【前提】
・A社は、子会社B社の銀行借入1億円(保証協会付)について、債務保証を行っている。
・A社は業況悪化により破産手続を開始し、借入金は保証協会により保証履行され、保証協会から銀行へ1億円支払われた。
これに伴い、保証協会からA社に対して1億円の債権者として届出があった。
(保証協会はA社及び主債務者B社に対して1億円の債権を有してる状況)
・A社は破産開始後に、スポンサーにB社株式を含め事業譲渡を行い、B社はスポンサーの下で事業を継続する。
・A社は保証協会を含む破産債権者に対し、スポンサーからの事業譲渡代金を原資として配当率30%で破産配当を行う予定。
事業譲渡代金は、譲渡対象資産・負債の内容によらず一定額とされている。
【ご質問】
1.A社の権利義務として、保証協会に対する1億円の保証債務、及びB社に対する同額の求償権を有しているという扱いで合っていますでしょうか?
2.上記が正しい場合、保証債務のうち破産配当率30%に基づき3,000万円を保証協会に弁済し、残額7,000万円は債務免除を受けるとします。
この時点でA社のB社に対する求償権は7,000万円消滅(損金化)し、3,000万円が残るという理解で合っていますでしょうか?
またB社から見れば、保証協会に対して7,000万円の債務、A社に対して3,000万円の劣後債務を負っているという理解で合っていますでしょうか?
(A社は1億円の全額を弁済できておらず、求償権3,000万円はB社に対する他の債権に劣後するという考えで合っていますでしょうか?)
3.A社の求償権残額3,000万円について、回収がまったく見込めないとします。
このまま破産手続が終結してA社が消滅した場合、B社のA社に対する債務3,000万円も消滅し、A社から免除を受けたのと同じ効果が生じるという考え方で合っていますでしょうか?
4.A社はスポンサーに求償権を譲渡することは法的に可能でしょうか?
もし可能だとすれば、破産配当を行う前にスポンサーに求償権1億円を譲渡した場合は、破産配当及び保証協会からの残額免除と同時に当該求償債権が3,000万円に減額されるかと思われます。
また破産配当及び残額免除後に残った求償権3,000万円を譲渡することも考えております。
いずれにしても、求償権3,000万円がスポンサーに引継がれるため、B社に3,000万円の債務消滅益が直ちに発生することを回避できるのではないかと思っております。
求償権の性質についてよく理解しておらず恐縮ですが、ご教示宜しくお願いいたします。
(1)ご質問および回答の結論
>1.A社の権利義務として、保証協会に対する1億円の保証債務、及びB社に対する同額の求償
>権を有しているという扱いで合っていますでしょうか?
・保証協会に対する1億円の保証債務を負っている
・B社に対しては、求償権は有していない
と考えられます。
なお、B社については、「事前」求償権という、
本来の求償権とは別の権利はありますが、
これは、ご質問の趣旨の「求償権」とは
異なるものです。
(2)回答の理由
保証協会が銀行に対して1億円の返済をしたことにより、
銀行が有していたB社への保証債務履行請求権が
保証協会に移る(法律的には「代位する」といいます)ことから、
>A社の権利義務として、保証協会に対する1億円の保証債務
があるというのはご理解のとおりです。
B社に対しての関係でいえば、
A社は、B社からから委託を受けて1億円の
銀行借入れを保証したものと思われますので、
現状では、同額につき事前求償権(民法460条)を
有していると考えられます。
事前求償権は、保証人が債務を弁済し、
主債務者に弁済した額の
返還(求償)を求めても、
資金がなければ回収できないことになり、
保証人が不利益を被ることになるため、
弁済前に、予め債務者に求償できることとして、
保証人のこのような不利益を回避するためのものです。
事前求償権は、仮にこれを行使して、
主債務者から資金を回収したとしても、
その後に、主債務者自身が債務を弁済したとすれば、
保証人は、事前求償権により回収した
資金を主債務者に返還しなければなりません。
そして、事前求償権は資産計上しない
ことになると考えられます(昭和51年12月15日東京地裁など)。
この点で、保証人が債務を弁済した後に、
主債務者に対して同額の返還を
求める事後求償権(民法459条)とは
性質が異なるものといえます。
今回問題とされている
「求償権」は、事後求償権のことと
思われますので、以後はこれを前提とします。
したがって、
>A社の権利義務として、・・・B社に対する同額の求償権を有している
というのは正確ではなく、
法律上は、事前求償権という権利を有してはいるが、
事後求償権は有していない。
したがって、現状では資産計上すべき
求償権は有していない
ということになると考えられます。
2 ご質問②
(1)ご質問および回答の結論
>2.上記が正しい場合、保証債務のうち破産配当率30%に基づき3,000万円を保証協会に弁済し、残額7,000万円は債務免除を受けるとします。
>この時点でA社のB社に対する求償権は7,000万円消滅(損金化)し、3,000万円が残るという理解で合っていますでしょうか?
求償権の7000万円の消滅はなく、保証協会への配当により、3000万円の求償権が発生するというのが正しいです。
>またB社から見れば、保証協会に対して7,000万円の債務、A社に対して3,000万円の劣後債務を負っているという理解で合っていますでしょうか?
>(A社は1億円の全額を弁済できておらず、求償権3,000万円はB社に対する他の債権に劣後するという考えで合っていますでしょうか?)
