相続 遺産分割

遺産分割調停前の保全処分の申立とは?

 遺産分割で相手方から調停の申し立てがされ、同時に調停前の保全処分申立書が提出され、求める保全処分として1.被相続人の遺産管理者を選任する審判を求める、2遺産管理者に対し別紙事項を指示する審判を求める とあり、書証が40部ほど添付されています。別紙事項を指示するとありますが、別紙は何かわかりませんでした。

 保全処分とは具体的にどのようになるのでしょうか。第三者の弁護士などが裁判所から任命されて、対象財産が供託かなにかされるようになるのでしょうか。

1 ご質問

>保全処分とは具体的にどのようになるのでしょうか。第三者の弁護士などが裁判所から
>任命されて、対象財産が供託かなにかされるようになるのでしょうか。

2 回答
(1)遺産管理人制度の概要

遺産管理人制度は、
第三者に遺産を管理させる必要性がある場合に、
裁判所が遺産管理人を選任し、
その者に、遺産の管理権限を与えるものです。
(家事事件手続法200条1項)

遺産管理の必要性がある場合の例としては、
以下のようなものが挙げられます。
・共同相続人が、何らかの事情で遺産の管理をすることができない場合
・相続人が、他の相続人の同意を得ずに遺産を費消している、またはそのおそれがある場合
・共同相続人の一人が、賃貸不動産の遺産を管理しているが、その収益を他の相続人に渡さない場合

遺産管理人には、通常、利害関係のない
(相続人の代理人ではない)弁護士が
選任されることが多いです。

(2)遺産管理人の権限と遺産の管理

裁判所から選任された遺産管理人には、
保存行為と管理行為をする権限が与えられます。
(家事事件手続法200条3項、民法28条、103条)

(保存行為)
保存行為とは、遺産の現状を維持する行為をいいます。
具体的には、以下のような行為です。
①預金の払戻し、口座の解約
②貸金庫の解扉
③共同相続人の共有とする不動産の相続登記
④期限が到来した債務の返済
⑤不法占有者に対する妨害排除請求
⑥消滅時効の中断
なお、②については、金融機関の運用上、
相続人全員の同意がないと応じないとしている
ところも多いかと思います。

(管理行為)
管理行為とは、財産の性質を変えない範囲内の
利用または改良行為をいいます。
具体的には、以下のような行為です。
①現金の預金口座への預入れ
②第三者に賃貸している不動産の賃貸借契約の解除
③不動産の使用貸借契約の締結
④詐欺による取消の意思表示

また、家庭裁判所の許可を得ることにより、
管理行為を超える処分行為を行うこともできます。
(家事事件手続法200条3項、民法28条)。

(処分行為)
具体的には、以下のような行為です。
①遺産の売却、遺産への担保の設定
②遺産の廃棄、取壊し
③定期預金の満期前解約
④生命保険契約の満期前解約

遺産管理人は、以上の権限を有しますが、
これらすべてを行うわけではありません。
事案に応じて、遺産管理人の判断のもと、
必要な行為を選択し、行うことになります。

遺産管理人がどのような行為を行うかは、
事実上、どのような目的(現状にどのような問題があるか)で、
遺産管理人の選任が申し立てられているかによるところになるかと思います。

現預金を管理している相続人が、
これを使い込んでしまう可能性がある
というケースであれば、これを預かり
管理するということになるでしょうし、

賃貸不動産を管理している相続人が、
得られる賃料を独り占めしていると
いうようなケースであれば、
遺産管理人が賃料を管理する(または、
法定相続分に応じて分配する)
ということも考えられます。

よろしくお願い申し上げます。