税理士法

とりあえず期限内申告した場合の税理士法違反

納税者からの急な依頼や、資料不足や不備のため税務申告書の
期限内申告が困難である場合、「とりあえず期限内申告」することで
無申告加算税を回避する方法が考えられます。

このようなリスク案件は受注しないのが一番ですが、やむを得ず受注し
税務代理を行った場合、税理士法違反に問われる可能性があるのでは無いでしょうか。
個人から受注した相続税の申告などでは、急な受注の場合特に影響が大きいです。

具体的には、税理士法第45条第項(故意による不真正の税務書類の作成等)
に抵触する可能性について、ご教示頂ければ幸いです。
また、法人顧客の場合と個人顧客の場合で、考え方に違いはあるのでしょうか。

以上です。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【参考資料】
税理士法違反行為Q&A 問3-6
http://www.tokyozeirishikai.or.jp/common/pdf/tax_accuntant/ihan/ihan_qanda.pdf

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問1~とりあえず期限内申告と税理士法~

>期限内申告が困難である場合、
>「とりあえず期限内申告」することで
>無申告加算税を回避する方法が考えられます。

>具体的には、税理士法第45条第1項(故意による不真正の税務書類の作成等)
>に抵触する可能性について、ご教示頂ければ幸いです。

ご指摘のとおり、税理士法第45条1項の
故意は、「事実に反し又は反するおそれがあると認識して行
うこと」を言うとされていますので、

少なくとも、
事実に反するおそれ自体は認識しているので、
税理士法第45条1項の要件には該当することに
なるかと思います。
そういう意味では、懲戒ができる状態ということ
になりますので、

>税理士法違反に問われる可能性があるのでは無いでしょうか。

ということですと可能性があります。

ただし、このようなケースですと、
そもそも、間近の時期に「修正申告(ないし
更正の請求)」を予定しており、
すぐに適正な申告をする意思があり、実際にも
行うのものと思われますし、

その時点では、資料がそろっていない
という意味で、無申告加算税を回避するため
の行為で、情状は悪くないと思います。

税理法の懲戒処分は、
あくまでも「できる」とされている
とおり、効果裁量(監督官長が処分するか
否かを決めること)行為ですので、
このような事情を加味してなされるため、
実務上、懲戒を受けるということは現状では
可能性は低いかなとは思います。

確かに、
その後、修正申告をしてくれない(提出の同意が取れないなど)
という事態になってしまい、そのままに
なってしまうとリスクが顕在化することも
あるかと思われますので、

念のため、その後に修正申告をすることを
条件にしてもらうという説明や契約書に記載を
しておいた方が良いかと思います。

2 ご質問2~法人と個人の違い~

>法人顧客の場合と個人顧客の場合で、考え方に違いはあるのでしょうか。

基本的に税理士法の観点からは
違いはないと思いますが、

あえて違いを検討すると、
法人の場合には、「概算の」決算書に
基づく決算書類による申告の場合は、

法人税法74条の「確定した決算」との
関係の議論があるかと思います。

末尾に引用しているのは、
私が発刊しているメールマガジン
で、株主総会に基づかない申告は、
無申告になるのか?というテーマのものです
(結論としてはならない。)。

ただ、その根拠となる裁判例の理由中の判断の
中で、

「決算がなされていない状態で概算に基づき確定申告が
なされた場合は無効にならざるを得ないが・・・省略・・・
総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の残高を基に決算を行って
決算書類を作成し、これに基づいて確定申告した場合は、
当該決算書類につき株主総会又は社員総会の承認が得られて
いなくても、確定申告は無効とはならず、有効と解すべきである。」

とされており、概算に基づく決算書の場合は
無効になるという説明がでています。

もちろん、概算であっても、株主総会で承認している
場合には、「確定した決算」となるのか?という
点について述べたものではないですし、

国税通則法23条2項3号、同法施行令6条1項3号
で、「帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により、
課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類
その他の記録に基づいて国税の課税標準等又は税額等を
計算することができなかつた場合において、
その後、当該事情が消滅したこと。」

という要件の下、更正の請求を認めており、
そうであれば、概算でされた更正の請求の前提となる
当初申告も有効と考えているのではないかと
推論できるのではないかと思われますが、

確定的な見解がある部分ではありません。

リスクヘッジ(指摘されにくくするという意味)
としては、

決算書を添付しない申告書の場合は、
国側から、これは「確定した決算」に
基づく申告ではないとして、
無申告と指摘されてしまう可能性が
高くなるので、

申告書に決算書は添付しておいた方が良いかとは
思います。

よろしくお願い申し上げます。

~~~~~~以下、メルマガ引用~~~~~~~~~

おはようございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

今回は、税理士の先生から
度々ご質問いただく

株主総会の承認決議がない決算に基づいて、
確定申告書を
提出した場合についての確定申告の効力について
解説したいと思います。

稀に税務調査において、株主総会の承認がない
不適法な決算に基づく確定申告は無効と指摘
されたということもあるようですので、

法的な観点から解説したいと思います。

1 決算の確定について

法人税法は、
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(確定申告)
法人税法第74条  内国法人は、各事業年度終了の日の翌日から2月以内に、
税務署長に対し、確定した決算に基づき次に掲げる事項を記載した申告書を
提出しなければならない。
・・・以下省略・・・
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

となっており、「確定した決算に基づ」いて
申告書を提出しなければならないとされています。

この「確定した」とは、計算書類の株主総会決議の
承認等、会社法等で定められた決算の確定手続き
がされたものをいいいます。

ですので、確かに、
株主総会の承認決議がない決算に
基づく確定申告は、法人税法第74条に違反する
状態です。

2 確定申告の効力

しかし、【不適法なこと】と【申告の効力が無効】
は、別の議論です。

実務上も、以下の福岡高裁の判決が先例とされています。

結論としては、概算等に基づくものは別として、
総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の残高を基にした
決算書類に基づいた確定申告は、
株主総会承認決議を欠くものであっても、
有効なものとして扱われます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◯福岡高裁平成19年6月19日判決
株主総会又は社員総会の承認を経ていない決算
書類に基づいて確定申告が行われたからといって、
その確定申告が無効になると解するのは相当ではない。
・・・省略・・・
会社が、年度末において、総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の
残高を基に決算を行って決算書類を作成し、これに基づいて
確定申告した場合は、当該決算書類につき株主総会又は
社員総会の承認が得られていなくても、確定申告は無効とはならず、
有効と解すべきである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

もちろん、会社法上は、株主総会の承認決議及び
議事録の作成が必要になりますので、

その手続きをしっかり行うべきなのは言うまでも
ありませんが

調査官から上記のような主張をされた場合には、
反論することが可能です。