資本金600万円で、
親族関係のない株主A、B、C、D、E、Fの6名が、
各100万円出資しています。
代表取締役は株主Aで、他の株主は役員ではありません。
代表取締役A及び株主B~E、総員5名の総意で、
株主F所有の株式100万円を買い取りたい意向がある場合、
これを強制的に買い取る方法はありますか?
>代表取締役A及び株主B~E、総員5名の総意で、
>株主F所有の株式100万円を買い取りたい意向がある場合、
>これを強制的に買い取る方法はありますか?
詳細は下記になりますが、
A~Eの議決権数が2/3を
超えていますので、
①A~Eへの新株発行
↓
②株式併合
を行うことで強制的に買い取ることが
可能です。
実務上は、強制買取ができることを
前提として、まず任意交渉を行った上で、
難しければ強制的な手法を利用する
ことになるかと思います。
2 回答の理由
(1)スクイーズアウトの手法
平成26年の会社法改正以後、
少数株主からの株式の強制取得手続
(スクイーズアウト)の手法としては、
○特別支配株主の株式売渡請求制度
○株式併合スキーム
がメジャーになっています。
特別支配株主の株式請求制度は、
特定の株主が90%以上の
議決権を有していることが条件と
なっているため(会社法179条1項)、
今回は使えません。
ですので、株式併合スキームを使うのが
適切だと思います。
(2)株式併合スキームの概要と前提条件
株式併合スキームは、大まかにいえば、
・少数株主の保有数が1株未満になるような比率で株式併合を行い
・1株未満となった少数株主の端数株式を、裁判所の許可を得て、会社が買取りその代金を少数株主に交付する
という流れになります。
(例)
10株の株主Xと1株の株主Yがいる場合、
10株を1株とする割合で株式併合を行い、
Xが1株、Yが0.1株となる。
Yの0.1株の端数株式を、裁判所の許可を
得て会社が買取り、その代金をYに交付。
これにより、Yは株主ではなくなります。
(締め出し完了)
(3)Fと他の株主の持株数が同数であること
ただ、今回は、
>資本金600万円で、
>親族関係のない株主A、B、C、D、E、Fの6名が、
>各100万円出資しています。
とのことで、全員の保有株式数が同じなので、
現状では、株式併合で、Fだけを1株未満と
することができません。
したがって、A~Eに対して事前に株式を新株発行
しておく方法により、A~Eの保有株式数が、Fの株式数を上回る
ようにしておくことが必要です。
A~Eの議決権数が2/3を超えてますので、
実際に可能です。
(4)株式併合の留意点
株式併合を適法に行うためには、
会社法上の各手続(株主総会の特別決議(2/3以上)、
取締役会決議(または取締役過半数の決定)、
株主宛通知、事前・事後開示書面備置等)を行う
必要があります。
上記のとおり、少数株主の
端数株式の処理に関して、
裁判所の許可が絡むという点でも
手続としては重いです。
また、場合によっては、
反対株主(今回はFのみでしょう)からの
株式買取請求に対する対応が必要になったり、
会社法の各手続に瑕疵がある場合には、
株式併合の差止請求、総会決議取消しの
訴えがなされるなどの可能性もあります。
ですので、具体的に手続きを
進められる際には、会社法に強い専門家に
相談しながら進めることが必要かと思います。
もちろん、弊所では会社法務関係
は専門に扱っておりますし、
他の会社法関係の法務について
知見のある事務所でもよいので、
相談しながら進められることを
ぜひおすすめします。
よろしくお願い申し上げます。
株主Fから、
株式会社Gの売上明細を開示してほしいという要望が来ています。
特定の株主からの会計書類の開示請求について、
どの程度対応する義務があるのか、
または、拒否することが出来るのか等、ご教示ください。
>特定の株主からの会計書類の開示請求について、
>どの程度対応する義務があるのか、
>または、拒否することが出来るのか等、ご教示ください。
2 回答
先生ご指摘のとおり、
会社法上、株主(総議決権の3%以上保有)には、
会計帳簿等の閲覧・謄写請求権が
認められています(会社法433条)。
今回の株主Fは全体の1/6の議決権を
保有しているものと考えられますので、
会計帳簿等閲覧請求が可能です。
(1)請求対象の範囲
「売上明細」が請求対象に入るかどうかが
まず問題となります。
会計帳簿閲覧請求の対象は、
「会計帳簿又はこれに関する資料」です(会社法433条1項1項・2号)。
このうち、
「これ(会計帳簿)に関する資料」がどこまでの範囲を
