相談を受けています。
一次相続の父の相続のとき遺言書がなくてもめて調停になったため、
母には遺言書を記載してもらっています。
その土地が相続人は欲しいので、母の土地を生前に動かしておきたいとします。
建物は相続人所有で第三者に賃貸して相続人が不動産所得を申告しています。
土地は母所有で使用貸借になっています。
質問1
適正な売買にすれば特別受益になることはないと考えていますが、
合っていますでしょうか?
質問2
相続人への贈与になると贈与後1年を超えても特別受益に該当するという
ことで合っていますでしょうか?
質問3
相続人への贈与が特別受益になるのなら、相続人の配偶者へ贈与した場合は
どうなりますでしょうか?
1年以内は相続人以外でも特別受益に該当するとありますが、1年を超えれば
特別受益にならなくなるものでしょうか?
下記のURLからは、相続人の配偶者に贈与しても相続人への贈与とみなされ
特別受益になってしまう可能性がやはり高いでしょうか?
特に相続人の配偶者が贈与を受ける合理的な理由も思いつきません。
または特別受益にならない方法は売買以外にあるのでしょうか?
質問4
仮に遺言書にと特別受益の持ち戻しの免除の記載があった場合は、
遺留分減殺請求を受けた場合にでも特別受益分を差し引かないで相続財産を計算すること
ができ有効なのでしょうか?
贈与をした相手が相続人の場合、特別受益に該当する贈与であれば遺留分の算定の基礎に含まれますし、
遺留分減殺の対象になります(最三小判平成10年3月24日)。
この場合、数十年前の贈与など、被相続人の死亡よりはるか昔に行われたものであっても、時期に関係なく、
遺留分の算定の基礎に含まれますし、遺留分減殺の対象になります。
また、持戻し免除の意思表示がある場合であっても、遺留分減殺の対象になります。
遺贈が遺言によってなされる以上、 遺言によって行うこととなります。
但し、持ち戻し免除の意思表示をしても、他の相続人の遺留分を侵害することは出来ません。
特別受益を受けた相続人の取得分により、遺留分を侵害された相続人は遺留分減殺請求権により、
自分の最低限の相続分を守ることが出来ます
ということで、遺留分を侵害している遺言書だとあまり記載があっても意味をなさないものなのでしょうか?
贈与した相手が相続人以外の場合には、
①相続開始前の1年間にした贈与
②被相続人と受贈者の双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与
のいずれかの贈与の場合にのみ、遺留分の算定の基礎に含まれます。
したがって、相続開始前の1年間より前に行われた贈与で、被相続人と受贈者のいずれかが遺留分権利者に損害を加えること
を知らなかった贈与の場合には、遺留分の算定の基礎に含まれません。
なお、「遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与」か否かについては、「贈与財産の全財産に対する割合だけではなく、
贈与の時期、贈与者の年齢、健康状態、職業などから将来財産が増加する可能性が少ないことを認識してなされた贈与であるか
否かによるものと解すべき」とされています(東京地判昭和51年10月22日判時852号80頁)。
一概にはいえませんが、被相続人となるものが相当高齢になって、収入もない状態で、全財産を贈与する場合は、
「遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与」に該当するといえるでしょうが、微妙な場合はケースバイケースと言えます。
相続人(娘)の夫に対して不動産を贈与したケース
裁判所は、贈与された経緯から、贈与の対象は実質的には相続人(娘)であって、形式的に夫名義にしたのは夫を立てたほうが
良いとの配慮からであるという事情を認め、このような事情がある場合には、特別受益が認められるとしました
(福島家裁白河支部昭和55年5月24日審判)。
相続人以外の者への贈与・遺贈を特別受益と判断する基準についてまとめます。
<相続人以外の受益の特別受益性の判断基準>
相続人以外の者への贈与・遺贈について
実質的に『相続人への直接贈与』と異ならない場合
→特別受益として認める
※福島家裁白河支部昭和55年5月24日
これ自体は抽象的な基準です。判断の対象となる,より具体的な事情については次に説明します。
4 相続人以外の受益の実質的判断要素
相続人以外への者への遺贈・贈与が特別受益になる例外的な判断もあります(前記)。この判断の対象となる事情を整理します。
<相続人以外の受益の実質的判断要素>
あ 贈与の経緯
ア 合理的な理由
イ 実質的な対価
い 贈与された物の価値・性質
ア 財産の規模・金額
イ 他の相続人との不均衡の程度
う 特定の相続人が受けた利益
典型例;『特定の相続人』の扶養義務の対象者
→特別受益として認められる方向性
※福島家裁白河支部昭和55年5月24日
>質問1
>適正な売買にすれば特別受益になることはないと考えていますが、
>合っていますでしょうか?
