相続 贈与 遺産分割 遺留分

民法改正に伴う遺留分の計算

前提
子Xと子Yの父80%と母20%とで100%保有している会社Aの非上場株式5000万円分を、
すべて後継者である子Xに贈与しようとしております。

質問
①除外合意と固定合意の効果
贈与について、今回の民法改正によって10年超の遺留分の減殺がなくなったと理解し
ていますが、
改正により遺留分算定基礎財産から除くための従来行われていた、
非上場株式の民法特例の除外合意・固定合意については、
相続開始前10年以内でしか意味のない行為になっているのでしょうか。

②損害を加える意図を知って贈与をしたときについて
今回の民法改正により贈与に関する民法1044条には、
『……当事者双方が損害を加えることを知って贈与したときは、……』とあります
が、
具体的にはどのような場合を想定していると考えられるのでしょうか。
いくつかの書籍にて調べた限りでは、
例として、被相続人の財産がこれ以上増えないことがわかっていて、
贈与を受けたことなどが必要と理解されているとの記載がありますが、
この部分について具体性がなくあまりよく理解できていません。

③贈与時と相続時とで推定相続人の変動により遺留分が変動した場合の取扱い
仮に父が株式4,000万円と預金1,000万円の総額5,000万円があり、
推定相続人が、母と子Xおよび子Yであれば、子それぞれの遺留分は
5,000万円×1/4×1/2=625万円
子Xは、預金1,000万が残っているため遺留分は侵しておらず、
万が一、父の相続の際に、母が先に亡くなっていた場合には、
5,000万円×1/2×1/2=1,250万円
子Xは、預金1,000万では250万の不足となり遺留分侵害ということになるのでしょう
か。

また、贈与時から10年超である場合は、
贈与時は母が健在のため子Yの遺留分は侵害していないため、
②の当事者双方が損害を加えることを知って贈与したときに該当せず、
遺留分算定の基礎財産には含まれないと理解していますがいかがでしょうか。

④贈与財産である非上場株式の価格の上昇と遺留分の算定基礎財産について
贈与から10年以内に相続があり、
贈与する株式の価値が5,000万から50,000万となると想定された場合に、
事前に子Xは除外合意をすることによって相続発生時の遺留分を減らすことが可能と
なると思われますが、
除外合意や固定合意がなかった場合には、
贈与の際には、(5,000万×80%+1,000万)×1/4×1/2=625万円であったものが、
相続の際には、(50,000万×80%+1,000万)×1/4×1/2=5,125万円となり、
が遺留分侵害のラインになるという理解をしています。
そして、贈与から10年超であってもこの規定は適用されるのでしょうか。
贈与時点では価格の上昇は確定していないため、
②の当事者双方が損害を加えることを知って贈与したに該当しないため、
遺留分算定の基礎財産には含まれないと理解していますがいかがでしょうか。

⑤この民法の改正により相続人に対する贈与について10年前の贈与が遺留分減殺から
除かれることになると思いますが、
時点として交付前と交付と施行と施行後があるとすると、
施行後に開始した相続を起点として前の10年間のものが遺留分減殺請求から除かれる
のでしょうか。

以上です。

よろしくお願いします。

1 ご質問①
>贈与について、今回の民法改正によって10年超の遺留分の減殺がなくなったと理解し
>ていますが、
>改正により遺留分算定基礎財産から除くための従来行われていた、
>非上場株式の民法特例の除外合意・固定合意については、
>相続開始前10年以内でしか意味のない行為になっているのでしょうか。

ご指摘の通り、相続法の改正により、
「原則として」、相続人間の遺留分算定基礎財産から
10年前の贈与は除外されることになります。

しかし、相続の発生はいつ起きるかわからない
ですし、下記ご質問②の通り、10年より前の贈与についても
算定基礎財産に算入されるもの(しかも現時点で、
今後の裁判例の動向もわからない)もあります。

私の認識としては、
事業承継という重大な事項における

民法特例により遺留分対策の必要性は、相続法改正後もあまり
変わらないかなとは考えています。

2 ご質問②
>今回の民法改正により贈与に関する民法1044条には、
>『……当事者双方が損害を加えることを知って贈与したときは、……』
>とありますが、
>具体的にはどのような場合を想定していると考えられるのでしょうか。
>いくつかの書籍にて調べた限りでは、
>例として、被相続人の財産がこれ以上増えないことがわかっていて、
>贈与を受けたことなどが必要と理解されているとの記載がありますが、
>この部分について具体性がなくあまりよく理解できていません。

前提として、
書籍などに記載されている内容は、
現行民法1030条の第三者への贈与の場合の
「当事者双方が損害を加えることを知って贈与したとき」
の判例の考え方を記載しているものと
思います。

基本的には下記の大審院判例になります。
(大審院判例はカタカナ書きで読みにくいため、
私の方でひらがなに変更しています)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
大審院昭和判決11年6月17日
贈与当時財産が残存財産の価額を超えることを知っていたのみならず、
将来相続開始までに被相続人の財産に何らの変動もないこと、
少なくともその増加のないことを予見していた事実があることを必要とする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そして、この「増加のないことを予見していた事実」
の証明責任については、
遺留分侵害を主張する者が負うことになりますので、
遺留分請求者にとって厳しいものという認識です。

