労働法 その他

社会保険の未納の法律関係と対応等

法人の社会保険未納につき質問させてください。

【前提】
毎月の従業員給与に対する社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保
険)はきちんと納めているのですが、賞与に対する社会保険はここ数年納めていない
会社があります。賞与は支給後5日以内に、会社が「被保険者賞与支払届」「被保険
者賞与支払届総括表」を年金事務所に提出することで年金事務所が賞与額を捕捉し社
会保険を課してくるため、当該書類を会社が提出しないと年金事務所は賞与支給額を
そもそも捕捉できません。資金繰りの観点もあり、会社はこの手続きをしていない、
もしくは虚偽報告(未提出につき年金事務所から問い合わせがあった場合に賞与ゼロ
なので提出していないという回答をしたり、もしくは当該資料を賞与ゼロで提出して
しまうなど。このあたりの事実関係の確認はこれから致します)をすることで、賞与
分の社会保険の請求を受けていない状況が続き、結果として未納が続いている状況で
す。一方で、賞与支給時に社会保険の従業員負担分は控除して支給しており、長年、
従業員からの預り金が放置されている状況です。

【質問】
①一般的に社会保険料の時効は2年とWebにあるのですが、2年を経過すると年金事務
所が請求できなくなるだけで会社が自主的に納付することは可能なのでしょうか、そ
れとも時効が来るとそもそも納付自体が不可能となるのでしょうか?
②本件のように、必要な書類を提出していない、もしくは、虚偽報告の場合には、時
効や遡り納付の可否につき異なる取り扱いがなされるのでしょうか。また、罰則はど
の程度でしょうか?
③仮に未払社会保険料につき時効が成立し、かつ会社からの自主納付も認められない
場合、本来的には従業員からの預り金は各人に返還する必要がありますが、こちらの
時効はいつから起算し何年間になりますでしょうか?
④従業員との信頼関係の側面があるため、そもそも従業員には伝えないという選択肢
をとる場合、どのようなリスクを考えておけば良いでしょうか?

社労士さんの領域かもしれませんが、ご対応いただける範囲で、何卒、よろしくお願
いいたします。

今回のケースで関係があるのが、
健康保険・介護保険・厚生年金保険かと
思いますので、それを前提に回答します。

1 ご質問①~時効完成後の納付について~

>一般的に社会保険料の時効は2年とWebにあるのですが、2年を経過すると年金事務
>所が請求できなくなるだけで会社が自主的に納付することは可能なのでしょうか、そ
>れとも時効が来るとそもそも納付自体が不可能となるのでしょうか?

社会保険料の徴収権の時効(2年)は、
租税債権と同様に絶対的無効とされていますので、
納付したとしても誤納となってしまうのが原則です(法的に納付と評価されません)。

ただし、保険の給付額が変わる可能性のある
厚生年金保険については、

厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律
により、

社会保障審議会が調査審議の結果、事業主が
被保険者(従業員)の負担すべき保険料を控除した事実がある
にもかかわらず、保険料を納付する義務を履行したことが明らか
でない場合
には、会社による時効期間経過後の納付が認められる(同法1条、2条)
とともに、

納付の有無に関係なく、被保険者との関係では納付が
あったものとして扱われます(同法第1条5項)。

そして、事業主または役員等に国が納付を
勧奨などをし、最終的に納付がなければ、
国が負担することになります(同法第2条9項)。

2 ご質問②~虚偽報告等と罰則など~

>本件のように、必要な書類を提出していない、もしくは、虚偽報告の場合には、時
>効や遡り納付の可否につき異なる取り扱いがなされるのでしょうか。

まず、租税債権とは異なり「偽りその他不正の行為」などがあったとしても、
徴収権の時効期間の延長などはありません。

ですので、ご質問①と変わらないということになります。

>また、罰則はどの程度でしょうか?

6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金(厚生年金法102条、健康保険法208条)

となります。

ただし、実務上は、
罰則が予定されているのは、
年金事務所から度重なる指導をしているにも拘わらず、
事業者が虚偽報告をする等といった悪質な場合に限られて運用
されているようです。

3 ご質問③~従業員への返還債務の時効~

>仮に未払社会保険料につき時効が成立し、かつ会社からの自主納付も認められない
>場合、本来的には従業員からの預り金は各人に返還する必要がありますが、こちらの
>時効はいつから起算し何年間になりますでしょうか?

国に対して、保険料の納付義務を負っているのは、
あくまでも会社です。

そして、預り金とはするものの
会社には従業員の給与から、保険料の半額分を
控除する権利があり、これに基づき、
給与から天引きしているわけですから、

国の会社に対する徴収権が時効により消滅した
として、不当利得にもとづく返還請求が認められるか
というと難しいところがあります
(不当利得の「法律上の原因なく」
利得を得ているという要件を満たさない可能性が高い)

むしろ、従業員は会社に対して、
不法行為または債務不履行による
損害賠償請求(厚生年金受給額の減少額)をするということになると
思います(東京地裁平成29年10月24日
判決もそのような請求が前提となっているようです)

これらの時効などの期間ですが、

不法行為については、
◯被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき
または
◯不法行為の時(年金受給資格を取得した時点)から20年間行使しないとき
(東京地裁平成29年10月24日)

債務不履行については、
◯届出を怠ったときから10年(東京地裁平成29年10月24日)

とされています。

4 質問④~従業員に秘匿するリスク~

>従業員との信頼関係の側面があるため、そもそも従業員には伝えないという選択肢
>をとる場合、どのようなリスクを考えておけば良いでしょうか?

上記の損害賠償リスクと

「1」の方法を利用することができず、
時効期間経過後の納付ができない
という点が問題かと思います。

よろしくお願い申し上げます。