M&Aでは、株式譲渡には適用されない瑕疵担保責任に代替するものとして、表明保証が使われることが多くあるようです。このため、実質的には瑕疵担保責任と同等と理解してもいいのかと考えています。
http://malaw.jp/mandatrouble/ma_kashitanposekinin/
一方で、以下のように、瑕疵担保責任と表明保証は違うという解説があります。
https://business.bengo4.com/articles/333
両者の異同をどのように考えればいいのか、混乱しておりますので、解説いただけますと幸いです。
なお、大変お手数ですが、瑕疵担保責任について誤った理解をしている可能性がありますので、この点も解説いただけますと幸いです。個人的には、以下の通り無過失責任とあるので、瑕疵担保責任はもちろん、表明保証も、売主が善意無過失でも賠償義務などが発生するのかと考えております。
http://j-net21.smrj.go.jp/well/law/column/4_15.html
よろしくお願いいたします。
>表明保証条項と瑕疵担保責任の違いについて教えてください。
>両者の異同をどのように考えればいいのか、混乱しておりますので、解説いただけますと幸
>いです。
>なお、大変お手数ですが、瑕疵担保責任について誤った理解をしている可能性がありますの
>で、この点も解説いただけますと幸いです。個人的には、以下の通り無過失責任とあるの
>で、瑕疵担保責任はもちろん、表明保証も、売主が善意無過失でも賠償義務などが発生する
>のかと考えております。
まず、前提ですが、
この部分の
厳密な「論理的な理解」をお求めということになりますと、
民法全部についての正確な理解が必要になります
(そして、結論としては、現状では、
論理上どう考えるかを固定するものはないが、
どのような議論により考え方が分かれるかを理解するには、
民法全体を理解していないと難しいです。)。
民法全体の解説となると書籍レベルに
なってしまいますので、実務上、一般的にはこのように
解されているという範囲で解説します。
2 回答
(1)特定物概念・瑕疵担保責任と表明保証の関係
「現行民法」においては、
株式のような特定物(これしかないもの)
には、その売買をする場合、その現状で
引き渡す義務を負いますし、それがあれば足りるとされています。
(いわゆる「特定物ドグマ」と言われるものです。)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
現行民法第483条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、
弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして、瑕疵担保責任は、
この特定物ドグマを貫くとあまりにも不公平なこと
もあるでしょうという趣旨で、
特定物の取引について適用されるものと
解されてきました(法定責任説)。
売買における「瑕疵担保責任」の対象は、
売買対象特定物の「瑕疵」ということになりますから、
株式譲渡の場合、売買の対象物は特定の「株式」ということになります。
しかし、会社の状況(簿外債務など)は、
「株式」自体の瑕疵ではないため、
瑕疵担保責任という法律の制度では、
そのリスクをどちらが負担するのかが
規律されません。
そこで、英米法の概念である「表明保証」という
ものが日本に実務的に導入されました。
そして、「表明保証」の概念は、
日本の法制度に存在するものではないため、
特に当事者の契約により定められた
「損害担保特約」であるという
のが、実務上の一般的な理解になります。
ですので、大雑把に言えば、
「瑕疵担保責任」と「表明保証」は、
法律の規定で定められた概念(契約しなくても
当然適用されるもの)なのか、
それとも当事者が契約で定めたものなのか
という点が異なります。
ですので、「表明保証」の場合は、違反が
あった場合には、どうなるのか(効果)も
定めておく必要があります。
>M&Aでは、株式譲渡には適用されない瑕疵担保責任に代替するものとして、表明保証が使
>われることが多くあるようです。このため、実質的には瑕疵担保責任と同等と理解してもい
>いのかと考えています。
>一方で、以下のように、瑕疵担保責任と表明保証は違うという解説があります。
こちらは機能面から見れば似ているが、法的には違う
という意味になるかと思います。
2 民法改正の影響について
>瑕疵担保責任について誤った理解をしている可能性がありますので、この点も解説いただけ
>ますと幸いです。個人的には、以下の通り無過失責任とあるので、瑕疵担保責任はもちろ
>ん、表明保証も、売主が善意無過失でも賠償義務などが発生するのかと考えております。
従来の理解では、
上記の通り、売買における瑕疵担保責任の対象は、
「特定物」の取引を対象にしたものでしたが、
今回の改正で、