含むかにつき、争いのあるところではありますが、
裁判例は、
「会計帳簿を作成する材料となった資料その他会計帳簿を実質的に補充する資料」
と比較的狭く考える説(限定説)を前提にしている
といわれています。
この説を前提とすると、仕訳帳、総勘定元帳、補助元帳、
現金出納帳、伝票、売上明細補助簿などは、
開示の対象となります。
一方、直接会計帳簿作成の資料とならないものや、
決算報告書、法人税確定申告書・明細書などは、
開示対象とならないとされます。
(会計帳簿に基づき作成される資料なので)
売上明細については、
これを資料として作成されているということであれば、
開示の対象に含まれるものと考えられます。
(2)拒否事由
開示の対象となるとしても、これを
拒否できる場合もあります。
拒否事由は、会社法433条2項1~5号に
定めがありますので、
以下、各事由について説明します。
○1号:当該請求を行う株主がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき
ここでいう「権利」とは、
株主の資格として有している権利をいい、
議決権、株主提案権、取締役の
違法行為の差止請求権
責任追及の訴えの提起請求等が典型的です。
一方、株主の地位を離れた権利の行使、
たとえば、会社との売買契約、労働契約上の
権利の行使はこれに含まれません。
これらの権利を行使する目的以外での
請求は拒否することができます。
○第2号:請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき
・嫌がらせのために不必要に多数の帳簿書類の閲覧を求める場合
・会社に不利な情報を流布し、会社の信用を失墜させる目的がある場合
などが典型例と挙げられます。
なお、これらの目的を有しているかどうかは、
客観的な状況から、判断されることになります。
○第3号:請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき
これは比較的明確で、
請求者が会社と競業関係にある
事業を営んでいる場合には、
会社の情報を利用して、
不当に事故に利益を図る可能性があるため、
拒否事由とされているものです。
○第4号:請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき
会社の企業秘密を、競業他社に売り込むために
請求するときなどがこれにあたります。
○5号:請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき
第4号の行為を、実際に、
過去2年以内に行ったことがある場合です。
一般的には、
第1号・第2号の事由が
問題となることが多いです。
(3)理由の明示義務と開示対象の範囲
会計帳簿閲覧請求を行うためには、
請求者は、その理由を明示しなければなりません。
(会社法433条1項後段)
その理由の明示の程度は、
会社がそれを見て、関連性のある会計帳簿等を
特定でき、また、拒否理由の存否を
判断できる程度に具体的でなければなりません。
また、請求の理由からして、
必要となる会計帳簿等しか閲覧・謄写の請求は
できず、たとえ開示を求められたとしても、
請求理由と関係のない資料は開示する必要はありません。
(4)開示の方法
会計帳簿等を開示する場合には、
「閲覧」または「謄写」させればよいということになります。
(会社法433条1項)
「閲覧」とは、見せること、
「謄写」とは、コピーをとらせること
をいい、コピーの費用は、請求者負担となります。
会社法上は、
請求者に、会社まで来てもらって、
見せる、または、コピーをとらせる
ということまでが求められています。
会社側でコピーをとって、送付するということまでは
法律上の義務ではありません。
(5)今後の対応
最終的には、会社側から開示するにしても、
まずは、請求の具体的理由を確認すべきでしょう。
これにより、開示の必要性があるのか、
または、拒否する理由があるのかどうかを
検討すべきです。
また、会社側の対応としては、
請求があったことを明確にしておくため、
請求の理由と開示を求める対象の資料を
記載した請求書を提出させるべきです。
なお、この請求書に、開示請求の目的として
明示された以外の目的では使用しない
ことの誓約を入れておくのもよいかと存じます。
状況としては、
会社法上の義務をどの程度まで
遵守していくべきかも含めて、
弁護士などの専門家を入れて対応した方が
ベターな案件かと思います。
よろしくお願い申し上げます。