責任等についてご教示を宜しくお願い致します。
A…賃借人(飲食店経営)
B…賃貸人
C…不動産仲介業者(保険代理店も兼ねている)
【概要】
AはBとの賃貸借契約締結と同時に保険代理店であるCを経由して
火災保険(2年更新)の契約をしました。
この火災保険は平成30年10月31日に保険期間が満了していますが、
保険契約の更新に関する案内はAの元に届きませんでした。
Cに確認をしたところ、保険契約更新の案内がAに届かなった理由として、
Aの旧自宅住所に送付したが戻ってきたためと言っています。
その後、平成30年11月中に火災が発生し、Aが保険会社に連絡をしたところ、
初めて契約が終了していることに気がつきました。
【ご質問】
①Cは保険代理店であると同時に不動産仲介業者を兼ねています。
平成30年10月中に賃貸借契約更新のためAが経営する店舗に来社し、
賃貸借契約更新の手続きをしましたが、保険契約更新の手続きの話はありませんでした。
(この時点で保険契約更新の案内はCの元に戻っていたそうです。)
この場合、Cに対して何かしらの責任を取ってもらうことは可能でしょうか。
②AとBの間で締結した賃貸借契約書に、「Aが指定する保険会社と火災保険を締結すること」
という文章が入っています。
今回の更新の際に火災保険の契約は既に終了していたのですが、
この点についてCに何かしらの問題提起をすることは可能でしょうか。
③AとBの間で締結した賃貸借契約書に、「原状回復工事はAが指定する工事業者が行う」
という文章が入っていますが、今回の火災に伴う内装工事についてもAが指定する業者でなければ
ならないと言われています。
今回のような内装工事の場合、Aが指定する業者でなければならないのでしょうか。
お手数ですがご確認を宜しくお願い致します。
(1)ご質問
>①Cは保険代理店であると同時に不動産仲介業者を兼ねています。
>平成30年10月中に賃貸借契約更新のためAが経営する店舗に来社し、
>賃貸借契約更新の手続きをしましたが、保険契約更新の手続きの話はありませんでした。
>(この時点で保険契約更新の案内はCの元に戻っていたそうです。)
>この場合、Cに対して何かしらの責任を取ってもらうことは可能でしょうか。
(2)回答
ア 保険代理店の義務違反について
保険契約の更新・管理は、
保険代理店Cとの契約内容には
なっていないと思われますので、
Aの責任においてなされるものであり、
Cに対して、損害賠償請求はできないという
考え方が原則になります。
ただし、裁判例などを見ていると、
例外的な信義則上の義務(論理的には異なりますが、
イメージとしては税理士の先生の確認義務に
近いものと考えていただければ良いかと
思います。)を認めるものがあります。
地裁の支部レベルですので、
どこまで先例性があるものかという
点はありますが、
火災保険以外にも複数の保険契約を
その代理店を介して契約しており、
かなり近く親密な関係が認められる
ことを前提として、形式的な通知のみではなく、
契約更新の意思の有無を確認する義務を
有しているとしたものもあるようです
(前橋地裁高崎支部平成8年9月5日判決)。
今回のケースでは、
>保険契約更新の案内がAに届かなった理由として、
>Aの旧自宅住所に送付したが戻ってきたためと言っています。
ということで、
>平成30年10月中に賃貸借契約更新のためAが経営する店舗に来社
>(この時点で保険契約更新の案内はCの元に戻っていたそうです。)
という事情もあわせて、積極的に意思を
確認する義務があったという構成もないわけで
はないと思います。
ただ、Aの契約更新上の義務になっている以上、
保険更新の意思はすでに明確であり、
確認する義務はなく、あとはA自ら更新手続を
すべきという反論もあり得るかと思います。
また、
>保険契約更新の案内がAに届かなった理由として、
>Aの旧自宅住所に送付したが戻ってきたためと言っています。
ということですと、
住所地の変更があれば、保険会社などに
届け出る義務がAにあるという仕組みになっている
と思われます。
例えば、Aがその届出を怠っていたという
ことですと、Cとすれば、
信義則上の義務を履行しているという
