交渉の結果、先方より、毎月1万円30回払いします、との連絡が有りましたが、
これでは、回収期間が長すぎます。
一般論として、
・新規顧客との取引開始時の注意事項
・滞留債権への対処方法
について、ご教示の程お願い致します。
長文になってしまいますが、
ご容赦ください。
1 ご質問①
(1)ご質問
>一般論として、
>新規顧客との取引開始時の注意事項
>について、ご教示の程お願い致します。
(2)回答
ア 新規顧客の財務状況の確認
滞納債権を発生させないためには、
新規顧客との取引開始時に、
信用できる取引先か
(経営基盤や財務基盤がしっかりしているか)
を見極めることが大切です。
これがなかなか難しいのですが、
一応、以下の方法が考えられます。
①契約締結前の取引先の社長や担当者とのやりとりの中から情報を探る
②民間調査会社の調査やデータベースを利用する
③取引先から決算書類を提示してもらう
①については、通常行って
いらっしゃるでしょうし、
そもそも、この方法により
確実な判断は難しいです。
何らか違和感を感じる
ようなことがあれば、
取引を控えるという程度の判断基準に
なろうかと思います。
②については、ある程度
確度の高い情報が得られる可能性
がありますが、難点としては
費用がかかることかと思います。
取引額が大きい場合や、
ちょっと引っかかる点があり、
取引を行うかどうかを迷う
というような取引先の場合には、
これを利用するのも、一案だと思います。
③については、情報としては、
確度が高いですが、
これを求めるのはなかなか
ハードルが高いと思います。
私の感覚としてはですが、
ここまでやるケースはあまり
ないかなと思われます。
大企業が中小企業と
取引をする際には、このような書類まで
提示させることもあるという
イメージです。
相手にも分からず、ある程度
確度の高い情報を得たいということであれば、
費用はかかりますが、②の調査を
利用するのがよいのではないかと思います。
(調査が入る時期により、新規に
取引を開始しようとしている
特定の会社が調査依頼をかけたということが
勘付かれてしまう可能性はありますが)
なお、上場している大企業であれば、
公表されている決算情報・IR情報
などにより、財務情報の入手は容易です。
(そもそも、この場合調査は不要かと
思います。契約書で一方的に不利になら
ないようにすることがメインでしょう。)
イ その他滞納債権を最小限に抑えるための方策
相手があまり信用できない取引先であれば
滞納額を少なくする方法として、
・売掛を前払にする
・後払いにするとしても、できるだけ支払サイトを短くする
ということも考えてよいと思います。
また、継続的に取引をする取引先であれば、
基本契約(今後の取引条件を包括的に
決めておく契約)を結び、
その中で、支払いを怠った場合には、
今後の商品の出荷を停止できる
という条項を入れておくことも
効果的です。
そうすれば、未回収の支払いを最小限に
抑えることができますし、
商品を出荷してほしい取引先は、
支払いをするインセンティブにもなる
という効果もあります。
取引先があまり信用できないということであれば、
未回収リスクを最小限に抑えるため、
このような方策も検討すべきでしょう。
2 ご質問②
(1)ご質問
>一般論として、
>・滞留債権への対処方法
>について、ご教示の程お願い致します。
(2)回答
一般論として、
滞納している債権を取り立てる方法は、
大きく分けて、
①内容証明郵便の送付
②支払督促の手続
③裁判手続
の3つがあります。
ア ①内容証明郵便の送付
まずは、内容証明郵便により、
相手に対して滞納している債権の請求を
する方法が考えられます。
内容証明郵便は、相手に
「このままではマズイことになる」と
いう心理的なプレッシャーを与え、
こちらの請求に対応するよう
促すという心理的な効果があります。
相手にもよりますが、通常の文書より、
請求に応じる確率は上がると思います。
また、内容証明を弁護士から
送ることで、心理的なプレッシャーを
与える効果は増しますので、
これを利用するのも一案です。
