相続 遺言 遺留分

遺留分減殺請求を受けた場合の対応法と渡す財産

遺留分減殺請求を受けた場合の対応法と渡す財産について教えてください。

前提として
公正証書遺言書はあります。
Aの家屋のみ相続人Bに相続させる。
その余の不動産の全部を相続時には代襲相続人である孫Cに
遺贈するという簡素な遺言書になっていました。
遺言書作成時にはCは孫で養子にもなっていなくて父も生きていたため相続人ではなかった
ため遺贈するとなっていました。
また、遺言書作成時には代襲相続人Cの父が生きており、遺言執行者はCの父がなっていました。
遺言者の子である相続人Cの父は被相続人により、先に死亡しましたが、遺言書は書き換えていませんでした。
つまり、遺言執行者は死亡していて存在していない状況です。
依頼者はCです。
相続人は7人です。
配偶者は以前死亡です。

質問1

上記の記載しかない遺言書です。
その他の財産は指定がないことになり、未分割になると考えます。
ただし、その他の財産は僅少です。
この遺言書はBに対しては特定遺贈で、Cに対しては包括遺贈なのでしょうか?
その余の不動産の全部と言っているため特定遺贈なのでしょうか?

質問2

登記のことで分かれば教えてください。
私の登記をお願いしている司法書士より聞いた回答は下記のとおりです。

遺言執行者が死亡している場合、必要書類は以下のとおりです。
・権利証
・法定相続人全員の印鑑証明書および実印
なお、遺言に「遺贈」とあるため、登記原因を「遺贈」とした
所有権移転登記をすることになります。
と聞いています。

遺言書を作成した際にはCは遺言者から見たら孫であり相続人ではなくて遺贈になっていて、
たまたま遺言者が死亡した場合に代襲相続人になっただけなので相続を原因とした
相続登記はできないといっていました。
法定相続人全員の印鑑証明書がないと相続登記ができないみたいですが、合っていますでしょうか?

質問3

Cはほとんどの不動産を遺言書により相続しますが、
遺留分の減殺請求があった場合に、不動産をくれと言ってきても現金で支払いをすれば、
不動産を渡す義務はないのでしょうか?
また、仮にほかの相続人に不動産を渡して好きにしてくれということは可能なのでしょうか?
民法1041条を見ると不動産で渡しても渡さなくてもよさそうに見えます。

遺留分権利者の側から価格弁償を選択することはできません。とあります。
価額弁償の額に関する話し合いが始まらない場合は
遺留分権利者から価額弁償請求することはできないと紹介しましたが、
では受遺者等が価額弁償の意思表示をしたにも関わらず、
いついくら支払うという価額弁償に関する具体的な話し合いが始まらない場合はどうすればよいのでしょうか。
遺留分権利者は、受遺者等が主張するとおり、価額弁償の請求を選択して、
金銭請求することが可能です。
他方、受遺者等が現実に価額弁償をするまでは、価額弁償の請求ではなく、
原則通り目的物の所有権に基づく現物返還請求をすることも可能です。

https://souzoku-soudan-bengoshi.jp/archives/1224
https://ac-souzoku.jp/inheritance/reserve/3051/
https://www.tp-iryuubun.com/knowledge/knowledge_010.html
http://www.souzokulaw.jp/knowledge/cat5/kagaku1.html

質問4

遺留分減殺請求後の相続人のみの合意書として、下記のURLの用に作成すれば後日、問題は生じませんでしょうか?

https://ac-souzoku.jp/common/pdf/7-3-1.pdf

質問5

孫Cは被相続人の土地を使用貸借して賃貸用不動産を建築して賃貸料をCが収受していました。
被相続人には土地はいくつかありましたが、年金も少なく、賃料のあるところもなかったため、
老人ホームの金額と土地の固定資産税の支払が年金からと過去の貯蓄からはできない状態でした。
概算で年金の年収70万円で、土地固定資産税年額140万円、老人ホーム年額240万円のため
孫Cは自分の賃料の入金を原資に毎年、300万円ほどおばあさんの口座に入金していました。
これは遺留分減殺請求を受けた場合の交渉材料にはできるものでしょうか?
できるならどれほど考慮してもらえそうでしょうか?

