民法 貸倒 法人税

清算中の会社への債権と貸倒損失の可否

質問①
10数年以上前に解散登記はされているが、清算結了されていない法人の
売掛金を有していますが、その事実を知ったのが今期で、当該事業年度で
債権放棄の内容証明を送付し、貸倒れ処理しようと思っていますが、
損金算入が認められるでしょうか?

質問②
10年以上前から有限会社の売掛債権を有していますが、登記上は存続するのですが、
代表者との連絡も取れず、会社自体も活動していません。
この場合、債権放棄の内容証明を送付することで貸倒れとして損金算入することが
可能でしょうか?
回収不能であるかどうかは納税者側で証明しないといけないと聞いていますが、
どのように証明すればよいでしょうか?

質問③
上記質問②の場合に、その債権を当社の代表者に譲渡し、その譲渡代金と代表者からの
借入金とを相殺することは可能でしょうか?
税務上損益に影響はないと思われますが、処理自体認められない場合、代表者の借入金について
債務免除益等の益金算入となる可能性はありますか?

以上よろしくお願いします。

1 ご質問①
>10数年以上前に解散登記はされているが、清算結了されていない法人の
>売掛金を有していますが、その事実を知ったのが今期で、当該事業年度で
>債権放棄の内容証明を送付し、貸倒れ処理しようと思っていますが、
>損金算入が認められるでしょうか?

まず、解散しているが、清算結了がされていない
法人の場合、法人格は維持されていますので、
法律上、債権自体は残っている状態です。

ですので、理論上債権放棄をして
債権が法的に消滅した時点で、法律上の貸倒れ処理をすることが可能です。

税務署が反論してくるとすれば、
事実上の回収不能となった時点で、
事実上の貸倒れ(法基通9ー6ー2)とすべきとして、
期ずれである(解散した時や債権の消滅時効期間が経過した時
を基準として)
という主張が考えられますが、

ご存知の通り、国の立場は、
事実上の貸倒れのケースでは、損金経理が
必要として、更正の請求なども認めない
立場をとっていますので、

損金経理を必要としているのだから、
国側で事実上の貸倒れを根拠とする期ずれ
指摘は認められないと反論すれば良いでしょう。

なお、損金経理についての国の見解の
法律上の根拠は不明で、
租税法律主義の観点からは批判の多いものです。
詳細は以下の記事をご覧ください。
https://zeirishi-law.com/kashidaole/solon

現実論としては、確かに事実上の貸倒れについては、
一定の線引きがなければ(いちいち裁判するわけにもいかないので)
貸倒時期の確定が困難なので、このようにしているというのは、
理解できるところではあります。

2 ご質問②

>10年以上前から有限会社の売掛債権を有していますが、登記上は存続するのですが、
>代表者との連絡も取れず、会社自体も活動していません。
>この場合、債権放棄の内容証明を送付することで貸倒れとして損金算入することが
>可能でしょうか?

はい。法人格がある以上、理論上債権放棄による
法律上の貸倒れ処理は可能です。
事実上の貸倒れを利用した国側の反論については、
上記と同様です。なお、別途回収不能の問題は
下記に記載します。

>回収不能であるかどうかは納税者側で証明しないといけないと聞いていますが、
>どのように証明すればよいでしょうか?

厳密に言うと、法律でいうところの
証明責任が納税者にあるわけではなく、事実の立証の問題として、

◯債権がある→普通回収できる

という事実の推定(予想)が働くため、何も主張・立証できなければ、
回収できるという結論になるというところです。
(詳細は、https://zeirishi-law.com/kashidaole/solon#i-3)

ですので、回収不能であることを納税者が厳密に証明する必要が
あるのではなく、

回収不能であることをある程度合理的に推認させる
立証ができれば問題ありません。

具体的にいうと、
◯10年以上支払いがないこと(同一債権がB/S上のっかていること)
◯代表者に連絡も取れない(または登記簿上の所在地において、
会社も活動していない)ことをメモなどに残した上で、
取締役会などで、債権放棄を決定した経緯を議事録に残して
おくこと
◯内容証明などを送って回収努力をしたが支払いがないこと
(この場合、内容証明を取っておけば良いでしょう)

などが証拠とともに説明できれば足ります。

実務レベルでいうと、債務者が純粋な第三者法人
で、10年以上支払いがないという
ことであれば、認められるかなというところです。

もちろん、金額が大きくなれば、税務署のチェックも
厳しくなるので、その場合は、
上記などの証拠もしっかり残しておいた方が良いでしょう。

なお、余談ですが、ご質問のような
会社の場合には、債権放棄の内容証明が拒否・不在または所在不明
で戻ってきてしまうというケースもあります。

そのような場合には、相手に債権放棄の「到達」
がないということで、債権放棄の効果が生じない
ということがありますので、ご注意ください。

所在不明などの場合、
金額が小さければ、「事実上の貸倒れ」で
処理してしまうということもありえますが、

金額が大きい場合は、「法律上の貸倒れ」とする
方が、期ずれ含めリスクが低いので、

以下の私の記事に、

・内容証明郵便の受取拒否または不在が続く場合
・行方不明の場合

についての対策を記載しておりますので、
ご参考になさってください。
https://zeirishi-law.com/kashidaole/saimumenjyo/1

3 ご質問③
>上記質問②の場合に、その債権を当社の代表者に譲渡し、その譲渡代金と代表者からの
>借入金とを相殺することは可能でしょうか?
>税務上損益に影響はないと思われますが、処理自体認められない場合、代表者の借入金につ
>いて債務免除益等の益金算入となる可能性はありますか?

あり得るとすれば、税法理論上は、

「経済的価値なしの売掛債権(0円)」の財産を額面で、
代表者に譲渡したことにより、代表個人から法人への
贈与があり受贈益(借入金の相殺金額部分)になる

というのはありえます。

ただ、そのように認定したとしても、
ご指摘に通り、前提として
①額面の債権を0円で譲渡し、
②額面額相当額の贈与を受けた
となるのでしょうから、
法人には債権の譲渡損失
があることになりますので、損益には関係ないでしょう。

実務上も、特に実質的な金銭債権の評価損のような行為には
厳しい(貸倒れしかり)ですが、
金銭債権を額面通りに評価するということですと、
むしろ否定する理由はあまりないかと思います。

なお、
債権譲渡をしたことを債務者に主張するには、
債務者対抗要件(債務者への通知)などが
必要になりますが、これがなされていない
ということですと、

実態としては、代表個人と会社の
譲渡合意があるわけではなく、
ただの仮装合意であったという認定
がないわけではないので、

債務者対抗要件として、
当社から債務者の会社に債権譲渡の事実を内容証明など
を送られることはした方が良いとは思います。

仮に仮装合意とされると、

借入金を減殺行為までも無効になるのか
(単純に借入金が復活するだけなのか、
債務免除と評価される益金となるのか)

という論点が生じてしまい、
合理的意味の推認という事実認定と
評価の問題になってしまうからです。

よろしくお願い申し上げます。