イ ②支払督促
(ア)支払督促制度の内容
支払督促とは、裁判所から債務者に
対して督促状を送付してくれる制度です。
そして、督促状が相手に届いてから
2週間経過しても債務者側から異議が
出されない場合、一定の手続は必要ですが、
その後強制執行をすることができるようになる
という強制力もあります。
ポイントは、こちらの言い分に基づいて、
裁判所での審理をすることなく
督促状を送ってくれ、相手方から
異議が出されない場合には、
こちらの言い分が通るという点です。
一方、債務者から期間内に異議が
申し立てられれば、自動的に
訴訟手続に移行することになり、
その後、訴訟での対応をしないと
いけなくなります。
(イ)支払督促のメリット・デメリット
支払督促のメリットとしては
以下のようなものが挙げられます。
・ 裁判所へ出向く必要がないので、日程をとられない
・ 証拠の提出や証明が不要なので、専門的な知識がなくても手続を行うことが可能
・ 手続自体が、訴訟よりも簡単で利用しやすい
一方、デメリットとしては
以下のようなものがあります。
・ 相手が異議を出した場合、自動的に訴訟に移行してしまうため、訴訟を起こすかどうかや起こすタイミングをこちらで決めることができない
・ 相手が異議を出すことが確実であれば、支払督促の手続は無駄に終わってしまう
(ウ)申立ての手続
○管轄裁判所
支払督促の申立先は、
相手の住所地を管轄する簡易裁判所です。
○申立ての方法
裁判所に支払督促の申立書を
提出する必要があります。
以下のURLに裁判所が出している
ひな形が載っていますので、
ご参考になさってください。
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_siharai_tokusoku/siharai_tokusoku/index.html
○申立てにかかる費用
裁判所への申立ての手数料は、
請求する売掛金の金額に
よって異なります。
たとえば、
請求額が30万円の場合には1,500円、
請求額が100万円の場合には5,000円です。
その他、債務者に申立書を
送付する郵送料など、
数千円がかかります。
ウ ③通常の裁判
通常の裁判を起こして
取立てをするものです。
裁判の中で、法的な主張や証拠を
揃えて提出する必要があるため、
専門的知識が必要になります。
債権者自身で行うのはなかなか難しいかと思います。
エ 手段の選択について
通常は、まず①の内容証明郵便の送付を行います。
それでも相手の反応がなく、支払いも
なされないという場合には、
②支払督促か、③裁判手続のどちらに
進むというのが、
債権回収の方法としては一般的です。
一般の方が③裁判手続を行われることは
難しいと思いますので、
本人が行われるのであれば、
②支払督促になるかと思います。
(ただ、相手方が異議を述べれば、
③裁判手続に自動的に移行する
ことになりますが)
弁護士が行うのであれば、
②支払督促を行い、異議が出れば③裁判手続
というのは、手続として遅いので、
②は基本的に行いません。
①内容証明でダメなら、
いきなり③裁判手続をやります。
そして、いずれかの段階で、
相手が減額を求めてきたり、
分割の支払いなどを希望してきた場合には、
相手の支払能力も考慮して、
和解に応じ、あらためて、支払の合意書を
締結することもあります。
裁判ではない手続の中で、
支払の合意書を締結するのであれば、
公正証書にしておくこともあります。
公正証書の中に、支払いが滞った場合には、
強制執行を受けることを許容する
という文言(「強制執行認諾文言」といいます)を
入れておくことで、
次に支払いが滞った場合には、
裁判を経ることなく、
相手の預金、債権、不動産などの
財産を差し押さえることができる
という強力な効果があるからです。
また、一般的には、本人が各手続を行うより、
弁護士が行った方が、相手が支払いに
応じてくる可能性は高いので、
滞納している債権の金額にもよりますが、
いずれかの段階で、弁護士に依頼される方が
よいケースも多いです。
よろしくお願い申し上げます。