(前提)
・既存の甲社は社長乙の母である丙が大株主の会社です。
・社長乙は甲社を解散し、何千万円かの退職金を受けます。
(退職金の額は税務上問題ありません。)
・甲社を解散した翌日、乙の全額出資で新会社を設立します。
・新会社の商号は解散会社と同一商号です。その方が何かと都合がよいとの乙の考えです。
・従って、同一商号の会社が解散会社が清算結了するまで併存することになります。
・新会社が行なう事業は既存会社と同じです。
・このようなことを行なう主たる目的は母である丙の影響力を排除することにあります。
・副次的効果としては、母である丙の相続税対策にはなります。
(私の思い)
・これは乙の考えで、私が提案したわけではなく、個人的には不自然さを感じるのですが、
乙の強い意向もあり、検討せざるをえません。
(質問)
①同一地域での同一商号による設立はできないのではないかと思うのですが、会社法が施行さ れてから、可能になったのでしょうか。
②法務上、問題がないとしても、税務上、相続税が節税されることについて、問題とされるこ とはありませんか。
③上記②の質問について、税務上、問題があるとして、それでは同一商号でなければ
いかがでしょうか。
よろしくお願いします
解散による通常清算をされるということですので、
少なくとも現時点では、債務超過の疑いが
ないという前提で回答します。
(既存の債権者全員に残余財産により、債務を
確実に弁済できる。)
1 ご質問①~同一地域・同一商号による設立の可否~
>①同一地域での同一商号による設立はできないのではないか
>と思うのですが、会社法が施行されてから、
>可能になったのでしょうか。
はい。こちらについては、会社法上、設立自体は
可能です。
本件では、解散決議をしているということなので、
問題にはならないかと思いますが、
一般論としては、
会社法になり、誤認のおそれがある場合には、
利用の停止の請求などができるというような
規制に変わりました(会社法8条)。
また、この場合には、損害賠償請求ができる可能性があります
(不正競争防止法2条1項1号、4項)。
その他、
>新会社の商号は解散会社と同一商号です。
>その方が何かと都合がよいとの乙の考えです。
という理由にもよりますし、事業内容にもよる
ところではありますが、
>新会社が行なう事業は既存会社と同じです。
ということですと、
事実認定上、甲社から新会社に
「事業譲渡」があったと評価される可能性が高い案件ではないか
と推察します(B/S上の資産を動かすようなら特にそうですが、
P/L(今後の事業収益)を動かすだけでも、そのような認定はありえます)。
そうすると、甲社の事業に関する債権者に対しては、
譲渡後遅滞なく、新会社は責任を負わない旨の登記や
通知を行わないと新会社が債務の弁済義務を負うことに
はなります(会社法22条2項)。
(なお、今回は、債務超過の疑いはないということですと、
債権者への支払いなどはすべて甲社で可能という
ことでしょうから、あまり問題はないかとは思います。
仮に残余財産を分配しても、債務が残るという
ことですとそもそも通常の清算手続きでは、
結了ができません。)
2 ご質問②~事業譲渡と認定される場合~
>②法務上、問題がないとしても、税務上、相続税が節税されることについて、問題とされる
>ことはありませんか。
今回のケースでは、事業譲渡契約書がなかった
としても、同一事業を同一商号で行っているとなると
事実認定上、「事業譲渡」に該当する可能性が
高いのかと思います。
その他にも、新会社の事業の開始時期、
同一場所で行われているか、取引関係の引き継ぎや
従業員の引き継ぎがあるかなども、
大きな考慮要素になります。
(1)法務上の問題
法務上は、清算後の「0」円での譲渡となれば、
本来事業譲渡の対価が甲社に入り、
株主に分配される予定であった利益を奪われたとして、
乙が甲社の清算人をしている
ケースですと
丙その他株主から乙に対して、
善管注意義務違反による損害賠償請求が認め
られる可能性があります(理論上は、この
損害賠償請求権を債権として相続財産に算入する
ということもありえますが、
税務の視点からは、民事上問題になっていなければ、
これを認定するということはあまり想定できません)。
もちろん、0円の譲渡について、丙その他の
株主が承諾しているという
ことであれば問題はないですが、
おそらくわざわざ、事業譲渡として扱うわけ
ではないということになると明確な同意を得た
証拠を残すことは難しいでしょう。
実際には、丙やその他の株主が何も言わなければ、
法務上の問題は露見しないということに
はなるとは思います。
(2)税務上の問題
事業譲渡があったと認定されれば、
釈迦に説法ではございますが、
甲社から新会社に対して、
無償で事業を譲渡したとされ、
法人税・消費税の課税が生じますし、
仮に、甲社側の税金の支払いができなければ、
新会社や乙には第二次納税義務が発生すること
にもなるかと思います(期限切れ欠損金などについては、
別途ご考慮下さい。)。
http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=334AC0000000147&openerCode=1#158
また、支払えない状態になれば、
法的には甲の清算は結了できません。
(登記が入るかは別の問題です。)
3 ご質問③~同一商号ではない場合~
>③上記②の質問について、税務上、問題があるとして、
>それでは同一商号でなければいかがでしょうか。
事実認定上、同一商号であるということは、
「事業譲渡」の事実認定に大きな意味を持つと
思います。
そういう意味では、同一商号でなければ、
事業譲渡と認定されるリスクは一定程度低く
なりますが、これも事実認定の一要素に
過ぎませんので、同一でなければ、良いというものではない
でしょう。
実務的には、同一名称であれば当然、指摘を
受けやすくなるかと思います。
よろしくお願い申し上げます。