怪我をしたのが従業員であれば、会社は労働基準法の災害補償義務に基づき当該従業員へ補償金を支払い、会社は福利厚生費、本人は非課税の取扱いの対象となるところです。
会社は社長に対しては労働基準法の災害補償義務は負わないと思います。
心身に加えられた損害につき支払いを受ける慰謝料その他の損害賠償金は所得税の非課税とされているところですが、
会社の業務に社長が携わり負傷した場合、会社は社長に賠償責任は生じないものでしょうか。
異なってくるところでもあるかと
思いますので、
民事→所得税法の非課税規定への流れで解説します。
1 ご質問と回答の結論
>心身に加えられた損害につき支払いを受ける慰謝料その他の損害賠償金は
>所得税の非課税とされているところですが、
>会社の業務に社長が携わり負傷した場合、会社は社長に賠償責任は生じないものでしょうか。
>心身に加えられた損害につき支払いを受ける慰謝料その他の損害賠償金は
>所得税の非課税とされているところですが、会社の業務に社長が携わり負傷した場合、
>会社は社長に賠償責任は生じないものでしょうか。
ご指摘の通り、このような場合、
民事上は、会社が賠償責任を負うこととなるケース
は、実務上はほとんどないと思われます。
ただし、所得税法上の非課税規定の適用については、
民事の損害賠償の要件を全て充足する必要があると
されているわけではないため、実質的に「損害」の
補填であれば、適用が許されるケースかと思います。
2 理由
(1)民事上の損害賠償請求について
ご指摘のとおり、
>会社は社長に対しては労働基準法の災害補償義務は負わないと思います。
このような理解になります。
労働基準法は、「労働者」を対象としていますので、
労働者ではない社長(代表取締役)に適用はありません。
従業員が、会社の業務中にけがを
したということであれば、
会社側に落ち度があった場合、
災害補償義務とは別に、
損害賠償義務が発生することがあります。
法的な根拠としては、
会社が従業員との雇用契約における
付随的な義務として、労働環境を安全に管理する
義務を負っており、これを怠ったことにより
ケガをしたというような場合に、
損害賠償義務が発生するものです。
(契約上の義務を怠ったことによる債務不履行責任)
たとえば、工場での巻き込み事故で、
安全な作業環境を確保する措置をとっていなかった
などのケースを想定していただけると
わかりやすいかと思います。
ただし、これは、「雇用契約」に
付随する義務であるため、
雇用契約関係にない社長は、会社に
このような損害賠償を請求するのは、
難しいです。
また、不法行為に基づく損害賠償請求という
法的な構成もあり、従業員から請求する場合には、
上記の安全配慮義務違反とともに主張
されることもあります。
この構成であれば、「雇用契約」関係になくてもよいので、
社長からの請求というのは法論理上はあり得ますが、
実際は、会社に使用されている従業員という立場だからこそ、
不法行為責任も認められるという要素が大きく、
このような関係にない社長が、
会社に請求することは非常に難しいと思います。
したがって、民事上、会社から社長に対する
損害賠償義務が認められるという事例は
ほとんどないと言えるかと思います。
(2)所得税の非課税規定(所得税法9条17号、同法施行令30条)との関係
所得税法上、損害賠償金が非課税とされる根拠は、
つまるところ、「損害」の「補填」であれば、
プラスマイナス0であるという点にあります。
(ですので、販売商品等の補填や必要経費を補填するものは、
非課税になりません。)
このような趣旨から、ここにいう「損害賠償金」は、
厳密に、損害賠償の要件をを満たす必要はないが
①納税者に損害が現実に生じ 又は 生じることが確実に見込まれ
②その填補のために支払われるものに限られる
とされています(大阪地裁昭和54年5月31日。同判決は、
高裁を経て、最高裁昭和56年4月23日に確定)
確かに、社長ということで、民事の考え方を
重視すれば、給与所得になるということに
なるかと思いますが、
上記の通り、結局のところ、
損害が実際に生じており、それへの補填
といえる金額の支払いであれば、プラス・マイナス
0と評価できますので、社長であっても、
非課税規定の適用は可能であると考えられます。
例えば、治療に要した費用や相当な見舞金は
非課税となると思います。
よろしくお願い申し上げます。