破産手続開始決定を受けた後は、B社は、破産管財人の管理下に置かれるという理解ですが、80%の株式を所有するA社はB社に対して、どのような権利を有しているのでしょうか?(特に、②に関連して、議決権等B社を支配するための権利を有しているのか)
②①に関連し、B社株式はA社にとって、企業支配株式等に該当し、法人税基本通達9-1-15に従い、企業支配に係る対価の額を加味して評価損の計上をする必要があるかについても、可能であれば、ご意見いただければ幸いです(事実上、破産手続開始決定を受けた時点で、株主としての残余財産の分配も全く見込まれない状況ですし、A社はB社の財産等に対して口を出すこともできないような状況ですので、企業支配の対価がB社の増資引受時に仮にあったとしても、B社に対する支配権が消滅しているのであれば、税務上通達9-1-15に従い企業支配の対価が存在するものとした評価損の計上をする必要はないのではと思っております)。
よろしくお願いいたします。
(1)ご質問
>①A社がその株式の80%を所有する子会社B社が、破産手続開始決定を
>受けました(A社は、破産手続開始決定の半年前に、B社の増資を引受
>け、初めて株主になりました)。
>破産手続開始決定を受けた後は、B社は、破産管財人の管理下に置か
>れるという理解ですが、80%の株式を所有するA社はB社に対して、ど
>のような権利を有しているのでしょうか?(特に、②に関連して、議
>決権等B社を支配するための権利を有しているのか)
(2)回答
ア 即時抗告の可否
まず、一般的な株主の権利の前に、
破産開始決定に対して、株主が
これを取り消すよう申立て(即時抗告)
をすることができるかどうか、
という問題があります。
即時抗告は、破産法33条1項で認められる
もので、株主が行うことができるかどうか
につき、見解が分かれているところです。
ただ、これを認めないとした裁判例もあり、
実務的には、認められない
と考えられています。
イ 株主の権利
会社の破産開始決定があっても、
基本的には、株主の権利に
変動はありません。
株主総会における議決権を行使
することも可能です。
ただし、会社は、破産手続開始決定を
受けた時点で解散し(会社法471条5号)、
その権利能力は、破産手続による
清算の目的の範囲内に制限されます(破産法35条)。
すなわち、事業を継続することはできません。
(例外的に、破産管財人が、裁判所の許可を得て、
行う場合はあります(破産法36条))
また、基本的に、破産手続開始のときに、
会社が有していた預金、不動産、動産、
債権などのすべての財産の管理処分権限が、
破産管財人に委ねられます(破産法78条1項)。
破産開始決定後も、取締役などの会社の機関は、
そのまま残りますが、上記のとおり、
事業の継続もできないですし、
破産管財人に委ねられた財産の
管理処分などもできません。
会社自身が行うことができるのは、
財産にかかわらない
会社組織に関する内部的な行為や、
破産手続中に特別に認められている行為
(破産管財人の換価処分への意見陳述等)
などにとどまります。
したがって、株主であるA社は、
議決権を通じて、B社を支配する
ための権利は留保していますが、
そもそも、破産手続中においては、
「B社が行うことができる行為」自体が
著しく制限されていることから、
あまり意味を持たない
ということになります。
また、株主であるA社は、
残余財産の分配を受けることができますが、
これは債権者に残余財産を配当した後に
余りがあれば、ということなので、
株主に分配される可能性はほぼゼロに近いです。
まとめると、株主は、
形式的な権利は留保していますが、
実際のその価値はほとんどなくなっている
といえると思います。
2 ご質問②
(1)ご質問
>①に関連し、B社株式はA社にとって、企業支配株式等に該当し、
>法人税基本通達9-1-15に従い、
>企業支配に係る対価の額を加味して評価損の計上をする必要があるかについても、可能であれば、ご意見いただければ幸いです(事実
>上、破産手続開始決定を受けた時点で、株主としての残余財産の分配も全く見込まれない状況ですし、
>A社はB社の財産等に対して口を出すこともできないような状況ですので、企業支配の対価がB社の増資引受時に仮にあったとして
>も、B社に対する支配権が消滅しているのであれば、税務上通達9-1-15に従
>い企業支配の対価が存在するものとした評価損の計上をする必要はないのではと思っております)。
上記の通り、
破産手続開始決定の時点で、
実態としては、ほとんど支配権
の中身はないことや通達の趣旨から
経営支配の継続はないとして、
個人的には、実態を重視し、
先生と同じような考えて
良いのではないかという意見です。
調査で指摘されれば、
「1ご質問①」の回答を前提に
反論することで十分戦えるかと思います。
ただし、評価損(評価の低減)は、
例外的な事象であり、裁判などでも
形式が重視されやすい類型です。
そして、上記の通り、
「廃止又は終結決定」が
あるまでは、形式的にはあくまでも従前と変動が
あるわけではなく議決権を有している
状態になっていますので、そちらを
重視されるという可能性は比較的残る部分です。
この部分は、最後は依頼者さまにご説明の上
意思決定していただくしかない領域かと思います。
なお、
貸倒れについてのものになりますが、
破産手続に関連する裁決として、
http://www.kfs.go.jp/service/JP/75/21/index.html
があります。
3ー(2)の中に
廃止決定または終結決定
があった際に、法人格が消滅し、
その時点で、債権が法的に消滅すると
として、貸倒計上時期になりますが、
「破産の手続の終結前であっても
破産管財人から配当金額が零円であることの
証明がある場合や、その証明が受けられない場合
であっても債務者の資産の処分が終了し、
今後の回収が見込まれないまま破産終結までに相当な
期間がかかるときは、破産終結決定前であっても配当が
ないことが明らかな場合は、
法人税基本通達9-6-2を適用し、貸倒損失として損金経理を行い、
損金の額に算入することも認められる。」
とされています(理論上は当然ですが)。
こちらも、あくまでも例外的な位置づけで書かれて
いますが、実態があれば、計上を前倒しできることは認め
られていますので、ご参考になさってください。