1 A氏(知人)51%、B氏(49%)で会社設立
2 A氏とB氏が提携を解消する方向となり、A氏はB氏の
株式を何とかしたいと思っている、
3 増資による希薄化を考えているが、特別決議に抵触する
4 ちょうど、現状B氏に余裕がない状況であるため、その間に予め議題(増資)を明らかにした総会通知を送り、期日を定めてそれまでに出席する旨の回答をしない場合には決議を委任したとみなす、といった通知を送る
こうした上で、それでも返信見込みがないことから決議を委任されたとして、それをもって増資を実行したいという意向です。
こういうことは可能なのでしょうか。
よろしくお願いいたします。
>1 A氏(知人)51%、B氏(49%)で会社設立
>2 A氏とB氏が提携を解消する方向となり、A氏はB氏の
>株式を何とかしたいと思っている、
>3 増資による希薄化を考えているが、特別決議に抵触する
>4 ちょうど、現状B氏に余裕がない状況であるため、その間に予め議題(増資)を明らかにした総会通知を送り、期日を定めてそれまでに出席する旨の回答をしない場合には決議を委任したとみなす、といった通知を送る
>こうした上で、それでも返信見込みがないことから決議を委任されたとして、それをもって増資を実行したいという意向です。
>こういうことは可能なのでしょうか。
2 回答
結論からすると、このような扱いにすることはできません。
株主総会において、代理人が議決権を行使するには、
代理権を証明する書面を会社に
提出しなければなりません。
(会社法310条1項)
この代理権を証明するものが委任状ですので、
この観点からすれば、
委任状の書面がないと、代理人による
議決権の行使ができません。
(書面がなくても、代理人による議決権の行使を
会社側が認めればいいのでは?
という議論はあり得るところかもしれませんが)
また、実質的な観点からしても、
出席する旨の回答をしないことを
もって、委任の意思があるとみなすことは、
事実認定上無理がありますので、
上記の会社法の規制以前の問題かと思われます。
なお、特別決議は、定款に定めのない限り、
定足数:議決権の過半数の出席
決議要件:出席した株主の3分の2以上の賛成
なので、
>1 A氏(知人)51%、B氏(49%)で会社設立
ということであれば、Aのみ出席して、
Aが賛成すれば、特別決議は可能です。
したがって、Bに招集通知は送っておいて、
Bが出席しない場合には、
決議は可能ではあります。
よろしくお願い申し上げます。
後学のためにあと一つ教えてください。
出席株主の2/3で特別決議は大丈夫、という
理屈ですが、 招集通知送ってそれにBが気づかず
出席しない場合、後日決議無効の訴えを起こされる
可能性があるかと思います。
この場合、招集通知は到達主義で到達しているので、
気づかなかったBが悪い、という理屈で勝てますよね?
よろしくお願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>出席株主の2/3で特別決議は大丈夫、という
>理屈ですが、 招集通知送ってそれにBが気づかず
>出席しない場合、後日決議無効の訴えを起こされる
>可能性があるかと思います。
>この場合、招集通知は到達主義で到達しているので、
>気づかなかったBが悪い、という理屈で勝てますよね?
2 回答
(1)招集通知に気づかなかったという主張について
ご指摘のとおり、招集通知は
適切な住所に、法定期間内に送っておけばよく、
これを見ていなかったというのは、
主張としては通りません。
なので、適正に招集通知を送っている以上は、
この点は、問題にはなりません。
なお、ご質問には直接関係しませんが、
関連すると思われますので
以下では、その他B氏との間で争いになるで
あろう点について、ご説明します。
(2)新株発行差止の請求(会社法210条)
今回、B氏の持ち株比率希薄化の方法として、
A氏への新株発行の方法をとられるものと思いますが、
発行前においては、B氏は、
新株発行の差止請求を行うことができます。
この差止事由の中に、
株式の発行が「著しく不公正な方法」により行われる場合(会社法210条2号)
というものがあります。
そして、判例法理により、
会社の支配権の維持を目的として新株が発行される場合には、
上記の不公正発行にあたるという
理論が確立しています(「主要目的ルール」といいます)。
特に資金調達の目的・必要性がない状況だと、
B氏の持ち株比率を減少させることを目的とした
新株発行であり、不公正発行にあたるとして
新株発行の差止事由に該当する可能性が
ありますので、ご留意ください。
なお、新株発行の差止請求は、
発行(引受の効力発生)されてしまえば、
できませんので、この懸念はなくなります。
(3)新株発行無効の訴え(会社法828条1項2号)
新株発行後に、B氏がその効力を争うとすれば、
新株発行無効の訴えになります。
なお、方法として、
株主総会決議の取消し(または無効)の訴えも
あり得るところですが、
判例法理により、新株発行の場合は、
その決定をした株主総会決議の瑕疵についても、
決議の取消しで独立に主張するのではなく、
新株発行無効の訴えの中で、
主張すべきものとされています。
(手続きが違うだけで、実質的な違いはありませんが)
この中で問題になる可能性があるのが、
株主総会決議が、
「株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき」(会社法831条1項3号)
に当たり、株主総会決議の取消事由に
該当するのではないか、という点です。
A氏は、新株発行を受ける当事者ですから、
「特別の利害関係を有する者」に該当します。
そして、
・発行価格が時価に比して低廉である
・A氏の持ち株比率を上げる(B氏の持ち株比率を下げる)ことを目的とした発行である
ことが、「著しく不当な決議」に当たるという主張です。
ですので、前者の発行価格が低廉であるという主張を
避けるために、発行価格は適正に
算定した金額とすべきです。
後者の点については、
そもそも「著しく不当な決議」に当たるかどうかが
はっきりとはしませんが、
可能性はありうるところです。
この点について、真の目的がそうである以上、
事前の対策としていかんともし難いところですが、
株主総会決議取消しの訴えの出訴期間(決議のときから3か月)が
経過すればこのような主張ができないのでは
ないかという見解が有力です(明確な判例はありません)ので、
これを待つということになるかと存じます。
また、上記の見解に立たないという場合でも、
新株発行無効の訴えの出訴期間(非公開会社では
発行のときから1年、公開会社では6ヶ月)をすぎれば、
新株発行の無効をB氏が主張することはできなくなりますので、
有効であることが確定します。
よろしくお願い申し上げます。