特定物・不特定物の関係はなく、
引渡された目的物が
「種類、品質及び数量に関して契約の内容に適合しないもの」であるときに、
売主が契約不適合責任を負担するという内容に
変わります。
つまり、売買における瑕疵担保責任は債務不履行の
一類型として整理されることになりました。
ですので、損害賠償請求をする場合においては、
現行民法では「瑕疵担保責任」は無過失責任ですが、
改正民法における「契約不適合責任」の損害賠償責任は、
一般の債務不履行と同様、「過失責任」になります。
なお、「特定物取引」についての
従来の「瑕疵」と新しい「契約の内容に適合しないもの」
は、同じように考えるというのが現状の一般的な
理解にはなっています。
>個人的には、以下の通り無過失責任とあるので、瑕疵担保責任はもちろ
>ん、表明保証も、売主が善意無過失でも賠償義務などが発生するのかと考えております。
ですので、民法改正後においての損害賠償に関する
「契約不適合責任」は、過失責任になります。
ただし、表明保証がこれに必ず一致するかというと
そうではないと思います。
上記の通り、
そもそも表明保証は、
売買の対象物(株式)ではない会社の状況などについて、
当事者の認識と前提事項が異なる場合に、
どちらが責任をどのように負うのかを定める
当事者の「損害担保特約」ですので、
契約の経緯や契約書の文言などにもよりますが、
一般的には、無過失責任と解されている実務上の
考え方が民法改正で変わるかというとそうでは
ないと思います。
よろしくお願い申し上げます。
税理士の●●と申します。
私も瑕疵担保責任と表明保証違反に基づく補償について、悩んでおります。
個人による譲渡不動産に係る瑕疵担保責任よる支出は、下記のように、当該不動産の譲渡所得の計算に係る収入金額の減額(当該支出をした年度が、譲渡年度より後の年度の場合は、譲渡年度に遡って更正の請求により)と扱うとあります。
http://www.tokyozeirishikai.or.jp/common/pdf/tax_accuntant/bulletin/2017/may_04.pdf
株式譲渡に係る表明保証違反に基づく支出も、上記と同様に扱って良いのかについて、悩んでいる次第です。
(仮に、収入金額の減額とされないとすれば、表明保証違反に基づく支出は売主である個人の税務上何らの費用又は損失できない(実質的に株式の譲渡代金の一部を返還したにもかかわらず、返還前の金額で課税されたままとなってしまう)のではと危惧しています。)
税務マターの質問かもしれませんが、民法との整理も必要な論点のため、差支えない範囲でご意見を頂戴できれば幸甚です。
よろしくお願いいたします。
>私も瑕疵担保責任と表明保証違反に基づく補償について、悩んでおります。
>個人による譲渡不動産に係る瑕疵担保責任よる支出は、下記のように、当該不動産の譲渡所
>得の計算に係る収入金額の減額(当該支出をした年度が、譲渡年度より後の年度の場合は、
>譲渡年度に遡って更正の請求により)と扱うとあります。
>株式譲渡に係る表明保証違反に基づく支出も、上記と同様に扱って良いのかについて、悩ん
>でいる次第です。
>(仮に、収入金額の減額とされないとすれば、表明保証違反に基づく支出は売主である個人
>の税務上何らの費用又は損失できない(実質的に株式の譲渡代金の一部を返還したにもかか
>わらず、返還前の金額で課税されたままとなってしまう)のではと危惧しています。)
2 回答
上記の●●先生へのご質問への回答に
ある通り、民事上の法的な責任の根拠と機能面(実質面)どちらを
重視するかということになるかと思います。
確かに、現行民法の売買の瑕疵担保責任は、
対象の特定物に瑕疵があった場合に、対価設定がその瑕疵がない前提
で定めらているので、その補填的な意味合いのものであり、
収入金額の減額という考え方に整合的です。
一方で、下記の通り、表明保証は、「株式」自体の瑕疵ではない
ことに対する補償ですので、実務上、法的には、当事者の特約と
考えられているため、その部分を見ると
通常の損害賠償と同じように扱うという考え方に整合的ですね。
しかし、表明保証も機能のとしては、
表明保証された事項を前提に譲渡価格を設定しているので
それが異なった場合には、補填してくださいというものです。
もちろん、実際に表明保証違反があった事実及び証拠
や支出額が適正であったか(違反内容と均衡が
とれるものである)などは必要かと思いますが、
実態を重視する税法の考え方から
すると、民事法上の性質論よりも、この実態としての機能面を
重視して、瑕疵担保と同様に考えて良いのではないかというのが
私見です。
いただいたURLに記載のある
東京地裁昭和63年4月20日判決も
債務不履行による損害賠償請求についてのものですが、
実質的には、「値引き」と同視し得るとして、
収入金額の減額を認めていることからも、
実態としての機能面を重視していると思われます。
よろしくお願い申し上げます。