保証協会に対する部分はご指摘のとおりです。
A社に対しては、「劣後」の意味が定かではありませんが、
単純に、Aからの求償権に基づき、3000万円の返還債務を負っています。
(2)回答の理由
ご質問に順不同で回答しますが、
A社が配当により、3000万円を保証協会に弁済したとすると、
A社は、B社に対し、3000万円の事後求償権を取得します。
これに基づき、A社はB社に対して、
3000万円を請求することができます。
破産の終結決定(破産手続きの終わり)までは、
A社は、保証協会に対し、残額の7000万円の保証債務を
負っている状態です。
よって、A社は同額の「事前」求償権を、
B社に対して有しています。
ただ、事前求償権は資産計上はされませんので、
>この時点でA社のB社に対する求償権は7,000万円消滅(損金化)し、3,000万円が残るという理解で合っていますでしょうか?
というのは正確ではなく、
もともと1億円の事前求償権は資産計上されておらず、
>求償権は7,000万円消滅(損金化)
は発生しないものと考えられます。
また、
>3,000万円が残る
というのも正確ではなく、
A社が保証協会に3000万円を支払ったことにより、
A社がB社に対する3000万円の事後求償権を得た
というのが正確です。
>またB社から見れば、保証協会に対して7,000万円の債務、A社に対して3,000万円の劣後債務を負っているという理解で合っていますでしょうか?
>(A社は1億円の全額を弁済できておらず、求償権3,000万円はB社に対する他の債権に劣後するという考えで合っていますでしょうか?)
について、
いまだ弁済されていない7000万円につき、
B社が保証協会に債務を負っているのは、
ご指摘のとおりです。
また、A社が3000万円の事後求償権を得るのと連動して、
B社はA社に対して、3000万円の返還債務を負うことになります。
ただ、A社が1億円の全額を返済していないことにより、
この債務が、B社の他の債務に「劣後」するということは
ありません。
3 ご質問③
(1)ご質問
>3.A社の求償権残額3,000万円について、回収がまったく見込めないとします。
>このまま破産手続が終結してA社が消滅した場合、B社のA社に対する債務3,000万円も消滅し、A社から免除を受けたのと同じ効果が生じるという考え方で合っていますでしょうか?
(2)回答
A社のB社に対する3000万円の事後求償権は
A社にとっては資産となります。
破産管財人は、破産者に資産が残ったまま
破産手続きを終結することはしません。
資産は換価可能であれば換価して債権者に配当し、
換価不能であれば、放棄するという手続きをとります。
放棄をすれば、免除と同じ効果になりますが、
実務上は、金額が3000万円もあれば、
管財人が同債権をサービサーなど(この場合に、
売却先をスポンサーとすることはありえます。)
に売却する
ことになると考えられ(最終的には管財人の判断になりますが)、
消滅する事例はあまりないと思われます。
4 ご質問④
(1)ご質問
>4.A社はスポンサーに求償権を譲渡することは法的に可能でしょうか?
>もし可能だとすれば、破産配当を行う前にスポンサーに求償権1億円を譲渡した場合は、破産配当及び保証協会からの残額免除と同時に当該求償債権が3,000万円に減額されるかと思われます。
>また破産配当及び残額免除後に残った求償権3,000万円を譲渡することも考えております。
>いずれにしても、求償権3,000万円がスポンサーに引継がれるため、B社に3,000万円の債務消滅益が直ちに発生することを回避できるのではないかと思っております。
(2)回答
今回、考えられる処理としては、
A社が保証協会に3000万円を弁済(配当)することにより
発生する事後求償権に基づき同額をB社から回収する
または、事後求償権をサービサーまたはスポンサーなどに
債権譲渡して換金することになります。
そして、そこから得られた資金を
再度債権者への配当に回すということが
考えられます。
ご質問③のとおり、
B社への3000万円の求償権という資産を残したまま、
破産手続きを終了する(債権者(保証協会含む)への債務が
消滅する)ことはありません。
ただ、そうすると、再度保証協会に配当したものにつき、
さらにA社からB社に求償権が発生し、その後、
これの繰り返しになってしまいます。
したがって、実際は、管財人が、
このようなことにならないために、
保証協会とB社を巻き込んで、
事前に合意にすることで処理をするのではないかと
思われます。
それによって、B社側の処理も違ってくると
思いますので、破産管財人に
方針含めて確認された方がよいかと存じます。
よろしくお願い申し上げます。
もう1点追加でご質問させて頂けますでしょうか。
A社がB社の債務を保証したのはA社破産開始前、保証協会が保証履行してA社に求償してきたのが破産開始後の場合、A社の保証協会に対する債務は破産債権と開始後債権のいずれになりますでしょうか?
大変恐縮ですが宜しくお願い申し上げます。
>A社がB社の債務を保証したのはA社破産開始前、保証協会が保証履行して
>A社に求償してきたのが破産開始後の場合、A社の保証協会に対する債務は
>破産債権と開始後債権のいずれになりますでしょうか?
保証協会のA社に対する事後求償権は、
破産債権となると考えられます。
2 回答の理由
「破産債権」とは、破産者に対して、
「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」
をいいます(破産法2条5項)。
保証協会は、銀行に対し、
保証契約に基づき弁済したことにより、
保証協会は、A社に対する事後求償権を
取得することになります(民法465条1項、442条1項)。
保証協会と銀行との保証契約は、
A社の破産手続開始前に行われているため、
保証協会が、銀行に弁済したのが
破産手続開始後であったとしても、
A社に対する事後求償権は、
「破産手続開始前の原因に基づいて」
生じた財産上の請求権にあたるといえ、
破産債権になると考えられます。
なお、全く同じ事案ではありませんが、
主債務者が破産した場合において、
破産開始前に保証契約を締結していた保証人が、
破産開始後に、債権者に弁済をした事案で、
保証人と債権者との保証契約が、破産開始前に
締結されていたことを理由として、
破産開始後に弁済したことにより、
保証人が主債務者に対して取得する事後求償権が、
破産債権にあたると判断した判例があります。
(最高裁判例平成24年5月28日)
今回もこれと同様の結論になると考えてよいと思います。
よろしくお願い申し上げます。