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遺留分の生前放棄と生命保険金の受取人

遺留分の請求と生命保険金の受取人の関係についてですが、
一般的には請求を受ける側を受取人とし、
その生命保険金を遺留分の支払原資にしていることも多いと思います。

逆に、遺留分権利者を受取人とする生命保険に加入し、
遺留分の生前放棄をさせることで家庭裁判所は納得するものでしょうか?

納得するのであれば、
生命保険金の額は遺留分相当額程度は必要という理解で正しいでしょうか?

また、遺留分相当額よりも低くてもいいならば、
どの程度であれば、低くても認められるものなのでしょうか?

それから、遺留分の生前放棄が成立した前提で、
遺留分の生前放棄時よりも相続財産がかなり増えてしまった場合、
遺留分の生前放棄を相続開始後に撤回される可能性はあると理解していますが、
この理解で正しいですか?

よろしくお願いします。

1 ご質問①~民法上の遺留分放棄の代償と生命保険~

>逆に、遺留分権利者を受取人とする生命保険に加入し、
>遺留分の生前放棄をさせることで家庭裁判所は納得するものでしょうか?
>納得するのであれば、
>生命保険金の額は遺留分相当額程度は必要という理解で正しいでしょうか?

そうですね。
こちらも、生命保険の受取人にする
ことは代償として有効なものでしょう。

ただ、生命保険は受取人の変更が
できるものですので、民法上の
遺留分放棄によると裁判官によっては
嫌がる者は比較的多いと思います。
(下記の通り、事情変更で、
後で取り消される可能性が高いということであれば、
保身含めて、あえて許可しないという判断もあり得るところ
かと思いますし、許可するかは裁判官の裁量になります。)。

金額については

◯自由意思に基づくものであるか
◯放棄の理由に合理性・相当性があるか
◯放棄と引き換えの代償給付があるか

などの理由を総合考慮しますので、
遺留分相当額程度が必要というわけでは
ありません。

あとは、実際のところ、この手続きの場合
放棄する者が家裁の手続きを行うわけですので、

必要に応じて、裁判官から放棄の理由や放棄をする
という考えに至った過程などを聞かれ、
その回答などによって、裁判所の裁量で
許可するのか決めるものです。

>また、遺留分相当額よりも低くてもいいならば、
>どの程度であれば、低くても認められるものなのでしょうか?

こちらは、本当にケースバイケースですね。
家族関係(被相続人との関係性や相続人間の関係性)
や放棄の理由(←特にこれは重要)
や放棄をするに至った過程、遺留分放棄者の態度や質問への
回答に依存します。

ですので、いくらなら認められるかというのは
事案の全体との兼ね合いになりますので、
なんとも言い難いところです。

なお、民法の遺留分の放棄も
昔と異なり、司法統計上平成28年度
は約93%の許可率と高くなっています。

2 ご質問②~遺留分放棄の撤回~

>遺留分の生前放棄が成立した前提で、
>遺留分の生前放棄時よりも相続財産がかなり増えてしまった場合、
>遺留分の生前放棄を相続開始後に撤回される可能性はあると理解していますが、
>この理解で正しいですか?

厳密にいうと、放棄者に撤回権があるわけではなく
裁判所に事実上の申し立てをして、

裁判所が職権(裁量)で許可の取消しをする場合がある
ということです。

そして、審判後の事情変更による
遺留分放棄の許可審判の取消しは、

遺留分放棄の前提となった事情が
著しく変化し、その結果放棄を維持する
ことが明らかに著しく不当になった場合に
限られるとするのが実務です。

なお、相続開始後の取消しについても、
見解の対立はあるものの、認められる
(東京家裁平成2年2月13日審判など)
とされています。
ただし、相続開始後は相続開始前の取消しよりも
特に慎重な配慮が求められるものとされます。

相続財産が増加する可能性がある
ということは、通常放棄時に予測できる
事情になりますので、それのみで取消しを
認めるということには実務上ならないかと思います。

上記の平成2年の審判例も、財産価値(不動産)の値上がりで
相続財産が10倍程度の価値になっている
ものでも、取消しは認められていません。

それよりも、上記の放棄の理由の前提が変わった
ことの方が重要でしょう。

事業承継に関して言えば、後継者として、
会社を継続していくという前提で放棄したにも
関わらず、後継者が会社を継続していないなどに
なるでしょう。

また、生命保険の例でいえば、受取人の変更
などがあれば、事情の変更があったといえるでしょう。

よろしくお願い申し上げます。