適正な売買ということであれば、
特別受益にはならず、遺留分算定の
持戻しの対象にもなりません。
2 ご質問②〜相続人への贈与と特別受益
>質問2
>相続人への贈与になると贈与後1年を超えても特別受益に該当するという
>ことで合っていますでしょうか?
現行法では、特別受益にあたる贈与については、
期間制限なく遺留分算定の際の持戻しの対象となります。
ただ、改正相続法では、
これに10年の期間制限がなされ、
相続開始前の10年間になされたもののみに
限定されることとなります。
※改正相続法は、2019年7月1日発生の相続から適用されますので、
今回のご相談のケースでは、改正後の適用になる
可能性が高いと思います。
したがって、相続開始の10年前になされた贈与は、
特別受益にあたるとしても、遺留分の算定基礎財産への持ち戻しの
対象ではなくなります。
ただし、これにも例外があり、
「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」
は(新民法1044条1項ただし書)、
その贈与は持ち戻しの対象となります。
この要件は現状では、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大審院昭和判決11年6月17日
贈与当時財産が残存財産の価額を超えることを知っていたのみならず、
将来相続開始までに被相続人の財産に何らの変動もないこと、
少なくともその増加のないことを予見していた事実があることを必要とする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
というように限定的に解釈されていますが、
母が年金生活をしている等でその他の収入がなく
増加がないことが見込まれるケースですと
10年を超えても、持ち戻しの対象となることが
全くないわけではないというところです。
3 ご質問③
>質問3
>相続人への贈与が特別受益になるのなら、相続人の配偶者へ贈与した場合は
>どうなりますでしょうか?
>下記のURLからは、相続人の配偶者に贈与しても相続人への贈与とみなされ
>特別受益になってしまう可能性がやはり高いでしょうか?
>特に相続人の配偶者が贈与を受ける合理的な理由も思いつきません。
相続人の配偶者への贈与が
持戻しの対象となるかどうかについては、
・原則としてならない
・例外的に、真実は相続人に対する贈与であるのに、
名義のみを配偶者としたというような場合には特別受益に該当し持ち戻しの
対象となる
ということになります。
参考URLでも記載されている
福島家裁白川支部審判昭和55年5月24日でも、
贈与の経緯、贈与された物の価値、性質、
これにより相続人が受けている利益などを考慮して、
実質的には相続人に直接贈与されたのと異ならないと認められる場合には、
相続人に対する特別受益となるとしています。
そして、結論として、相続人(妻)の配偶者(夫)に
対する土地(農地)の贈与について、
相続人に対する特別受益にあたり、
持ち戻しの対象になるとしています。
今回の事案について、
すべての事情をお伺いしているわけではないので、
確実なことは言えませんが、
今回の事例では、
配偶者に土地を贈与するとしても、
実際に土地を使用するのは、
建物所有者である相続人であり(使用貸借ということになるのでしょう)、
利益を受けているのは相続人なので、
実質的には相続人に直接贈与されたのと
異ならない、と言われてしまう可能性が
高い事案かと思います。
また、配偶者に贈与する合理的な理由が
ないということですと、そのように
判断される可能性が高いです。
>1年以内は相続人以外でも特別受益に該当するとありますが、1年を超えれば
>特別受益にならなくなるものでしょうか?
遺留分の算定における
特別受益の持ち戻しについては、
現行法、新民法での期間制限は、
上記のとおりです。
>または特別受益にならない方法は売買以外にあるのでしょうか?
持ち戻し免除の意思表示をすると
いう方法がありますが、
遺留分を侵害する限度においては、
無効になることは、ご質問④のとおりです。
4 ご質問④
>質問4
>仮に遺言書にと特別受益の持ち戻しの免除の記載があった場合は、
>遺留分減殺請求を受けた場合にでも特別受益分を差し引かないで相続財産を計算すること
>ができ有効なのでしょうか?
>遺留分を侵害している遺言書だとあまり記載があっても意味をなさないものなのでしょう
>か?
持ち戻し免除の意思表示は、
遺留分を侵害する限度においては、
無効となります。
したがって、持ち戻し免除の意思表示は、
遺留分減殺請求を防ぐという目的での利用は
難しいことになります。
(遺産分割における相続分の算定のための特別受益を計算する際に
意味があるというだけです。)
よろしくお願い申し上げます。