相続 遺産分割 不動産

相続後の賃貸借契約書の更新、契約変更

相続後の賃貸借契約書の更新、契約変更について教えてください。

被相続人が賃貸人で不動産貸付をしていたとします。
賃貸人が亡くなった場合には、下記のブログより、賃貸借契約書は承継されるとある
ため引き継がれるものと理解しました。
賃貸借契約書は念のため作り直したほうが安心というのも理解しました。
(または実務上は、貸主変更の条件変更、入金先の変更しかしない場合もあると思い
ますが)

仮に
ケース1
被相続人が相続人Aの子(被相続人と別生計)Bへ被相続人の家屋のため家賃のやり
とりをしていたとします。
確定申告もしていたとします。
相続人Aが相続しました。
相続人Aはまだ若いので相続対策は不要のためAとBは使用貸借にしたいとします。
この場合、いつから賃貸借契約書は変更できるのでしょうか?
相続人はAの兄弟Cがいます。
遺産分割協議後でないと新たな賃貸借契約書なり、使用貸借契約書は契約できないも
のでしょうか?
仮に賃貸借契約書を破棄して、使用貸借に変更するときは合意解約証書などの
覚書は交わす必要はあるのでしょうか?
身内なので、遺産分割協議後に、遡及して相続発生後から使用貸借という使用貸借契
約書は作成できない
ものなのでしょうか?(無効なのでしょうか?)

ケース2
被相続人が相続人A(被相続人と別生計)で被相続人の家屋のため家賃のやりとりを
していたとします。
確定申告もしていたとします。
相続人Aが相続しました。
自分が自分に家賃を支払いをすることはなくなると理解しますが、いつからそうなる
のでしょうか?
遺産分割協議後、相続発生時にさかのぼって発動するのでしょうか?

ケース3
被相続人の土地を同族会社へ賃貸していたとします。
土地の無償返還届出書を提出済みとします。
相続が発生した場合は、上記のケースと同様の考えになるものでしょうか?
何もなければ、そのまま同じ条件で引継ぎ、変更したい場合は、遺産分割協議後にし
か契約書を変更することは
不可能なのでしょうか?

遺産相続が起こったとき、そもそも賃貸人としての地位が相続の対象になるのかが問
題ですが、これについては、「相続されます」。
相続の対象は、一身専属的なもの(権利や義務が特定の人にあり他の人に移らないも
の)を除く一切の権利義務ですが、賃貸人としての地位は、
被相続人の一身専属的なものとは言えないので、相続人に承継されるからです。
相続人が複数いる場合には、その不動産を相続した相続人が賃貸人としての地位を相
続します。
賃貸人が死亡して相続人が新たな賃貸人になった場合、賃貸借契約を再締結する必要
があるかどうかが問題ですが、
法律的には、再契約をする必要はありません。相続によって、当然に賃貸人としての
地位が相続人に移転しているのですから、
特に新たに賃貸借契約をしなくても、有効に賃貸借契約が存続することになるからで
す。契約内容についても従前のまま引き継がれます。
ただ、法律的には有効とはいっても、契約書に記載してある氏名が実際の賃貸人と異
なるということになると、
外形と実態が一致していないようにも見えるので不都合があります。ときが経つにつ
れて、
今の賃貸人と契約が成立していることがあいまいになってしまうおそれもあります。
そこで、相続が起こったら、念のために賃貸借契約書を作り直して、現在の契約当事
者が署名押印したものを作成しておいた方が安心です。

https://相続弁護士カフェ.com/souzoku-11998.html

https://naiyoshomei.k-solution.info/2007/03/_1_34.html

回答の前提として、

遺産分割の遡及効(開始時に遡る)の
対象となるのは、相続開始時に共有となっている
財産です。

したがって、
不動産の所有権や賃貸人の地位はご指摘の通り、
遺産分割の対象となりますが、

相続開始~遺産分割までの期間に
具体的に発生した賃貸人から賃借人への
賃料請求権は、遺産分割の遡及効の
対象とはならず、

相続開始~遺産分割の間の賃料請求権は
各相続人が共有割合により、確定的に
取得することになるというのが、
判例(最判平成17年9月8日)です。

以下、これを前提に各ご質問について
回答します。

1 ご質問①~ケース1について~

(1)ご質問
>被相続人が相続人Aの子(被相続人と別生計)Bへ被相続人の家屋のため家賃のやり
>とりをしていたとします。
>相続人Aが相続しました。
>相続人Aはまだ若いので相続対策は不要のためAとBは使用貸借にしたいとします。
>この場合、いつから賃貸借契約書は変更できるのでしょうか?
>相続人はAの兄弟Cがいます。
>遺産分割協議後でないと新たな賃貸借契約書なり、使用貸借契約書は契約できないも
>のでしょうか?

