A社は数年前に、いわゆる逆ハーフタックスプランの保険に加入し、
次の経理処理を継続して参りました。
(契約内容)
保険契約者 A社
被保険者 役員
死亡保険金受取人 A社
満期保険金受取人 役員
年間保険料 1,000万円
(保険料支払時)
[借方]
支払保険料 500万円
役員貸付金 500万円
[貸方]
現金又は預金 1,000万円
※ 当該貸付金処理にあたっては、取締役会議事録と
金銭消費貸借契約書(有利子)を作成しております。
この度、A社の上場準備にあたって上場審査の妨げになる懸念から
当該契約を解約し、役員貸付金についても精算したいと考えています。
このスキームは、満期保険金の受領を前提としており、満期保険金を財源に
役員が法人からの借入金(法人側の役員貸付金)を返済するつもりで設定したものです。
中途解約した場合、保険契約者であるA社に解約返戻金が支払われる一方で、
役員貸付金の残高が残ってしまうこととなり、役員は返済財源が無い状態で
返済義務を負うような状況が生じてしまいます。
(死亡保険金が支払われた場合も同様です。)
【質問】
経理処理の都合により、当初の想定と異なる形で役員貸付金が残ってしまった場合、
この役員貸付金についての法的性質や返済義務についてご教示頂ければ幸いです。
事実上の保険積立金勘定として考え、解約時に損金算入(役員には返済義務なし)
できれば理想なのですが、取締役会の機関決定や金消契約の経緯からすると
この処理を取ることは大いに問題があるものと認識しております。
また、役員貸付金について債務免除(役員賞与扱い)を行う方法も検討しましたが、
やはりこの処理も上場審査において問題視されるおそれがあるため、
役員には返済のお願いをするつもりですが、どのような理論構成で説明をすれば良いか悩んでおります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
>いわゆる逆ハーフタックスプランの保険に加入し、
>中途解約した場合
>経理処理の都合により、当初の想定と異なる形で役員貸付金が残ってしまった場合、
>この役員貸付金についての法的性質や返済義務についてご教示頂ければ幸いです。
2 回答
この役員貸付金については、
会社と役員で、
金銭消費貸借契約書を締結しているという
ことですので、
この契約内容が
どういうものであったのか
という点が問題になります。
つまり、この契約が、
>満期保険金の受領を前提としており、
>満期保険金を財源に
>役員が法人からの借入金(法人側の役員貸付金)を返済するつもりで設定
>したものです。
ということで、
①この満期保険金の受領を条件として、
返済義務が生じる契約であったか否か
(または満期保険金等が受け取れない場合は、
返済義務が消滅する契約であったか否か)
または
②解約があった場合に、
解約返戻金の半額相当額は役員が会社に請求できる
という内容で、契約が締結していたのか
などの契約の合理的意思解釈の問題となるかと思います。
>※ 当該貸付金処理にあたっては、取締役会議事録と
>金銭消費貸借契約書(有利子)を作成しております。
ということですので、この際の
議事録や金銭消費貸借契約の記載などから
判断できるかを検討することになるかと思います。
>満期保険金の受領を前提としており、
>満期保険金を財源に
>役員が法人からの借入金(法人側の役員貸付金)を返済するつもりで設定
>したものです。
しかし、
このようなスキームであったとしても、
役員としては、将来解約があった場合のリスク
(役員貸付金が残ってしまうこと)
を知った上で、契約を締結していた
とされる可能性が高いと思います。
このようなスキームであるという理由のみでは、
解約すれば、返済義務がなくなるという
認定はなかなか難しいかと思います。
また、上場審査に向けてということですと、
最終的に裁判で解約すれば返済義務がないと
される場合であっても、裁判をするわけでは
ありませんので、はっきりしないところですので、
問題視はされるでしょう。
以上を前提に先生の理論構成について回答します。
>事実上の保険積立金勘定として考え、解約時に損金算入(役員には返済義務なし)
>できれば理想なのですが、取締役会の機関決定や金消契約の経緯からすると
>この処理を取ることは大いに問題があるものと認識しております。
そうですね。民事上の返済義務の問題は
上記の通りですが、
このような経緯の下、一度貸付金処理したものを後から損金にするという方法は問題があるように思います。
>また、役員貸付金について債務免除(役員賞与扱い)を行う方法も検討しましたが、
>やはりこの処理も上場審査において問題視されるおそれがあるため、
>役員には返済のお願いをするつもりですが、どのような理論構成で説明をすれば良いか悩ん>でおります。
こちらについては、税務上は問題ないかと
思いますが、役員個人への債務免除となりますので、
上場審査を視野に入れると問題視されるおそれは
ご指摘の通り、ありますね。
もちろん、上場までの期間をどのように考えていて、
今どのステージにいるのかという点も合わせて
考慮しなくてはならないかと思います。
(上場時期よりかなり前ということになれば、
そこまで細かいことを言われないという
ようなことも考慮する必要があるという意味です。)
また、上場審査で問題視されたとしても、
意見書などで合理的な理由を説明できるのであれば、
最終的には審査が通るということはあることですので、
このあたりは、上場審査をスムーズにするために
役員が借入(またはケースによっては役員報酬の増額)を
してでも返すのか(何れにしても上場審査時に役員貸付金が残って
いれば問題かと思いますので)、
それとも今の時点で、債務免除をして
>このスキームは、満期保険金の受領を前提としており、
>満期保険金を財源に役員が法人からの借入金(法人側の役員貸付金)を
>返済するつもりで設定した
>中途解約した場合、保険契約者であるA社に解約返戻金が支払われる一方で、
>役員貸付金の残高が残ってしまう
という状況で、貸付金の請求をしないことに
合理的な理由があることを基礎付ける資料
を取締役会議事録などで残しておくという
方法もあるかと思います。
ただ、その際は、
当事者の認識としては、
上記の通り、解約があれば、
法的な返済義務がないという
ところであるが、疑義があるため、
そうでない場合には、合理的な理由もある
ことから債務免除するというような
形の方が良いかなども検討する必要がある
かと思います。
なお、仮に、債務免除をするという
ことで、保険解約前であれば、
保険解約の意思決定の条件として、
保険料の負担の半額は役員がしている
ことから、解約返戻金の半額相当額を
役員貸付金から減額するなどと
しておいた方がより合理性があるでしょう。
もちろん、上場審査という視点では、
先生のご見解が一番安全だと思いますし、
本気で上場を目指しているということであれば、
腹を決めて役員が返済するという意思決定を
していただくことが望ましいと思います。
よろしくお願い申し上げます。