民法 会社法

債権者の計算書類等の閲覧請求

(前提)
A社は、B社に対して、債権を有しております。
B社から、資金繰りが悪化しているという理由で返済が困難のため、分割返済にしてほしいとの連絡を受けました。
A社としては本当に財務状況が悪化しているかを確認するため決算書等の開示を求めましたが、拒否されております。

(質問)
1.会社法442条3項によれば、債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、計算書類の閲覧等の請求ができるとあります。
実務で、本項の請求がなされたという話を聞いたことがないのですが、債権者であれば、誰でも当該請求が可能なのでしょうか?
債権者であっても債権金額がいくら以上である必要がある、又は、特別な手続が必要、等当該請求するための要件・手続があればご教示いただけますと幸いです。

2.A社が会社法442条3項の請求をしたものの、B社は当該請求を拒否したとします(通常はその可能性が高いと推測します)。
その場合、A社として、計算書類等の閲覧のために、どのような法的手段を取れるのでしょうか?

3.会社法442条3項2号・4号の請求時は、会社の定めた費用を支払わなければならない、とあります。
こちらの費用の金額は、会社が自由に定められるという理解です。例えば、10万円といった法外な金額として、当該請求を阻止することも考えられますが、法の趣旨に鑑み、実務上このくらいの金額以下にしないと法的に問題があるといった水準はありますでしょうか?

4.会社法442条3項1号については、(2号・4号と異なり)閲覧のための費用支払の必要ありませんが、1号に基づく書面での閲覧時に、決算数値をメモすることや、スマホ等で写真を取ることは認められるのでしょうか?

5.会社法976条8号に、第442条第1項若しくは第2項に違反した場合の過料の規定があります。
442条3項は、同条1項・2項を前提とした規定と推測しますが、B社はそもそも同条1項・2項の備え置きをしていないと思います。
この場合、976条により過料に処されることになるのかと思いますが、具体的にはどのような手続を経て過料に処されるのでしょうか?
(例えば、A社が裁判所に申し出て、裁判所が検討して、その裁量により過料に処すか決定?)

決算公告の懈怠も過料の対象だったかと思いますが、決算公告をしている会社は実際には少ないにもかかわらず、過料に処された会社を聞いたことがありません。
第442条第1項・第2項違反の場合、実際に過料に処される場合というのはどういうケースなのかご教示いただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

1 ご質問①~債権者の計算書類等の閲覧請求について~

>会社法442条3項によれば、債権者は、株式会社の営業時間内は、
>いつでも、計算書類の閲覧等の請求ができるとあります。
>実務で、本項の請求がなされたという話を聞いたことがないのですが、
>債権者であれば、誰でも当該請求が可能なのでしょうか?
>債権者であっても債権金額がいくら以上である必要がある、
>又は、特別な手続が必要、等当該請求するための要件・手続があれば
>ご教示いただけますと幸いです。

ご指摘の通り、会社法上、債権者は会社に対して、
計算書類等の閲覧を請求することができます。

この請求は、
債権者が会社の財産・損益の状況に関する情報を得ることを
目的とするために認められるものであり、

特段不当な目的がない限り、
債権の種類や債権金額による制限はありません。

今回のケースでは、純粋に債権者として、
B社の財務状況を把握するために行われている
ため、まさに法の趣旨にそったもので、
閲覧請求が認められるでしょう。

2 ご質問②~閲覧請求の法的な手段について~

>A社が会社法442条3項の請求をしたものの、
>B社は当該請求を拒否したとします(通常はその可能性が高いと推測します)。
>その場合、A社として、計算書類等の閲覧のために、
>どのような法的手段を取れるのでしょうか?

実際に法的な手段となると、
債権者であるA社からの計算書類閲覧請求に対して、
B社が正当な理由なくこれを拒否する場合には、
A社は裁判所に訴訟提起や仮処分の申立てを行い、
計算書類等の閲覧等を求めることができます。

実際には、訴訟の手続は時間を要するので、

仮処分の申立てにより、閲覧を請求することに
なります。

実務的には、そもそも債務者が債務の履行をせず、
その債権回収の訴訟提起をするぐらいのタイミング(覚悟)で、

計算書類等の閲覧について、
裁判所に申し立てをするケースがほとんどかと
思います。

今回のケースでは、

一旦は、見せないということなら分割返済の
合意はできない旨伝え、開示を求めることに
なるでしょう。

関係性にもよるかと思いますが、

そこまで、伝えても開示せずに、
返済も滞ったということですと、
早めに法的手段を
講じた方が良いケースかもしれません。

他の債権者などに優先弁済しているおそれ
が強いです(ですので、開示しないと
している可能性も比較的高いです)。

そうすると、A社の回収見込みは
小さくなっていってしまいます。

3 ご質問③~請求費用について~

>会社法442条3項2号・4号の請求時は、会社の定めた費用を支払わなければならない、
>とあります。
>こちらの費用の金額は、会社が自由に定められるという理解です。
>例えば、10万円といった法外な金額として、当該請求を阻止することも考えられますが、
>法の趣旨に鑑み、実務上このくらいの金額以下にしないと法的に問題がある
>といった水準はありますでしょうか?

そうですね。諸々議論がありますが、
ご指摘の通り、実質的にこの請求権を行使困難
とするような金額は認められません。

完全に適法というラインですと、
交付する計算書類等の謄本・抄本の準備に要した
印刷代等の実費の相当額となるのでしょう。

実際は、1枚10円~20円
程度であれば認められるかと思います。

(実務的には、会社側の顧問弁護士の立場ですと、
時間などを稼げるという理由で、高額に
設定しているケースもありますね。人件費なども
含めるなどの理由をこじつけたりしているものも
あります。)

4 ご質問④~閲覧の請求の場合にメモや写真の撮影は許されるか~

>会社法442条3項1号については、(2号・4号と異なり)閲覧のための費用支払の必要ありませ
>んが、1号に基づく書面での閲覧時に、決算数値をメモすることや、スマホ等で写真を取るこ
>とは認められるのでしょうか?

そうですね。謄本などの交付請求が2号で認め
られる以上、その内容を債権者が保存すること
を禁止する理由はないので、
1号の閲覧請求で、メモや写真撮影は
認められるでしょう。

ご質問③の費用は、
あくまでも、債権者の希望で交付などまで
請求する場合には、
謄本などにする費用は払ってくださいねという
趣旨のものですので、債権者側の
コストでメモを取ったり写真撮影を
することを禁止する理由にはなりません。

5 ご質問⑤~計算書類の備置きと過料について~

>会社法976条8号に、第442条第1項若しくは第2項に違反した場合の過料の規定があります。
>442条3項は、同条1項・2項を前提とした規定と推測しますが、B社はそもそも同条1項・2項
>の備え置きをしていないと思います。
>この場合、976条により過料に処されることになるのかと思いますが、具体的にはどのような
>手続を経て過料に処されるのでしょうか?

ご指摘の通り、
>決算公告をしている会社は実際には少ないにもかかわらず、過料に処された会社を聞いたこ
>とがありません。

と同様に現実論としては、過料に処される
ということはないと思います。

仮に過料が処される場合の手続きですが、
非訟事件手続法によることになります。
つまり、
裁判所が事情について自ら知る(職権探知)か、
A社などからの通告を受けて、裁判(講学上の処分)
をされることになります。

ですので、A社から事情を聴き裁判所が
発動するという形になれば過料の裁判がなされ、
それに基づいて、検察官の命令で執行するという流れ
になります。

よろしくお願い申し上げます。