税理士賠償責任

税理士と顧問先の契約書の賠償金額の制限条項について

現在、顧問先との契約書の見直しを行っており、
その過程で何点かご質問をさせて頂ければと思います。

1.税理士側のミスで「過失」と「重過失」があるかと思いますが、
「重過失」に該当するケースとしてどのような場合がありますか。

2.ある会計事務所の契約書の中に次の文言がありました。
「税理士の責に帰す理由により、甲に損害を与えた場合の賠償額は次による。
本契約による年契約金額の受取額と延滞税、不納付加算税のいずれか少ない額。」
この文言だと税理士のミスにより還付金額が減少した場合、
延滞税や不納付加算税は発生しないので税理士の賠償額はゼロになります。
このような文言でも有効でしょうか。

3.よく契約書の中に次のような文言があるかと思います。
「消費税の納付及び還付を受けるについては、課税方法の選択により
不利益を受けることがあるので、会社は建物の新築、設備の購入など
多額の設備投資を行うときは、事前に税理士に通知するものとする。
会社が通知しないことによる不利益については、税理士は責任を負わない。」
この「通知」は一般的に口頭による通知も含みますか。

4.損害賠償額に上限を設けるケースがありますが、税理士の重過失だったとしても、
この上限額が妥当であれば裁判で認められるものでしょうか。

以上お手数ですが宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

>現在、顧問先との契約書の見直しを行っており、
>その過程で何点かご質問をさせて頂ければと思います。

メーリングリスト会員さまは
文末の
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☆【特典】業務書類雛形等のダウンロードできる会員様マイページ
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から、税賠を考慮した法人との顧問契約書雛形及び
その説明書のダウンロードが可能です。
そちらもご参考になっていただけると幸いです。

なお、ID及びパスワードですが、
当サービスにお申し込みをいただいた
翌週の月曜日にメールでご案内しているかと
存じますので、ご確認ください。
(メールが見当たらないなどございましたら、
大変お手数ですが、
までその旨ご連絡いただけますでしょうか。
改めて、ID及びPWをご案内いたします。)

以下のご質問には、
当該「説明書」に記載のあるまたは
関連する部分が多くありますので、
その際は「説明書」のページ数などを引用
させていただきますので、
あわせてご確認ください。

また、賠償額の上限制限規定については
そもそも裁判になった場合に、
どのような判断がされるかは、
かなり微妙なものです。

そのあたりを踏まえた上で実務の中で
どのよう考えるのかについても、
上記「説明書」P6以降に記載がありますので、
そちらをご確認ください。

1 ご質問①について

>1.税理士側のミスで「過失」と「重過失」があるかと思いますが、
>「重過失」に該当するケースとしてどのような場合がありますか。

専門家責任の観点から
通常の契約における「重過失」よりも、
緩やかに認められることが想定されます。

最終的には事実認定の問題になるかと
思いますが、

義務違反の類型により、
以下のようになるかと思います。

基本的に税理士の賠償の根拠となる
善管注意義務の類型は、

①法令等の調査・確認義務
②事実の調査・確認義務
③説明・助言義務
④単なる手続きの失念
などになります。

①については、法令や通達の要件を
勘違いしていたや知らなかったことを
原因とするものになりますが、

基本的に税理士の先生は、国家資格を
持ったプロフェッショナルですので、
この類型のミスですと、「重過失」
ありという認定されるケースが
ほとんどになってしまうでしょう。

②事実の調査・確認義務
③説明・助言義務

については、事案の内容によりますが
税理士の先生が事実を
認識していたかが重要な考慮要素になるかと思います。

例えば、消費税の問題などですと、
明らかに消費税課税事業者選択届出書を
出すべき事情(高額の建物を購入して高額の還付が
受けられるなど)を依頼者から説明を受けていた(その証拠もある)
にも関わらず、当該制度の説明をしなかった(③)
ケースでは、「重過失」と認定されるおそれが強いです。

④単なる手続きの失念

また、上記の例で、課税事業者選択届出書を提出する約束を
しながら単純に提出を失念したケースは、
「重過失」となってしまうでしょう。

2 ご質問②について

>ある会計事務所の契約書の中に次の文言がありました。
>「税理士の責に帰す理由により、甲に損害を与えた場合の賠償額は次による。
>本契約による年契約金額の受取額と延滞税、不納付加算税のいずれか少ない額。」
>この文言だと税理士のミスにより還付金額が減少した場合、
>延滞税や不納付加算税は発生しないので税理士の賠償額はゼロになります。
>このような文言でも有効でしょうか。

この文言自体には、疑義があると思いますが、
裁判になった場合、

>税理士のミスにより還付金額が減少した場合、
>延滞税や不納付加算税は発生しないので税理士の賠償額はゼロ

という結論にはならないでしょう。

これは推測ですが、
この条項は、過少申告事案を想定されて
作られたものではないでしょうか。

過少申告事案であれば、
基本的に税理士の先生が賠償責任を負うのは、
主に延滞税・加算税部分になります。

そして、このケースでは、税賠保険が
おりません(保険による脱税助長のおそれがあるため)。

一方で、先生がご指摘される
>税理士のミスにより還付金額が減少した場合

は、税賠保険がおりますので、
それを想定して、このような文言にしているのかも
しれません。

つまり、税賠保険がおりる範囲では、税賠保険でカバー
おりない範囲では、条項で上限を設定

ということです。

3 質問③について

>「消費税の納付及び還付を受けるについては、課税方法の選択により
>不利益を受けることがあるので、会社は建物の新築、設備の購入など
>多額の設備投資を行うときは、事前に税理士に通知するものとする。
>会社が通知しないことによる不利益については、税理士は責任を負わない。」
>この「通知」は一般的に口頭による通知も含みますか。

そうですね。通知方法の指定がない場合には、
口頭も含むと判断されるでしょう。

このあたりの考え方や注意点については、
「説明書」P6の冒頭に記載がありますので
ご参考になさってください。

4 ご質問④について

>4.損害賠償額に上限を設けるケースがありますが、税理士の重過失だったとしても、
>この上限額が妥当であれば裁判で認められるものでしょうか。

対事業者(法人)の場合、
損害賠償の上限を定める契約が
一律に無効になりうる消費者契約法など
の適用はありません。

また、これまで専門的な業務について
重過失により、「報酬額の範囲」
に賠償責任を限定した契約書の条項を
無効とした裁判例でも、

あくまでも
その事案に限った個別判断をしています(説明書P7参照)。

ですので、賠償の上限が高ければ、
重過失があっても有効という
判断もあり得るところです。

最終的には、どのようなミス
があったか、どのような状況であったか、
などミス時点の個別判断なので、
いくらなら良いということにはならないのが申し訳
ないですが、

私のおすすめなども説明書に記載が
ありますので、ご確認ください。

よろしくお願い申し上げます。