賃貸人として、どのような対応が可能でしょうか、
ご教示の程、お願い致します。
○経緯
・土地賃貸借契約書は見当たりません
・賃貸人XはH29/9死亡、遺産分割協議により承継者はXの妻Yとなった
・S59/12に賃借人をA,Bとして賃貸借契約20年間を結んだとのこと
・S59/12にA,BはTから建物を購入し、A:8/10,B:2/10で持ち分登記している。
・H5/12にAは持ち分をBへ全部移転登記、登記原因は財産分与となっている
・BはAの内縁の妻、Aは正妻あり、
・賃借地上の建物には、現在Bとその実子が居住、Aは離れた
・H16/12で20年経過、賃貸人Xと賃借人Bで更新の合意をした形跡はない
・H17/4に賃借人Bは実妹Cへ建物を所有権移転、登記原因は売買
この時にBは賃貸人Xの承諾を得ていない
売買理由は、Bに事業上の借入金があり、
建物に抵当権がつけられるの避けたいからとのことらしい
・現在の賃貸人Yは、夫である前賃貸人XがH29/9に死亡した後、
建物の登記簿を取得したことにより、建物の所有権の異動状況を知った。
○現状
・賃貸人Yは不動産仲介業者に土地賃貸借契約書の作成を依頼した
・仲介業者は賃借人Bから事情を聴取中である
・賃借人から賃貸人への地代支払いの遅延はない
○質問
1.賃貸借契約を結ぶ前に調査すべきことは何でしょうか
2.賃貸人Y、賃借人B、建物所有者Cにて、話し合いのうえ
一般的な賃貸借契約書を基本として契約を結ぶことになるのでしょうか
3.賃貸人Yは誰と賃貸借契約を結ぶべきでしょうか
・Bと結ぶ:借地権者はB、建物所有者はC、
BはCに借地権を貸す、CはBに建物を貸す
・Cと結ぶ:借地権者・建物所有者はC、
CはBに建物を貸す
4.賃貸人Yは賃借人Bへ、
建物所有権をCからBへ戻すことを請求することはできますか
借地権者、建物所有者、居住者がすべてBとなる
5.借地権上の建物の譲渡は、借地権の譲渡を伴うものですか
6.土地賃貸借契約書に定めがない場合でも、借地権の譲渡を賃貸人が承認する
場合に、承諾料を請求することはできますか
ご回答いたします。
1 建物譲渡した場合、敷地の賃借権も譲渡されるか
>5.借地権上の建物の譲渡は、借地権の譲渡を伴うものですか
賃借地上にある建物の譲渡がなされた場合、
特別の事情のない限り、建物の所有権とあわせて
その敷地の賃借権をも譲渡したものと考えられます。
(最高裁昭和47年3月9日)
建物は譲渡するが、
その敷地の賃借権は譲渡せずに転貸とする
というような、特別の合意が当事者間で
なされていない限りは、
借地上の建物の譲渡に伴って、
借地権も譲渡されているものと考えられます。
2 事前の調査事項
>1.賃貸借契約を結ぶ前に調査すべきことは何でしょうか
今回の権利関係を整理するにあたり、
B→Cの建物譲渡がなされた際に、
これに伴って、賃借権の譲渡もなされたと
見ることができるかどうか、
すなわち、前述の「特別の事情」の有無の
確認が必要と考えられます。
なので、B・C間の譲渡の際に、
賃借権は譲渡しない(転貸借とする)、
という合意がなされていたかどうかの
確認をすべきです。
明確な合意はなくとも、転貸借することを黙示的に合意し、
転貸借料を、BがCから受け取っている場合には、
賃借権を譲渡しておらず、
B→Cの転貸借があったという認定が
できうると思います。
このような特別の事情がなければ、
B→Cの建物譲渡に伴って、
土地の賃借権も譲渡されたと
認定されるでしょう。
なお、賃借権の譲渡、転貸借のいずれでも、
賃貸人Y(当時はX)の承諾が
必要とされており(民法612条1項)、
今回、承諾はないでしょうから、
無断譲渡、または転貸の状態となっているといえます。
3 賃貸借契約の相手方
>2.賃貸人Y、賃借人B、建物所有者Cにて、話し合いのうえ
>一般的な賃貸借契約書を基本として契約を結ぶことになるのでしょうか