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質問2について再度、司法書士に確認してみました。

遺贈になっているため相続人全員の委任状に実印の押印と印鑑証明書が必要とのことでした。
万が一、実印をもらえない相続人がでたら、
遺言執行者が以前死亡のため遺言執行者を裁判所に選任してもらって、委任状にその人の
実印を押印して相続登記をすると回答をいただきました。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①

>質問1

>上記の記載しかない遺言書です。
>その他の財産は指定がないことになり、未分割になると考えます。
>ただし、その他の財産は僅少です。
>この遺言書はBに対しては特定遺贈で、Cに対しては包括遺贈なのでしょうか?
>その余の不動産の全部と言っているため特定遺贈なのでしょうか?

Bについては、遺言書の文言や、
Bが相続人であることから、
いわゆる「相続させる旨の遺言」に
あたると考えられます。

Cについては、特定遺贈になります。

包括遺贈とは、財産の全部または一部を割合的に
指定するものですが、
今回は、あくまでも、その余の不動産という各特定の
不動産をCに移転させるものだからです。

2 ご質問②

>質問2
>遺言書を作成した際にはCは遺言者から見たら孫であり相続人ではなくて遺贈になっていて、
>たまたま遺言者が死亡した場合に代襲相続人になっただけなので相続を原因とした
>相続登記はできないといっていました。
>法定相続人全員の印鑑証明書がないと相続登記ができないみたいですが、合っていますでしょうか?

>質問2について再度、司法書士に確認してみました。
>遺贈になっているため相続人全員の委任状に実印の押印と印鑑証明書が必要とのことでした。
>万が一、実印をもらえない相続人がでたら、
>遺言執行者が以前死亡のため遺言執行者を裁判所に選任してもらって、委任状にその人の
>実印を押印して相続登記をすると回答をいただきました。

そうですね。
相続人に対しての「特定遺贈」も当然にありますし、
代襲相続人になっただけですので、
あくまでも、「遺贈」と解釈されます。

新たな遺言執行者の選任も含めて、
司法書士の先生のおっしゃるとおりです。

なお、裁判によって登記を入れることも
できますが、今回は、不動産の帰属について
遺言内容に争いがあるわけではないでしょうから、

上記の対応がベターかと思います。

3 ご質問③

>遺留分の減殺請求があった場合に、不動産をくれと言ってきても現金で支払いをすれば、
>不動産を渡す義務はないのでしょうか?
>また、仮にほかの相続人に不動産を渡して好きにしてくれということは可能なのでしょうか?
>民法1041条を見ると不動産で渡しても渡さなくてもよさそうに見えます。

すでに相続が発生している
ということで、今回は旧民法が適用に
なりますので、それを前提に回答します。
相続改正法が施行された後の相続では、
異なることになりますので、他の会員の皆様も
含めて、ご注意ください。

(1)遺留分減殺請求があった場合の効果

旧民法では、遺留分減殺請求の効果は
物権的な効果があるとされています。

つまり、遺留分減殺請求があった時点で、
各不動産は、請求者の遺留分割合に応じて、
共有状態になります。
(請求者が、自分の遺留分割合に応じて、
不動産の持分を有する状態)

(2)価格弁償について

遺留分減殺請求の場合、
上記のとおり、共有となった不動産を
現物にて返還(持分の登記)するのが原則ですが、

その共有持分に相当する金銭を
賠償することにより、現物での返還を
免れることができます(民法1041条1項)。

いわゆる「価額弁償」と呼ばれるものです。

現物での返還を免れるというのは、
遺留分減殺による不動産の共有状態が解消され、
受贈者の単独所有にも戻るということです。

(3)質問への回答

>遺留分の減殺請求があった場合に、不動産をくれと言ってきても現金で支払いをすれば、
>不動産を渡す義務はないのでしょうか?

そうですね。
上記のとおり、価格弁償によることが可能ですので、
最終的には、不動産を渡さず、
金銭で支払うということは可能です。

ただし、紛争になる場合、
結局のところ、価格弁償の「金額がいくらなのか」
というところも問題になるので、

合意書を締結するか、
判決により金額が定まりその金額が支払われるまで、
遺留分減殺請求により共有となった
状態が解消されたとはいえません。

>また、仮にほかの相続人に不動産を渡して好きにしてくれということは可能なのでしょうか?

複数の不動産のうち、一部の不動産を他の複数の相続人
にあげるから、その他の不動産は自分の単独所有に
するというようなことを、
一方的に行うことはできません。

価格弁償の場合には、民法1041条1項により、
金銭の支払いにより、現物の返還を免れることが
法律上認められているため、上記のような扱いが可能ですが、

金銭ではなく、かわりに他の不動産をあげることで、
同様の効果を得られるというような
法律の規定はないからです。

したがって、このようなことをしたければ、
他の相続人と合意することが必要になります。

4 ご質問④

>質問4
>遺留分減殺請求後の相続人のみの合意書として、下記のURLの用に作成すれば後日、問題は生じませんでしょうか?

