82歳の社長が有限会社○○鉄工所を経営しています。後継者はいません。
従業員は69歳と44歳の男性2人です。
売上が年々落ちていて、去年の夏から更に売上が半分に落ち込んだこと
で、従業員の給料を支払うのがやっとの状態になっています。
金融機関の借金は4千万円ほどで、リスケを行っています。
また、税金の滞納があり、支払うのも難しい状態です。
前期の顧問税理士には顧問料を支払えていないません。
社長個人の財産は特に無いようです。現在住んでいる所は月額家賃4万
円の賃貸アパートです。年金の収入も会社に入れています。
【質問】
①破産手続で裁判所に申立てをしても、多少のお金が必要だと思いますが、
この状況の場合、どのような手続きを選択するのがベストでしょうか。
②連帯保証人になっている社長の年金も差押えの対象だと思いますが、
社長の生活の保障を考えますと、全て押さえられる訳ではないと思います。
社長の年金についての差押えはどのような形になるでしょうか。
よろしくお願いいたします。
>①破産手続で裁判所に申立てをしても、多少のお金が必要だと思いますが、
> この状況の場合、どのような手続きを選択するのがベストでしょうか。
債務超過の場合の会社の倒産手続は、
特別清算と破産の2種類があります。
(通常の清算手続はできません)
特別清算のメリットとしては、
破産よりも費用が少額ですむ点がありますが、
今回は、以下の点で向かないと考えられます。
・株式会社でしか利用できず、有限会社ではできない
→有限会社を、株式会社に変更する手続が別途必要
・少なくとも債権額の3分の2を有する債権者の同意が必要(会社法567条1項2号)
→債務が金融機関からの借入と税金なので、事実上難しいと思われる
・社長個人の債務(おそらく金融機関の連帯保証に入っているのでしょう)の整理はできないため、
社長個人について別途破産手続が必要
したがって、今回、債務を整理して、
すっきりするのであれば、
会社と社長個人の二者について、
破産を申し立てるのが
よいのではないかと思います。
破産に要する費用としては、
①裁判所に納める予納金(破産管財人の報酬に充てられます)
②破産の申し立てを依頼する弁護士に支払う弁護士費用
があります。
①は、東京地裁の扱いでは、最低約40万円程度(破産管財人が
行う業務が多い複雑な案件では、もう少し増える可能性はあります。)
※裁判所により異なる場合もありますが、
だいたい同じようなものだと思います
②は、弁護士によっても区々でしょうが、
それほど複雑でない案件であれば、
数十万円程度でやってくれるところも
あるかと思います。
もし、これらの費用が捻出できないという
ことであれば、このまま放置して、
事実上、休眠してしまうという選択肢も
なくはないですが、
社長個人への督促はきますし、
社長個人の資産が差し押さえられる
可能性もあります。
また、社長が亡くなった場合には、
債務が相続されてしまう可能性もあります。
(その場合は、相続放棄をすればよい
ということにはなりますが。)
ですので、会社にいくらか資金が残っている
という状態であれば、早めに破産される方が
よいのではないかと考えます。
(少なくとも、早めに弁護士にご相談された方がよいでしょう)
2 ご質問②~年金の差押え可否~
>②連帯保証人になっている社長の年金も差押えの対象だと思いますが、社長
> の生活の保障を考えますと、全て押さえられる訳ではないと思います。
> 社長の年金についての差押えはどのような形になるでしょうか。
(1)年金受給権の差押えの可否
あくまでもこれから発生する受給権について
ですが、
債権者が銀行などの一般の債権者の場合には、
年金の差押えは禁止されています。
(国民年金法24条、厚生年金保険法41条)
したがって、銀行などの債権者は、
社長の年金を差し押さえることはできません。
なお、滞納している債務が税金の場合は、
一定の範囲で年金の差押えも認められていますが、
今回、滞納しているのは、
社長個人の税金ではないので、
会社の滞納税金について、
社長が第二次納税義務を負うような例外的な
場合でない限り、気にされなくてもよいかと思います。
(2)年金が振り込まれた口座の差押えの可否
ただし、差押えが禁止されるのは、
年金受給債権自体であり、
年金が口座に振り込まれた場合には、
預金債権に変わりますから、
差押禁止の効果が及ばなくなり、
原則として差押えが可能になります。
(最高裁平成10年2月10日判決)
なので、年金が振り込まれた口座は
差押えを受ける可能性があります。
(3)年金が振り込まれた口座の差し押さえを受けた場合の救済方法
では、年金が振り込まれた口座の差押えを受けた
場合に、まったく救済措置がないかというと、
そうではありません。
差押えを受けた者が、差押禁止債権の範囲変更の申立て
(民事執行法153条)
をするという個別的な手続きがあります。
具体的な事情によっては、
その差押範囲を制限することが妥当な場合もあることから、
いったん認められた差押命令の全部または
一部の取消を求めることができる制度です。
この差押禁止債権の範囲変更の申立てをして、
裁判所が範囲の変更を認めるかどうかは、
①口座内の預金債権が、入金された給付金である(年金が原資である)こと
②差押えにより、年金生活者の生活に支障が生じること
が証明できるかによるところとなります。
したがって、口座に入ってくる原資は年金しかなく、
この口座の資金がないと生活していけない
というようなケースであれば、
この制度により、差押えを止めることができます。
ただ、別途このような法的手続をとる必要があり
面倒ですし、この申立てが認められるかは不確かな
部分も否めません。
したがって、破産して、社長個人の債務も整理することが
できるのであれば、これを行っておくに越したことはないと思います。
よろしくお願い申し上げます。