ことになる可能性もあります。
何れにしても例外的に救済される
可能性がある部分にはなりますが、
このような例外的な救済は、個別具体的
な事情や裁判官への印象の与え方、裁判官の
考え方にもよるところですので、
実際にやってみないとわからない
という部分にはなります。
ただ、損害金額にもよるところですが、
原則としては、認められないのだから
諦めるというようなケースではないと
思います。
イ Cの責任の範囲
仮に、上記の構成でCに義務違反が認められ
たとしても、損害額全額が認められるわけではないでしょう。
Aの過失も考慮される過失相殺というものがあります。
(過失相殺についての詳細は、私の下記事を御覧ください)
https://zeirishi-law.com/zei-bai/kashitsu-sonekisosai
このような例外的な信義則に基づく責任を認めるケースですと
概ね1~3割程度までCに責任があるとされることが多いです。
2 ご質問②~「保険会社と火災保険を締結すること」との契約文言について~
(1)ご質問
>AとBの間で締結した賃貸借契約書に、「Aが指定する保険会社と火災保険を締結するこ
>と」という文章が入っています。
>今回の更新の際に火災保険の契約は既に終了していたのですが、
>この点についてCに何かしらの問題提起をすることは可能でしょうか。
(2)回答
ア 前提
>「Aが指定する保険会社と火災保険を締結すること」
こちらは通常、「Bが指定する」となっている
ケースが多いかと思いますが、いかがでしょうか。
それを前提に回答します。
イ 問題提起
問題提起としては、Cが仲介に入っている契約書に
当該規定がある以上、Aが保険契約を更新しているか
について、Cは、確認するべきであったということは
可能かと思います。
しかし、保険契約を締結することがAの義務
であることが明確になりますので(つまり、契約
上の義務である以上、明確に認識していたとされる)、
仲介者が確認する義務があるとまで
いえる問題提起となるかというと
少し苦しいように思えます。
ただ、ご質問①の信義則上の義務を基礎付ける
方向の理由の1つとしては使われることは
良いかと思います。
3 ご質問③~「原状回復工事は指定する工事業者が行う」との契約文言について~
(1)ご質問
>AとBの間で締結した賃貸借契約書に、「原状回復工事はAが指定する工事業者が行う」
>という文章が入っていますが、今回の火災に伴う内装工事についてもAが指定する業者でな
>ければならないと言われています。
>今回のような内装工事の場合、Aが指定する業者でなければならないのでしょうか。
(2)回答
ア 前提
>「原状回復工事はAが指定する工事業者が行う」
こちらも、「Bが」かと思いましたので、
そちらを前提に回答します。
イ 原状回復工事の意味
つまるところ、この「原状回復工事」について
何の工事を当事者が想定していたのか
というところの意思解釈の問題になります。
この辺りは、明確な対象事項が
契約書で特定されていない以上、
契約書の他の規定などから
どのように意味で解釈されるのかという
評価の問題になってしまいます。
先方が争う姿勢を見せるということであ
れば、裁判までしなければ究極的には
わからないところです。
この「原状回復工事」ですが、
通常は、賃貸借契約終了に基づく原状回復
を指しており、今回のような火災からの
原状回復を含む趣旨ではないと主張することで
Bに納得してもらうということはあり得るところかと思います。
(認めてくれる可能性も比較的あるところかと思います。)
ただし、Bの指定とした趣旨は、
自己が所有している建物について、
知らない業者を入れたくないということで
賃貸借契約終了に基づく原状回復に
限らない趣旨で、この規定を入れたという立論も
比較的説得力のあるところかと思います。
なお、契約書に特別な違約金規定などが
ないというケースでは、
Aが業者を選定し、工事をしたとしても、
実際に「B」に「損害」が生じなければ、
損害賠償請求が認められるわけではありません。
通常のケースですと、話し合いで同意を
とって行うことが一般的かとは思います。
よろしくお願い申し上げます。