URL記載の合意書は、
遺留分に関して価格弁償を
する場合のひな形です。
(拝見したところ、内容について特に間違いはないと思いますが、
合意書は個別事案に応じて作成する必要がありますので、
ご注意ください)

また、遺留分に関する合意書
という意味でいうと
相続人全員で締結する必要はなく、
遺留分請求をした人と、遺留分請求を受けた人
(今回はC)との
間で締結するものになります。

もちろん、未分割財産の遺産分割と同時に
ということでしたら、相続人全員で締結
しておけば一番安心ではあります。

ただし、遺留分請求は、「相続の開始及び
減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」
から1年間請求がなければ、時効になりますので、

請求してきていない相続人にも支払いをする
必要が生じる可能性があるので、
そのあたりの依頼者さまの考え方で
どのようにするか決めることになるでしょう。

5 ご質問⑤

>質問5
>孫Cは被相続人の土地を使用貸借して賃貸用不動産を建築して賃貸料をCが収受
>していました。
>概算で年金の年収70万円で、土地固定資産税年額140万円、老人ホーム年額240万円のため
>孫Cは自分の賃料の入金を原資に毎年、300万円ほどおばあさんの口座に入金していました。
>これは遺留分減殺請求を受けた場合の交渉材料にはできるものでしょうか?
>できるならどれほど考慮してもらえそうでしょうか?

(1)使用貸借の遺留分算定上の評価について

まず、土地を使用貸借していたということですが、

仮に遺留分減殺請求があれば、他の相続人は、

①土地の本来の賃料相当額
または
②土地の利用権

を、無償で得ていたということで、

こちらも遺留分の算定基礎になる
「特別受益」に当たるという主張を
してくると思われます。

①については、裁判実務上認められて
いませんが、

②については、使用貸借であっても、
特別受益に含まれるとされる裁判例
が多く、事案によるところですが、

概ね土地の更地評価の10~30%
の間の特別受益が認められています。

なお、そもそも
「特別受益」の概念は、
相続人間でのものですので、

Cが代襲相続人になる前に
得た利益は、「特別受益」に
ならないとして、
更地評価に対するパーセンテージを
下げるという主張はあり得るところでしょう。

(2)入金した300万円の交渉について

こちらの300万円については、
上記の他の相続人の使用貸借が特別受益となる
という前提の主張に対して、

使用貸借ではなく、土地利用の対価として
支払っていたとして、「賃貸借」であった

という反論をする際に利用することに
なると思われます。

その際には、土地の使用の対価として
支払っていたという証明ができなくては
なりません。

例えば、300万円の入金開始の時期が
使用貸借の設定やCが賃料を収受したタイミングと
近いことなどの事情を証明し、土地の使用と
300万円の支払いが関連するものであるという
ことを主張・立証していくことになります。

こちらの部分も事実認定と評価の問題
になりますので、いただいた事情のみでは
判断しかねますが、このように利用していく
ことになります。

(3)補足

なお、この300万円を入金していた
趣旨が、「貸金」であったという
主張も考えられなくはありませんが、
認められる可能性は低いでしょう。

つまり、
「貸金」であれば、Cからおばあさまに、
貸金返還請求権があり、この貸金債務を
相続した相続人(遺留分を請求してくる方)に
対して、請求できる(遺留分との相殺)ができる可能性があります。

ただ、「貸金」というためには、
「後に返還するという合意」があったことが必要ですが、
状況からすると、この主張は難しいかな、という印象です。

6 まとめ

今回のご質問の内容は、
遺留分に関して、高い専門性
が要求される分野ですし、一度
問題が顕在化すれば、おそらく
長期間の紛争に発展してしまうおそれが
強いところかと思います。

弁護士が当初から前面にでるという
対応は必要ない(でると紛争化する
おそれもある)かと思いますが、

少なくとも、本人さまが遺産分割などの
交渉と合わせて遺留分の解決を考え
るのであれば、裏側で弁護士に相談しつつ
進めることをお勧めします。

また、遺留分請求などが具体的に
あれば、おそらく本人様ご自身での解決
は困難でしょうから、その際は、
すぐに弁護士にご相談された方が
よいかと思います。

よろしくお願い申し上げます。