相続 民法 その他

従業員を被保険者とする保険金の相続人に対する支払い

従業員を被保険者とする保険金の支払いについて、
教えて下さい。

(前提)
・契約者~ 法人
・被保険者~ 従業員
・受取人~法人 
・保険①~グループ傷害保険(社内支給規定なし)
・保険②~がん保険(節税目的)

以上の保険契約状況下で、被保険者である従業員の死亡事故(休日に
交通事故)が発生し、死亡保険金550万円(①死亡保険金500万、
②特約死亡保険金50万円)が保険会社から法人に支払われる見込みです。

(検討)
契約者法人は受取保険金から、被保険者相続人に対して税引き後保険金
約400万円の4分の1(100万円)から2分の1(200万円)の支払を
検討しているところです。
  :支払割合の参考
   名古屋地裁岡崎支部平成12年4月26日 平10(ワ)378号
   広島高裁「パリス観光生命保険金事件」

保険会社に対する保険金請求書類には、被保険者の相続人の署名押印が
必要で、保険金請求金額も記入されています。 

(質問)
以上の様な状況ですが、
契約者法人が検討している支払額の妥当性、
永吉先生の考え方、助言、また、本件の様な事例での支払額の相場観等
について教えていただければと思います。

また、被保険者の相続人が支払額に不満で、署名押印を渋った
場合の対処方法をあわせてお願いします。

よろしくお願いします。

1 ご質問①
>・契約者~ 法人
>・被保険者~ 従業員
>・受取人~法人
>・保険①~グループ傷害保険(社内支給規定なし)
>・保険②~がん保険(節税目的)
>契約者法人が検討している支払額の妥当性、
>永吉先生の考え方、助言、また、本件の様な事例での支払額の相場観等
>について教えていただければと思います。

先生もご存知の通り、
ご質問のいわゆる「他人の生命保険または傷害疾病定額保険」
においては、

保険法上、契約時において被保険者の同意(保険法38条・67条)
がなければ、保険契約が無効となります。

これは、他者が死亡などしたことにより、
別の者(遺族以外)が得をするということで生じる
モラルハザード防止のため、あくまでも被保険者の同意を必要としたものです。

もちろん、受取人が法人ですので、
一時的な帰属は法人にはなるのでしょうが、

この同意の際に、いくらかの金額が被保険者(または遺族)
に払われるという合意が会社と被保険者との間に成立して
いる(黙示の合意を含む)のではないかというところで、
合理的意思解釈の問題として、裁判例では結論が分かれています。

裁判例では、事案に応じて、遺族に帰属するとしたものから
契約自体が無効としたものまで、具体的な会社の状況によって、
様々です(同意の取得方法や会社の規模や従業員の立場
なども影響するでしょう)。

団体定期保険のリーディングケースとしては、

最高裁平成18年4月11日がありますが、

このケースでは、社内支給規定が存在しており、
その社内支給規定を被保険者が認識できる状況で
あったことなどから、社内支給基準を超える分は
会社が遺族に支払う必要はないとしています。
(この最高裁も運用自体は、従業員の福利厚生の
拡充を図ることを目的とする団体定期保健の趣旨
から逸脱すること自体は認めています。)

ご質問のケースでは、
>社内支給規定なし

ということで、規定がない以上、そもそも
被保険者(または遺族)から請求できる根拠が
ないという考えもあるのでしょうが、

保険の趣旨や
上記最高裁のケースが、約6000万円の保険金で
退職金などが約1000万円は遺族に支払われており、
金額的に福利厚生として1000万円は支払われている
のに対して、今回は500万円ということで
福利厚生としては、より高い比率で支払いが必要と
される可能性が高いかと思います。

また、団体保険ですと、ある特定のキーマンが
いなくなった場合に打撃を受ける企業の損害を
補填する趣旨ともかなり認定しにくいでしょう。

ですので、裁判になれば、

保険金全額
または
保険金全額からこれまで法人が支払った保険料・
税金などの諸経費を差し引いた残額

という結論も比較的あり得るかと思います。
(今更ですが、このような保険に入る場合には、
最低限社内支給基準は事前に定めておかなければ
なりませんね。)

ですので、
相場というと難しいところがありますが、

紛争を防止したいということであれば、
会社の方で支給しても良いと考える最高額を提示する
という形でも良いのかなと私個人的には思います。
(もともと福利厚生が趣旨の保険ですので)

>約400万円の4分の1(100万円)から2分の1(200万円)の支払を
>検討しているところです。

という枠があるのであれば、200万円を支払い
残りの請求が遺族側からある場合には、

それは遺族側で全額支払うという合意があったことを
立証してくれというしかないかと思います(遺族も
想定していないものがもらえるということで、ご納得
されるケースも多いかと思います)。

ただし、争いになれば解決するまで保険がおりない可能性が
高いです。

2 ご質問②
>また、被保険者の相続人が支払額に不満で、署名押印を渋った
>場合の対処方法をあわせてお願いします。

そうですね。
具体的な約款や同意書面などを見ていない
ため、なんとも言えないところもありますが、

争いになれば、保険がおりる時期が遅れることや
被保険者の死亡により会社も大打撃を受けている
などを伝えた上で、説得することになるかと
思います。

なお、保険約款や会社の状況や同意取得の
経緯も含めたより詳細なご相談が必要でしたら、
下記の無料面談でも対応は可能ですので、ご検討ください。

よろしくお願い申し上げます。