終了していない(母親は、
虚偽の登記をしているだけで、
実態を反映したものではない)という
ことを確定させます。
その後に、不動産に関して遺産分割調停を行うことになります。
現在の母親名義になっている状況の中で、
いきなり遺産分割調停を行ったとしても、
認められない可能性が高いため、
最初から、遺産分割協議無効の調停、または、
不動産の登記抹消の請求訴訟を
行った方がよいかと思います。
よろしくお願い申し上げます。
追加で、教えて下さい。
(1)今の状況で、法的にはAが父の相続の際の法定相続分を
有している状態とのことですが、母が今、亡くなった場合、
どうなりますか?
そもそも、父の遺産分割協議が無効であると、Bに対して
主張することが出来るのでしょうか?
(2)今、母が亡くなり、遺言で「すべての財産をBに相続させる」
と残していた場合、Aは遺留分のみを主張するしか方法はないことに
なりますか?
母が存命中になんとかしないといけないか?と思っています。
お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
>(1)今の状況で、法的にはAが父の相続の際の法定相続分を
>有している状態とのことですが、母が今、亡くなった場合、
>どうなりますか?
その法定相続分については、
そもそも母の相続財産ではないことになりますので、
父の相続によるAの法定相続分(1/4)は、母が亡くなった
場合でも変わりません。
>そもそも、父の遺産分割協議が無効であると、Bに対して
>主張することが出来るのでしょうか?
はい。
いただいたご事情を前提としますと
主張できます。
ただし、現実論を含めて、「3」を
ご覧ください。
2 ご質問②~母の遺言で「すべての財産をBに相続させる」とされている場合~
>(2)今、母が亡くなり、遺言で「すべての財産をBに相続させる」
>と残していた場合、Aは遺留分のみを主張するしか方法はないことに
>なりますか?
上記の通り、この「財産」には、
父の相続によるAの法定相続分は含まれない
ことになりますので、
そのようにはなりません。
Aの父の相続における法定相続分(1/4)は、
あくまでもAの財産です。
3 ご質問③~母の存命中の対応~
>母が存命中になんとかしないといけないか?と思っています。
法理論上は、上記の通りですので、母親が
存命中か否かは影響しないことになります。
しかし、実際に、遺産分割がなかったことと
認められるためには、
特別受益証明書等が偽造された
ものであることを証明しなくては
なりません。
母がいなくなった状況で、
母が偽造したものであるという
主張は、死人に口なしなところも
ありますので、
裁判所としては、偽造者がいなくなった
からいっているのではないか!?という
印象を持たれてしまうおそれがあります。
母がいる状況で、
母が偽造していないという主張をするとしても、
尋問などにより矛盾する言動などを
する可能性がありますし、そのあたり
の立証材料を失うことになります。
何も知らないA・Bのみの裁判など
ですと、実印が押してあるのだから、
まぁAが押したんじゃないんですか?
というふうに思われる可能性が
高いというところです。
ですので、この辺りは、
おっしゃる通り、母存命中に
対応をした方が良いと思います。
私の経験上も、このような問題を
後回しにするとあまり良いことは起きません。
よろしくお願い申し上げます。