>3.賃貸人Yは誰と賃貸借契約を結ぶべきでしょうか
>・Bと結ぶ:借地権者はB、建物所有者はC、
>BはCに借地権を貸す、CはBに建物を貸す
>・Cと結ぶ:借地権者・建物所有者はC、
>CはBに建物を貸す
上記の確認の結果、
賃借権を譲渡していない(BC間で転貸とする合意があったなど)
という場合には、ご指摘のとおり、
>・Bと結ぶ:借地権者はB、建物所有者はC、
>BはCに借地権を貸す、CはBに建物を貸す
となります。
ただ、転貸借は、賃貸人の承諾を得ない限り、
賃貸人に対抗することができないため(民法612条1項)、
Cは、Yに、自分が転貸借を受けていることを
主張することはできません。
また、確認の結果、賃借権を譲渡しているとしても、
賃借権の譲渡もまた、
賃貸人の承諾を得ない限り、
賃貸人に対抗できないため(民法612条1項)、
賃貸人との関係では、依然として、
賃借人はBのままとなります。
よって、
Cへの賃借権譲渡を、Yが承諾するのでれば
別ですが、承諾しないということであれば、
Bと結ぶということでよいかと思います。
なお、賃借人をCにしても特に問題はないという
考えであれば、Cへの賃借権の譲渡を承諾して、
Cとの間で結ぶというのも、
選択肢としてはありだと思います。
4 建物所有権を戻すよう請求することができるか
>4.賃貸人Yは賃借人Bへ、
>建物所有権をCからBへ戻すことを請求することはできますか
>借地権者、建物所有者、居住者がすべてBとなる
建物所有権をCからBに戻すことを請求するという
法律上の権利はありません。
ただ、上記のとおり、
Cへの賃借権譲渡を承諾していない現状では、
賃貸人Yとの関係では依然として、
賃借人はBのままで、
BがCに賃借権を無断譲渡した(Yには対抗できない)、
という状態になっています。
無断譲渡、または無断での転貸借の場合には、
賃貸借契約を解除することができると
されています(民法612条2項)。
したがって、立論としては、
・無断譲渡なので解除することができる
・解除が嫌であれば、Bに所有権を戻せ
という交渉になると思います。
なお、
交渉段階ではあまり意識する必要はない
かと思いますが、
賃借権の無断譲渡(無断転貸)による解除
の場合には、無断譲渡の事実があったとしても、
それが、賃貸人と賃借人の
「信頼関係を破壊する程度のものではない場合」には、
判例上、解除できないとされています。
今回の事例では、B→Cへの無断譲渡(または無断転貸)が
形式上あるとしても、
その土地上の建物を使用しているのは、
Bで、従前と実態的な違いはない
ということからすると、
信頼関係を破壊するほどのものではなく、
解除は認められないという可能性自体はあります。
(借地権の場合は、建物の所有権が移転している以上、
解除は認められる可能性が高いですが)
5 承諾料請求の可否
>6.土地賃貸借契約書に定めがない場合でも、借地権の譲渡を賃貸人が承認する
>場合に、承諾料を請求することはできますか
賃借権の譲渡を承諾する場合、
承諾料が支払われる慣行がありますが、
これは、「賃貸人から請求できる」という
ものではありません。
承諾料の支払いがなければ承諾しない、と賃貸人が主張
→賃借人が承諾してもらうために、承諾料を支払う
という構成です。
賃貸人に、法律上、承諾料の
請求権があるわけではありません。
今回承諾料がほしいということであれば、
Bに対し、B→C間の賃借権の譲渡を承諾するには、
承諾料の支払いが必要である旨を伝え、
Bから任意に支払ってもらうことになるかと思います。
仮に、Bが支払わないということであれば、
承諾をせず、無断譲渡(無断転貸)を理由として、
賃貸借契約を解除することを交渉の材料とし、
Bに、承諾料を支払ってでも、承諾してほしいと
思わせるよう進めていくということに
なるかと思います。
よろしくお願い申し上げます。