まず、ご質問の当事者関係ですが、
◯被相続人X
◯相続人 A C
◯B(Aの子)
◯生前、XとBが賃貸借契約

という前提で回答します。

ア 相続開始~遺産分割までの契約関係

まず、相続開始により、

家屋及び賃貸人の地位は、
ご指摘の通り、AとCの共有状態に
なります。

仮にこの期間中に、Bとの
賃貸借を解除し、新たに使用貸借を
締結するということになると、

共有における「管理行為」となりますので、
共有者の過半数で決定しなければなりません(民法252条本文)。

つまり、AとCで両名決定した上で、
Bと使用貸借に変更する契約をしなければなりません。

仮にこれが可能であれば、この期間中にも
契約の変更をすることは可能です。

イ 遺産分割後

仮にその後、遺産分割があったとしても、

相続開始~遺産分割の期間に対応する

・C(賃料の半分)のBに対する賃料請求権

については、そのまま存続します。

遺産分割の中で、このC(賃料の半分)の
Bに対する賃料請求権をAに帰属するように
記載をすることは実務上可能ですが、

これは、厳密には遡及効のある
遺産分割ではなく、CのBに対する賃料請求権を
C→Aへの債権譲渡と評価されます。

また、これとは別の問題として、

相続開始~遺産分割までの賃料を
AとCがBに対して請求しないだけですと、
未収入金の扱いになり、

法的に消滅させるには、
AとC各々のBに対する賃料請求権の
債権放棄(債務免除)が必要になります。

ウ その他のご質問について

>仮に賃貸借契約書を破棄して、使用貸借に変更するときは合意解約証書などの
>覚書は交わす必要はあるのでしょうか?

そうですね。
タイトルは特に問題はありませんが、
賃貸借契約を終了し、使用貸借とする旨の
書面を
証拠を残すという趣旨で、
作成した方が良いでしょう。

特に未収入金があると誤解されるのを
防ぐ趣旨でも作成した方が良いでしょう。

>身内なので、遺産分割協議後に、遡及して相続発生後から使用貸借という使用貸借契
>約書は作成できないものなのでしょうか?(無効なのでしょうか?)

作成すること自体は可能ですが、
上記の通り、

CのBに対する賃料請求権は存続します。

ですので、これを消滅させたいとすると、
CからBに対する債務免除をするか、
または
CのBに対する賃料請求権を
C→Aに債権譲渡(遺産分割協議書の
中で、併せて行われる場合でも)とした上で、
AからBに対する債務免除をする
ということになります。

2 ご質問②~ケース2について~

>被相続人が相続人A(被相続人と別生計)で被相続人の家屋のため家賃のやりとりを
>していたとします。
>相続人Aが相続しました。
>自分が自分に家賃を支払いをすることはなくなると理解しますが、いつからそうなる
>のでしょうか?
>遺産分割協議後、相続発生時にさかのぼって発動するのでしょうか?

このケースでも、遺産分割がされるという意味で、
A以外にも共同相続人がいるケースかと思います。
ですので、下記の当事者関係を前提に回答します。

◯被相続人X
◯相続人 A C
◯生前、XとAが賃貸借契約

ア 相続開始~遺産分割までの契約関係

まず、このケースでも
Xの賃貸人の地位は、
AとCの共有状態になります。

ただし、この期間の具体的なAのAに対する
賃料請求権は、債権者と債務者が
同一となりますので、混同により
消滅します。
(なお、賃貸人の地位自体は、今回は共有者Cが
いるため混同により消滅しません。)

一方で、
CのAに対する賃料請求権(賃料の半分)には、
混同が生じませんので、

ケース1と同様、
CのAに対する賃料請求権は、
C(とA)の決定により、
使用貸借と変更しなけば、発生している
ことになります。

イ 遺産分割後

ケース1と同様に

相続開始~遺産分割の期間に対応する

・C(賃料の半分)のAに対する賃料請求権

は遺産分割の遡及効の対象にはならないので、
遺産分割をしても残存することになります。

仮に遺産分割協議書の中で、
Aがこの賃料請求権を取得するなどの
合意があれば、賃料債権は混同により
消滅することになりますが、

これは遺産分割の遡及効の対象と
なり、相続開始時から存在しなかった
という評価になるわけではありません。

3 ご質問③~ケース3について~

>被相続人の土地を同族会社へ賃貸していたとします。
>土地の無償返還届出書を提出済みとします。
>相続が発生した場合は、上記のケースと同様の考えになるものでしょうか?
>何もなければ、そのまま同じ条件で引継ぎ、変更したい場合は、遺産分割協議後にし
>か契約書を変更することは不可能なのでしょうか?

そうですね。
ケース1のBが同族会社か個人かという
点に違いがありますが、遺産分割と賃料債権との
関係でいうと、ケース1と同様です。

よろしくお願い申し上げます。