具体例を挙げれば、贈与時点で余命宣告を
受けているケースやかなり高齢で寝たきりの
状態の場合は間違いなく入るでしょう。

また、年金生活で就労しておらず、
他に収入もないというような
場合なども含まれるでしょう。

ただし、この大審院判例は、
かなり古いものですし、

当然、相続人への贈与(特別受益)について、
10年の限定が入る前のものになります。

今回の相続法改正を受けて、
この考え方を、最高裁が維持するのかは
定かではないというように考えています。

もちろん、10年限定により
遺留分リスクは低くなると思われますが、

どちらかというと改正の趣旨が、
昔の細かい贈与など
まで特別受益に含む含まれるという
ような議論ですと紛争が長期化して
しまうという(いつまでも
遺留分の算定基礎財産が確定しない)
ことを想定したものと思われるので、

事業承継における「自社株」のような
重大かつ分かりやすい財産について、
どのように裁判所が考えるのかは現時点では分かりかねる
ところがあります。
(判例の考え方自体を変えるのか、
それとも事実の評価レベルを下げてバランスをとるのか)

3 ご質問③
>仮に父が株式4,000万円と預金1,000万円の総額5,000万円があり、
>推定相続人が、母と子Xおよび子Yであれば、子それぞれの遺留分は
>5,000万円×1/4×1/2=625万円
>子Xは、預金1,000万が残っているため遺留分は侵しておらず、
>万が一、父の相続の際に、母が先に亡くなっていた場合には、
>5,000万円×1/2×1/2=1,250万円
>子Xは、預金1,000万では250万の不足となり遺留分侵害ということになるのでしょう
>か。

ご質問の内容からは、
・株式の贈与について持ち戻し免除の意思表示あり
・残り1000万円の預金について遺言はなく、未分割の状態である
・株式4000万円について、遺留分額算定の基礎財産に含まれることを前提とする
という事例設定のようですので、以下、これに則って回答します。

子Yの遺留分を侵害しているかどうか(子Yの遺留分侵害額の計算)は、
(子Yの遺留分権利額)-(子Yが相続により得る財産の額)となります。

〇推定相続人が、母と子Xおよび子Yの場合

(子Yの遺留分権利額)は、
ご理解のとおり、
>5,000万円×1/4×1/2=625万円
です。

(子Yが相続により得る財産の額)は、
残りの相続財産である預金1000万円のうち、
子Yの法定相続分なので、
1000万円×1/4=250万円
となります。

よって、子Yの遺留分侵害額は、
625万円-250万円=375万円
となり、遺留分侵害が発生しています。

先生のご理解だと、1000万円の預金が残っており、
これが625万円を上回っているため、
遺留分侵害がないということのようですが、
そのような計算にはなりません。

〇母が亡くなり、推定相続人が子Xと子Yのみの場合

(子Yの遺留分権利額)は、
ご理解のとおり、
>5,000万円×1/2×1/2=1,250万円
です。

(子Yが相続により得る財産の額)は、
残りの相続財産である預金1000万円のうち、
子Yの法定相続分なので、
1000万円×1/2=500万円
となります。

よって、子Yの遺留分侵害額は、
1,250万円-500万円=750万円
となり、こちらについても遺留分侵害が
発生しています。

いずれの場合でも、遺留分侵害が発生している
という結論になります。

4 ご質問④
>贈与から10年以内に相続があり、
>贈与する株式の価値が5,000万から50,000万となると想定された場合に、
>事前に子Xは除外合意をすることによって相続発生時の遺留分を減らすことが可能と
>なると思われますが、
>除外合意や固定合意がなかった場合には、
>贈与の際には、(5,000万×80%+1,000万)×1/4×1/2=625万円であったものが、
>相続の際には、(50,000万×80%+1,000万)×1/4×1/2=5,125万円となり、
>が遺留分侵害のラインになるという理解をしています。

>贈与時点では価格の上昇は確定していないため、
>②の当事者双方が損害を加えることを知って贈与したに該当しないため、
>遺留分算定の基礎財産には含まれないと理解していますがいかがでしょうか。

前提として、遺留分算定基礎財産に贈与された株式価値が算入される
のかという議論と算入される前提で、いくらで評価するのか
という議論は別の話です。

『……当事者双方が損害を加えることを知って贈与したときは、……』
という問題は、前者の議論になります。

ですので、
『……当事者双方が損害を加えることを知って贈与したときは、……』に
あたるかどうかについては、
贈与する株式の価値が、将来上昇するかどうかは
関係しないと思います。

ご質問②の回答と重なりますが、
現状の判例では、将来「被相続人の財産」が
増える見込みがあるかどうか、
というのがポイントになります。
(判断要素はこれだけではありませんし、
今後の判例の動向も読めないところもあるのは、
前述したとおりです)

贈与した株式は、すでに被相続人の財産ではないので、
この価値が将来上昇するか否かは、上記の判断に
関係しません。

なお、
繰り返しになりますが、
『……当事者双方が損害を加えることを知って贈与したときは、……』に
あたり、贈与した株式が遺留分算定の基礎財産に入る
ということになれば、その際の遺留分の基礎算定評価額は、
相続時の価格(株価)になります。

5 ご質問⑤
>民法の改正により相続人に対する贈与について10年前の贈与が遺留分減殺から
>除かれることになると思いますが、
>時点として交付前と交付と施行と施行後があるとすると、
>施行後に開始した相続を起点として前の10年間のものが遺留分減殺請求から除かれる
>のでしょうか。

はい。その理解で問題ございません。

よろしくお願い申し上げます。