税理士法

税理士と行政書士が税務と会計業務を分担して協業する場合の注意点

先日、ある行政書士事務所から下記のご提案がありました。
行政書士事務所が会社を見つけてきて、
会計について行政書士事務所がその会社と契約し、
税務について税理士事務所がその会社と契約するということです。
具体的には、行政書士事務所が原始証憑を見て仕訳のCSVデータを作成して弊社に送信し、
弊社が仕訳のCSVデータに基づいて税務書類を作成し税務代理を行うということです。
弊社が原始証憑を見ないことになります。

そこで、税理士法および基本通達には下記の規定があります。

税理士法
(脱税相談等をした場合の懲戒)
第四十五条 財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は第三十六条の規定に違反する行為をしたときは、二年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる。
2 財務大臣は、税理士が、相当の注意を怠り、前項に規定する行為をしたときは、戒告又は二年以内の税理士業務の停止の処分をすることができる。
(一般の懲戒)

税理士法基本通達
第45条《脱税相談等をした場合の懲戒》関係
(故意)
45-1 法第45条第1項に規定する「故意」とは、事実に反し又は反するおそれがあると認識して行うことをいうものとする。
(相当の注意)
45-2 法第45条第2項に規定する「相当の注意を怠り」とは、税理士が職業専門家としての知識経験に基づき通常その結果の発生を予見し得るにもかかわらず、予見し得なかったことをいうものとする。

税理士事務所が原始証憑を見ないで、仕訳のCSVデータのみに基づいて税務代理若しくは税務書類の作成することは上記の 「相当の注意を怠り」
に抵触する可能性があるのでしょうか?

また、どのような形であれば税理士事務所と行政書士事務所が合法的に税務と会計業務を分担して協業できるのでしょうか?

どうぞよろしくお願いいたします。

1 ご質問①

>税理士事務所が原始証憑を見ないで、
>仕訳のCSVデータのみに基づいて税務代理若しくは税務書類の作成することは上記の 「相当
>の注意を怠り」
>に抵触する可能性があるのでしょうか?

まず、今回の

>会計について行政書士事務所が
>税務について税理士事務所が

という方法ですが、

「税理士法45条2項の関係」で考えると

税理士の先生が、自計化している
会社さまの申告業務を請け負うことと
同様です(契約書には記帳代行をしない旨
必ず御記載ください)。

ですので、すべての原始証憑をチェック
する必要は必ずしもありません。

ただし、
「相当の注意を怠り」

は、事案に応じた判断になります。

仮に契約書で記帳代行はしないとしていたとしても、

明らかにおかしい部分(例:不動産賃貸業であるにもかかわらず、権利金の収入がない等)
や税理士として誤りなどに気づくべき事項(これは個別に判断されるものになって
しまいますが)については、
善管注意義務の範囲として、事実を調査・確認する義務
があるということになりますので、

このような事項について、
事実の調査・確認をせずに仕訳のCSVデータのみ
に基づいて税務代理若しくは税務書類の作成して
いたということになると、

「相当の注意を怠り」ということになるかと
思います。

現実的なラインでいうと、
自計化しているお客様と同程度には、
原始証憑を確認することは必要ということです。

また、当然依頼者は、会社になりますので、
気になる点があれば、
行政書士法人ではなく、直接会社に
しっかりと確認・指導する
必要があります。

2 ご質問②

>どのような形であれば税理士事務所と行政書士事務所が
>合法的に税務と会計業務を分担して
>協業できるのでしょうか?

ご質問にいただいていた税理士法45条は、
あくまでにも
真正ではない申告書などを作成してしまったという
ケースについての責任を定めたもので、協業について
適法・違法を定めるものではありません。

どちらかというと、このようなケースでは、
税理士法上の「名義貸し」規制や各税理士会規則の
提携規制に違反しないかが重要なポイントになるかと
思います。

事案は異なりますが、一般論は
私のこちらの記事
https://zeirishi-law.com/zeirishihou/meigigashi/1
に記載がありますので、ご確認ください。

今回の例でいうと、

形式的には、
契約「書」の記載が税務については税理士の先生
となっていたとしても、

実態として、会社と税理士の先生の間に契約関係
がある(つまり、実態として行政書士事務所の下請け
ではない)と言える関係性が必要になります。

特に会計業務は税務とは切っても切れない
関係にあり、目をつけられやすいので、
注意してください。

一般的な対策としては、

①報酬は、直接依頼者から受け取る
②依頼者と直接契約書を締結する
③受任前に依頼者と面談(スカイプなどでも可)する
④会計データも依頼者から直接受け取る
⑤税務相談や申告書の確認などは、直接依頼者とやりとりし、間に行政書士法人を通さない(情報を共有する場合には、依頼者も入る形で行う。)。

などが挙げられます。

今回は、①、②については問題ないと思います。

③及び⑤は、実態を整備するためには
必須かと思います。特に⑤がなければ、
説明義務など、
税理士の先生の義務を果たしたことに
なりません。行政書士法人は依頼者では
ないからです。

④についても、リスクをヘッジするという意味では
直接会社から受け取った方が良いです。

ただ、それだと協業自体の意味がないという
ことですと、
リスクがある前提で行政書士法人から
受け取るという意思決定もあるかとは思います。
特に④自体は、他の要素と比べて重点は低いです。

その際には、行政書士法人のみとやりとり
するのではなく、データで共有であれば、
会社からも把握できる形(メールであれば、Ccに入れるなど)
で行うことで、会社のデータ共有の事務のみを行政書士法人が
会社からお願いされて行っているという説明
(あくまでに主体は会社)はしやすいかと思います。

よろしくお願い申し上げます。